みなさんは、わが子のいいところを100個書き出せますか?
こう言うと、「え~っ!ムリ、ムリ」という声が聞こえてきそうですね。
でも、一度、ムリにでも100個書き出してみることをおすすめします。
そうすると、今まで見えなかったことがいろいろと見えてきます。
私はこれを懇談会でやったことがありますが、とてもおもしろかったです。
参加してくれた人たちも、最初は乗り気でありませんでしたが、最終的にはとても喜んでくれました。
やり方は、こうです。
まず、懇談会のはじめに、私は子どもをほめることの大切さを話しました。
次に、「実際に子どもをほめられるように、子どものいいところを100個書き出してみましょう」と言いました。
それに対する反応は、「え~っ!ムリ、ムリ」とか「10個もないよ」などという声がほとんどでした。
でも、紙が配られたので、みんな一応書き始めました。
この段階では、たとえば次のようなことが書かれていました。
・計算が速くできる。
・習字が上手。
・ピアノが好きでがんばって練習している。
・サッカーをがんばっている。
・自分で次の日の仕度ができる。
・宿題を忘れないでやれる。
・整理整頓がうまい。
・お茶碗を洗ってくれる。
・玄関掃除を続けている。
・妹に優しい。
見ておわかりのとおり、これらは、すべて、親にとってほめやすいことばかりです。
書き始めてしばらくして、これらのことが書き終わると、みんな書くスピードが遅くなります。
この段階で、多い人で10個くらい、少ない人になると2,3個です。
そこで、私は次のように言いました。
「これらは、すべて、親であるみなさんが子どもに求める姿そのものですね。
親の価値観に合っていて、親に都合がよくて、親にとってほめやすいことばかりです。
でも、子どものいいところって、本当にそれだけでしょうか?
自分の価値観にとらわれないで、もっと子どもを多面的に見てみましょう。
親の価値観に合っていなくても、親にとって都合が悪いことでも、くだらなく見えても、実は子どもが生きていく上で力になりそうなことがもっといっぱいあるはずです。
それらをすべて書き出してみましょう」
そうすると、次のようなことが書かれるようになりました。
・自分がイヤことは、親にもはっきりイヤと言える。(イヤとなったら、てこでも動かない)
・自分がやりたいことには、すごく熱中できる。
・お笑い芸人の真似がうまい。
・床どころか地面に落ちた物でも平気で食べるたくましさ。
・あつかましいというか、いい意味でずうずうしい。
・犬みたいに疲れを知らない。
・よく笑う。
・背が高い。
・イヤなことは忘れる。
・甘えるのが上手。
・虫を捕まえるのがうまい。
・ほかの子と違うことをやりたがる。
これらは、たしかに親が求める姿ではないかもしれません。
でも、実は子どもが生きていく上で力になることばかりです。
そして、しばらくすると、また、書くことの見つからない人が多くなりました。
100個書くのは、なかなかたいへんです。
それで、また、私が次のようなことを言いました。
「では、ここで子どものいいところを見つけるための特別な技をご紹介します。
それは、言い換え法です。
別名、短所言い換え法です。
短所言い換え法とは、文字通り、子どもの短所を言い換えて、長所としてとらえ直す方法です。
たとえば、やるべき事を後回しにして間際にならないとやらない子がいるとします。
それは、ある意味、「神経が太くて度胸がいい」ということでもあるのです。
ノートの字や仕事が雑というのは、「細かいことにこだわらない」ということでもあります。
積極的に発表しないというのは、「慎重で軽はずみなことはしない」ということでもあるわけです。
実際、短所と長所は紙一重であり、短所と長所は同じコインの裏と表なのです。
ですから、一つの特徴に対する評価が、見る人の価値観によって大きく違ってくるということはよくあることなのです。
それに、今の時点で親には短所に見えることでも、その子が長い一生を生きていく上では、すばらしい長所であるかもしれないのです」
この短所言い換え法によって、次のようなことが書かれるようになりました。
・叱られてもすぐ忘れて復活する回復力。
・宿題をやってなくても平気で遊んでいられる度胸。
・寝る間際に宿題をやるときの集中力がすごい。
・宿題は最低限の時間と労力で終わらせて、やりたいことに時間とエネルギーをかける。時間の使い方がうまいのかも。
・やりたくないことをやらなくてすませる技がすごい。
・友達がいなくても平気。一人でいても苦にならない。
・片付いていなくても必要なものの在りかがわかる。
・忘れ物をしても困らないで、友達に借りたりして何とかできる。
・勉強ができなくても、毎日楽しく生きている楽天的なところ。
・何事も遅くて、ビリになっても焦らない。このマイペースと大らかさはすごい。
・お便りがくしゃくしゃになってても平気で親に手渡す、これは信頼感?神経が太い?
