小学校の理科の中で、植物の勉強はかなり大きな割合を占めています。
ですから、植物が好きな子は理科が好きになる可能性が高いと言えます。
小学校高学年や中学になると、だんだん化学や物理の内容が入ってきます。
そうすると、植物が好きでも、化学や物理の内容は苦手という子も出てきます。
でも、植物の勉強が大きな割合を占め続けることは変わりません。
そこで、今回は、小学校における植物の勉強を概観して、植物の勉強のポイントについて考えてみたいと思います。
実は、小学3年生で理科が始まる前に、1,2年生の生活科でもかなり植物を扱います。
その主な内容は栽培体験と植物で遊ぶ体験です。
栽培体験としては、次のような植物が多いようです。
朝顔、ヒマワリ、フウセンカズラ、ホウセンカ、オシロイバナ、マリーゴールド、サルビア、コスモス、アブラナ、水仙、ヒヤシンス、クロッカス、グラジオラス、サツマイモ、トウモロコシ、オクラ、大豆、ミニトマト、ナス、ピーマン、綿、などなど。
これらは生活科の教科書によく出ている植物ですが、見てわかるように、春まきと秋まき、種と球根、食べられるものと食べられないものなど、いろいろな種類があります。
なぜなら、いろいろな種類の植物を栽培体験すること自体が一番の目的だからです。
といっても、実際には、ほんの一部しかできませんが。
植物で遊ぶ体験としては、シロツメクサの冠、カラスノエンドウの笛、笹の舟、花の色水でお絵描き、押し花、秋の木の実で工作(ドングリのコマ、松ぼっくりのヤジロベエ)などです。
このように、栽培体験と植物で遊ぶ体験の2つが主な内容です。
というわけで、1,2年生のポイントは、豊かな体験をすることです。
3年生になると、勉強としての理科が始まります。
生活科では体験すること自体が一番の目的でしたが、理科では学問的になります。
たとえば、3年生のある教科書では次のような内容になっています。
・春にオクラとホウセンカの種をまいて、芽の出方や子葉(しよう)の数と色を観察して記録する
(オクラとホウセンカなど、複数の植物を扱うのは、比べて共通点と相違点を発見させるためです)
・成長に従って、葉の数、色、形と植物の高さがどう変化するか観察して記録する
・土を掘って根の様子を観察して記録する
・ほかのいろいろな植物も観察して、植物は根、茎、葉でできていることを確認する
・夏には、オクラとホウセンカの花や実を観察して記録する
・秋には、オクラとホウセンカの実が熟して種ができる様子を観察して記録する
・秋から冬にかけてだんだん枯れていく様子を観察して記録する
以上のような内容を通して、3年生で理解すべきポイントは次の2つです。
・植物の育ち方には、種、芽、子葉、葉、花、実、種を残す、枯れる、などの決まった順番がある
・植物は根、茎、葉でできている
余談になりますが、以前は、「最初に双葉が出て、その後で本葉が出る」と教えていました。
でも、今は「最初に子葉が出て、その後で葉が出る」と教えることになっています。
なぜかというと、トウモロコシなどの単子葉類は最初に出る子葉が1枚だからです。
以前の教え方では、双子葉類には当てはまっても単子葉類には当てはまらないわけです。
それで教え方が変わったわけですが、こういう変更はもう少し周知させる努力をしてほしいと思います。
このことに限らず、教え方や用語がいつの間にか変わっているということはよくあります。
教師でも気がつかないような変更がいつの間にかされていることもあるくらいですから、一般の親が気がつくはずがありません。
子どもの教科書やノートを見たり、子どもと話したりしたとき戸惑う親もいると思います。
親「それって双葉って言うんだよ」
子「違うよ。子葉だよ」
親「え?」
子「教科書にも書いてあるよ」
親「しようがないなあ」
話を元に戻します。
次の4年生でも、植物の種をまいてその成長を観察して記録します。
3年生と同じ勉強に見えるかも知れませんが、3年生の時とは観察のポイントが違ってくるのです。
わかりやすいように、あらかじめ4年生で理解すべきポイントを挙げておきます。
4年生のポイントは次の1点です。
・植物は季節ごとにどう成長変化するかを理解する
つまり、夏にグングン成長し、秋に実や種ができて枯れ始め、冬になって枯れるという一連の変化を観察して記録するわけです。
そのために、ヘチマやツルレイシ(ニガウリ)のような目に見えて大きく変化する植物を扱う教科書が多くなっています。
たとえば、ツルレイシは夏場の蔓の伸び方がすごくて、1日に10センチ以上伸びることもあります。
これだと、子どもたちも観察しがいがあるというものです。
以前、ある子が「1日に12センチ伸びたから、1時間で5ミリ、30分で0.5ミリだ。じっと見ていれば伸びるところが見えるかも」と言ったので、30分見ていたことがあります。
子どもたちは、「今、動いた!」「あっ、伸びた、伸びた」「え~!私には見えない」などと興奮しながら見ていました。
