理科好きの子供にするにはどうすれば良いのでしょうか?

小学校で理科を教えていて痛感するのは、体験の有無が決定的な差を生むということです。

理科といってもいろいろな分野がありますが、ここでは、小学校3年生で学習する昆虫のことで考えてみましょう。

学習指導要領によりますと、小学校3年生で学習する昆虫の勉強内容は次のようなものです。

「昆虫の育ち方には一定の順序があり,その体は頭,胸及び腹からできていること。
 昆虫には植物を食べたり,それをすみかにしたりして生きているものがいること。」

このような内容を実現するために、実際の授業ではどのようなことをするのでしょうか?
大体の流れを書いてみます。

1 実際に昆虫を飼ってみます。子供たちそれぞれが思い思いの昆虫を飼ったり、学級で何か決めたものを飼うこともあります。
2 飼っている昆虫を観察して絵を描いたり、気付いたことを文章に書いたりします。
3 昆虫の体の部分の名前、餌、育て方、すみかの作り方、成長過程などを本やインターネットで調べます。

大体このような流れで授業は進みますが、子供の意欲には大きな差があります。
意欲が高く、やる気満々の子は、やはり今まで昆虫を飼った経験が豊富にある子です。
生活科の授業が1,2年で行われるようになってからは、全く昆虫を飼ったことがないまま小学校3年生の昆虫の授業を受けるということはなくなりました。
ですが、いざ小学校3年生で昆虫の授業をやってみると、依然として子供たちの意欲には大きな差があります。

それは、極論を恐れずに言えば、豊かな経験をしているかそれとも一応の経験をしているだけなのかという差です。
生活科の授業でやっただけでは、豊かな経験とは言えないのです。
それは、同じクラスの誰もがする程度の経験であって、豊かな経験とは言えません。
生活科の時間も限られていますし、その中で昆虫飼育にかけられる時間はもっと限られています。

ぜひ、子供に家で昆虫飼育の経験をさせてやってください。
自分の家でいろいろな昆虫を飼ったことがある子は、そうでない子に比べて授業での意欲は全く違ってきます。
もう夢中になって取り組みます。
大好きな昆虫の勉強なのですから、当然です。
それがきっかけになって「理科って楽しい勉強だな。」と思うようになります。

ですが、経験が乏しくあまり昆虫に興味を持っていない子はそうはいきません。
特に女の子にはこういう傾向が見られます。
こういう子の多くは食わず嫌いで虫が嫌いですから、3年生の昆虫の学習には全く興味を持てません。
それがきっかけになって、「わたし、理科が嫌いみたい・・・」と思ってしまう子もいます。
理科は小学校3年生で初めて学ぶ教科ですし、昆虫の勉強はその最初の方にあります。
ですから、この最初の思いこみが結構後を引きます。

休日などに、ぜひ、子供と一緒に昆虫採集に行ってみてください。
それが無理なら、どこかで昆虫と飼育セットを買っても良いと思います。
何もやらないよりは、はるかにましですから。

さらに、できることなら、子供だけに任せず親子で一緒に飼うというようにするといいと思います。
なぜなら、経験不足の子供の飼育ではせっかくの昆虫がすぐ死んでしまうからです。
親が一緒に飼って、少しでも長く生きさせてやる方が良いと思います。
そして、だんだんやり方が分かってきたら親の手を少なくしていくというのがコツです。
せっかく昆虫と飼育セットを用意して飼い始めても、子供だけの力ではなかなか長生きさせることができません。
2,3日一生懸命面倒を見て、その後、興味は他のものに移って放ったらかしにしてしまうということも良くあることです。
それで親に怒られて、昆虫飼育に自信をなくすというのでは、全くの逆効果です。

親子で昆虫を一緒に飼うことで得られるものは、他にもいろいろあります。

まず、親子のコミュニケーションという点でも、とてもいいものです。
このことは、いつか詳しく書きたいと思います。
さらに、次のようなことも考えられます。

昆虫というものは、全く魅力的な存在です。
あんなに小さいくせに、実に良くできています。
上手に触覚や口を動かし、巧みに手足を操り、羽を駆使して動き回り飛び回ります。
どれもこれも個性的な動きで、中にはとてもコミカルな動きをするものもあります。
そして、それぞれの中に神秘的な美しさを秘めています。

このような昆虫に接しているとき、命、生、存在の不思議と神秘を思わずにはいられません。
子供たちも、言葉には出さなくとも、それを感じているはずです。
そのような経験が子供の情操を豊かにし、自然や生命への崇敬の念を養い、それらへの探求心をも育てるのです。

それがないのにも関わらず、ただ理科の勉強だからといって、昆虫の足は8本だとか、どの昆虫が完全変態でどの昆虫が不完全変態だとか覚えてみても、意味がないことだと思います。
それは、決して本当の知識にはなりません。
豊かな経験がないところで、頭だけに詰め込んでも本物にはなりません。
それはどの勉強にも言えることですが、特に理科ではそれを強く感じます。

昆虫飼育は、理科好きの子を育てる第一歩です。
昆虫の不思議な魅力は大人をも引きつけますが、それ以上に、この世に生まれて間もない子供たちにとって、昆虫は魅力的なのです。

大人は、いろいろなものに自然の魅力を感じます。
春の新緑の輝き、秋の紅葉やすすきの美しさ、夏の青い海のすがすがしさ、冬枯れの情景・・・
ですが、子供たちにとっては、昆虫のおもしろさに勝るものはありません。
ですから、子供たちにとって、昆虫は自然世界の親善大使と言っていいと思います。
魅力的で、面白くて、美しくて、不思議な昆虫に親しむことは、子供たちが自分たちを生かし、包み込んでくれている大自然に親しむための第一歩なのです。

今回は、メールによる読者からの投稿をご紹介いたします。

以下投稿===================================

こんにちは
楽しく拝見させていただいております。

>小学校で理科を教えていて痛感するのは、体験の有無が決定的な差を生むということです。

体験というキーワードに共感して出てきました。
以前、メールさせていただきましたネイチャーゲーム指導員の勝又です。
わたしが指導員になろうと思ったきっかけも実は子供に自然体験を提供したいからです。

流れに乗ってお受験のための教室に子供を通わせてみたのですが、こんな小さい子に知識を詰め込んでも無駄なんじゃないの?
どうせ試験が終わったら忘れちゃうのでは?と思いました。

まずは体験してみて自ら興味を持ったものを自らの意思で覚えて欲しいなぁ~と願っています。
そのために親ができることは体験の場を提供することだ!なんて思っているのです。」

以上投稿===================================

私もこの投稿に全く賛成です。

私も以前ネイチャーゲームを体験しましたが、楽しみながら、ゲームをしながら自然体験できるところがそのすばらしさです。
ほんのちょっとした工夫で、いつもは見過ごしていた自然の秘められた魅力に接することができます。
お金もかからず、手軽にできます。

聴診器で木の中の水の流れを聞いたときは、感動しました。
梨畑で蝉の抜け殻集め競争をしたときは、興奮しました。
このような体験を、たくさん子供たちにさせたいですね。

そこから、理科好きの第一歩が始まるのだと思います。
自然や命を大切に思う気持ち、環境を守ろうとする気持ちの、第一歩が始まるのだと思います。

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