これを書いているとき、みんなとても楽しそうでした。
なんといっても、日頃から子どもの短所はイヤと言うほど意識しています。
発想を転換してそれを別の角度から見てみるのは、親にとってとても新鮮なことだったようです。
書きながら「う~ん、本当にこれでいいのかな」と思いつつも、わが子について新しい発見がたくさんあったようです。
先ほど、「今の時点で親には短所に見えることでも、その子が長い一生を生きていく上では、すばらしい長所であるかもしれない」と書きましたが、こういうことは実際にたくさんあるのです。
たとえば、「宿題は最低限の時間と労力で終わらせて、やりたいことに時間とエネルギーをかける」というのもそうです。
親としては、「宿題はやればいいというものではない。内容が身につくようにもっとしっかり宿題をやって欲しい。できたら、宿題以外にも余分に勉強して欲しい」と思うかもしれません。
でも、こういう長所!のある子は、大人になってからも自分のやりたいことをどんどん見つけて主体的に生きていくことができるのです。
仕事に就いても、仕事の中に自分なりの楽しみを作り出していけるのです。
この反対に、「今の時点で親には長所に見えることでも、その子が長い一生を生きていく上では、もしかしたら短所かもしれない」というものもあるのです。
たとえば、多くの親は「言われたことや決められたことをきちんとやれる子」になって欲しいと願っていますが、これがその子にとっての長所とは限らないのです。
こういう子は、まじめすぎて手が抜けない、適当さがなくて煮詰まる、神経質になり過ぎる、人の目や周りの意見を気にし過ぎる、自分で自分を縛ってしまう、適度なわがままが言えない、自分のやりたいことができない、自分の人生を思いのままに展開できない、などということになる可能性もあるのです。
つまり、素直すぎて大人の言いなりになってくれる子よりも、言うことを聞かない子や親の思うようにならない子の方がいいのかもしれないのです。
親にとっての長所が、必ずしも子ども本人にとっての長所とは限りません。
親にとっての短所が、必ずしも子ども本人にとっての短所とは限りません。
というわけで、親は自分に都合のいいことばかりを長所と考えないことが大切です。
短所に見えることも、ただ親であるあなたにそう見えるだけのことかもしれません。
あなたの価値観やあなたの都合という色眼鏡を通しているから、そう見えるのです。
ぜひ、それを別の角度から見てみてください。
新しい角度から、その子の長所、いいところ、秘められた宝を見つけ出してください。
そして、それをうまくほめてやってください。
ただし、嫌みに聞こえるような言い方にならないようにしてください。
言い換え法で見つけた長所をほめるときに、つい嫌みな言い方になってしまったという報告もありましたので、気をつけてください。
心を込めてほめることが大切です。
さて、しばらくすると、また、書くことの見つからない人が多くなりました。
100個書くのは、本当にたいへんです。
それで、また、私が次のようなことを言いました。
「では、ここで、子どものいいところを見つけるための特別な技をもう1つご紹介します。
それは、一歩下がり法です。
一歩下がり法とは、親の目からはできて当たり前と思っていることを、一歩下がって長所としてとらえ直す方法です。
いつもはできて当たり前と思っていることでも、よくよく考えてみると、実は本当にすばらしいことであり、ありがたいことなのです。
たとえば、ある親は、「ノートの字が雑で困る。もっと丁寧に書いてもらいたい」と思っています。
ですから、「もっと丁寧に書きなさい」ということは言います。
でも、実は、雑とはいっても、字が書けるということはそれだけですばらしいことなのです。
字が書けるのは当たり前と思いこんでいるから、それが長所に見えないのです。
どうですか、みなさん?
わが子が字が書けるということは、本当にすばらしいことであり、ありがたいことだと思いませんか?
ですから、「雑だけど、一応字が書ける」とか「字が書ける」などという当たり前のことも、ぜひ、その紙に書いてください」
この一歩下がり法によって、次のようなことが書かれるようになりました。
・毎日元気ですばらしい。
・とにかく今日も生きてくれている。
・おしゃべりができる(うるさいくらい)
・テストができなくても、ちゃんと親に手渡すのが偉い。
・よく眠れて不眠症とは無縁。
・ガツガツよく食べる。
・自分で着替えられる。
・自分でトイレに行ける。
・手と足と口がよく動く。
・友達と遊べる。
・毎日学校に行ってくれるのがありがたい。
・日本語が話せる
・ひらがなが全部書ける
・九九ができる
これらのことは、すべて、もともとその子が持っている長所でありいいところです。
でも、親にはそれが見えていませんでした。
というのも、親が自分で勝手に前に進み過ぎていたからです。
親は、1つには自分の価値観にとらわれることで、もう1つにはほかの子と比べることで、どんどん前に進みがちです。
そして、自分で勝手に描いた「こうあって欲しい」というイメージをもとに、子どもを見るようになります。
(これを「親の願い」と呼ん読んでいる人もいますが、実は「親の欲」でもあるのです。
「欲は苦の種」というのは、まさに真実です)
子どもの立場に立ってみれば、これはとても迷惑なことです。
自分のあずかり知らないところで勝手にイメージがつくられて、それを基準に「ダメだ。ダメだ」と言われるのですから。
そして、できることは「できて当たり前」ということで片づけられてしまうのですから。
一歩下がり法とは、親が勝手に進みすぎていた分を戻るだけのことです。
そうすれば、今のありのままの子どもが持っているよさが見えてきます。
今のありのままの子どもが、実は本当にすばらしいということがわかるようになります。
そして、そのありがたさに気づいた日、あなたは感謝の気持ちに満たされることでしょう。
一歩下がり法によって、今のありのままの子どもを受け入れ、今あるよさを認め、ほめることを増やしてあげてください。
たとえば、元気だけが取り柄という子も、大いにほめてあげてください。
「毎日元気いっぱいでいいね。○○を見ていると元気をもらえるよ」「○○はみんなに元気のエネルギーをわけてくれてるね」というように、心を込めてほめてあげてください。
子どもはとても喜ぶと思いますよ。
一歩下がり法を常に意識していると、親の精神衛生の上でもいいことがあります。
以前だったらがみがみ叱りたくなるようなことも、「まあ、いいか・・・」と思えるようになるのです。
そして、子どものことだけでなく、他の人のことも、そして、誰よりも自分のことを許せるようになります。
さて、このように、100個を目指して書いてもらったわけですが、その場で100個書けた人はいませんでした。
一番多い人で50個くらいでした。
それで、「残りはその学年の残り3ヶ月で見つけて書いてください」と言いました。
私も、もともとその場で100個書けるとは思っていませんでしたし、親が子どものいいところを見つけるきっかけになればそれでいいのです。
そして、これは、とてもいいきっかけになったようです。
その後、絡帳などで次のような感想が寄せられました。
・ほめるネタがたくさん見つかってよかったです。これなら実際にほめられそうです。
・今までまったく見ていなかったところにも、子どものよさがたくさんあることがわかりました。
・「短所は今親にそう見えるだけ。長い人生ではその子にとって長所かも」というお話が、目から鱗でした。
・できて当たり前と思っていたことのありがたさを感じました。子どもの寝顔を見ながら涙が出ました。これからは、もっともっと子どもをほめます。ついでに、旦那もほめます。
・昨日書いたものを忘れないように、これからもときどき読み返します。これからもいいところを見つけて、100個目指して書き足していきたいです。
・親が子どものいいところを見つける「目」が大切だと感じました。親の「見る目」を鍛えたいです。「見る目」がない親だと子どもがかわいそうですね。
実際、その後、何人かの人は、新しく見つけたことを本読みカードや連絡帳などを使って私に連絡し続けてくれました。
「58個目を見つけました!読んだマンガや見たアニメの登場人物を、すごくよく覚えていることです。これに関しては驚異的な記憶力です」という感じです。
ところで、ここまで次の4つの方法を紹介しました。
1,親がほめやすいことをほめる
2,親の価値観にとわられないで多面的に見てほめる
3,言い換え法でほめる
4,一歩下がり法でほめる
最後にもう1つ紹介したいと思います。
これは、この文章を書きながら思いついた方法です。
5,「その子のおかげで親が得たもの」に感謝する。
・私をお母さんにしてくれた。お父さんにしてくれた。
・私に愛情を発現させてくれる。愛情をわかせてくれる。
・人生の「時」を一緒に歩いてくれている。
・子育てという何物にも代え難い経験をさせてくれる。
・人間修業させてくれる。親の人間性を磨いてくれる。
・忍耐を教えてくれる。親の自己コントロール力を鍛えてくれる。
・自分がどういう人間か明らかにしてくれる。
・子どもがいてくれると話題があっていい。家の中に活気がある。
・子どもといると、エネルギーをもらえて気持ちが若くなる。
・子どものおかげで仕事以外の活動範囲が広がった。
・ママ友達が増えた。パパ友達が増えた。
・自分自身の育ち方を振り返るきっかけになる。
・自分の親の苦労とありがたさがわかるようになった。
これらのことを、子どもに感謝しましょう。
そうです、心から。
そして、とくに、この言葉を子どもに贈りましょう。
「あなたがいてくれてうれしいよ。生まれてくれて、ありがとう」
口で言えないなら、書いて伝えるといいでしょう。
ある日突然でもいいし、誕生日でもいいでしょう。
卒業式、卒園式、終了式、入学式、入園式、成人式、七五三、お正月などの節目でもいいでしょう。
感謝の気持ちを表す「ありがとう」も、大事なほめ言葉の1つです。
もしかしたら、究極のほめ言葉かも知れませんね。
「ありがとう」