ある子は、物差しの目盛りの上に蔓をはわせてミリ単位の動きをとらえようとしました。
ある子は、蔓の先端の方を5センチくらいマジックで塗って薄くなったら伸びた証拠だと考えました。
ある子は、マジックで塗る代わりに1センチごと等間隔で印をつけて、どこが伸びるのかとらえようとしました。
ある子は、「伸びるときは音がするかも」と言って耳を蔓に近づけて、息を止めて聞いていました。
この他にもいろいろなアイデアが出て、とても盛り上がりました。
私は、子どもたちの探究心とアイデアの豊かさに感心しました。
「30分植物を見続けるなんて時間の無駄だ。それよりも、覚えることをどんどん覚えた方がいい」と思う人もいるかも知れません。
でも、私はこういう時間こそ大事だと思います。
それは、植物の成長という神秘的なできごとを身を以て体験する貴重な時間でした。
そして、その中で子どもは大いに探究心を刺激され研究的態度で臨むことができたのです。
それは、子どもたちにとっても私にとっても、極めて楽しい時間でした。
こういうことは、暗記したり問題を解いたりすることが中心の授業や勉強では、起こりえないことです。
ところで、ツルレイシは夏にすごく元気で、蔓をネット全体に張り巡らせます。
冬にはそれが全部枯れ果ててしまうので、いっそう「ものの哀れ」を感じさせてくれます。
植物の季節ごとの成長変化を観察するには、まさに打って付けの植物なのです。
次の5年生でも、植物の勉強をします。
でも、その扱い方はそれまでとかなり違って、観察というより実験という感じになります。
たとえば、発芽に必要なものを調べるために、条件を変えて実験するというすごく楽しい勉強があります。
そこで、みなさんに問題です。
次の中で、植物の発芽に絶対必要なものを3つ挙げてください。
土、水、日光、空気、適切な温度、
はい、正解は、水、空気、適切な温度の3つです。
と、このように答だけ出してしまえばあっけないものですが、学校の授業ではこの結論を出すまでを大切にします。
たとえば、土が発芽に必要かどうかを調べるにはどういう実験をすればいいのか、それを考えさせることを大事にするのです。
これには、次のような比較実験が必要になります。
A シャーレに土を敷いてインゲン豆をまく。
B シャーレに脱脂綿を敷いてインゲン豆をまく。
その他の、水、日光、空気、温度の条件はAとBで同じにして、発芽するか実験します。
Bでも発芽すれば、土は発芽に必要ないという結論が得られるわけです。
このような比較実験の方法を、水、日光、空気、適切な温度についても考えて実験します。
水、日光、適切な温度については、どれもすぐに思いつきます。
水をやらない、日光に当てない、冷蔵庫に入れる、などでいいわけですから。
でも、空気についてはかなり難しいのです。
子どもたちは、「種を空気に触れさせないで、水や適切な温度だけを与えるにはどうしたらいいか?」と一生懸命考えます。
これは難しいので、その分、子どもたちからいろいろなアイデアが出ます。
・インゲン豆を水につけてからビニル袋に入れ、空気を吸い出して輪ゴムでとめる
・インゲン豆をゼリーで閉じこめる
・インゲン豆を水の中に入れる
こういうとき、生活体験が豊かな子は、いろいろおもしろいアイデアを出してくれます。
もちろん、子どもが考えた実験をすべて授業中に行うことはできません。
でも、実験の方法を考えること自体が大事な勉強なので、ここはたっぷり考えさせます。
ちなみに、教科書ではどうなっているかというと、すべての教科書が水につける方法を扱っています。
というわけで、ここまでの、ポイントは次のようになります。
・植物の発芽には、水、空気、適切な温度が必要なことを理解する
発芽の条件に続いて、植物が成長するために必要なものを調べる実験を行います。
発芽のときと同じように、いろいろ条件を変えて比較実験を行います。
詳細は省きますが、ここでのポイントは次のようになります。
・植物の成長には、日光や肥料などが関係していることを理解する
さらに、5年生では、次のようなとても大事なポイントがあります。
・花にはおしべとめしべがあり、おしべの先には花粉がある
・おしべの花粉がめしべの先に付くと(受粉すると)、めしべのもとのところが大きくなって実になり、実の中に種ができる
この勉強でよく扱われるのは、朝顔とヘチマ、ツルレイシ、カボチャなどです。
もう忘れている人もいると思いますので念のため書いておきますと、朝顔は1つの花におしべとめしべがあり、ヘチマ、ツルレイシ、カボチャには雄花におしべがあり雌花にめしべがあります。
まず、おしべとめしべの先端を虫眼鏡で拡大してよく見ます。
特に興味深いのは朝顔のおしべです。
朝顔の場合、花がつぼみのときと開いた後ではおしべの様子がかなり違うからです。
つぼみのとき、おしべの花粉は、まだおしべの先端にある袋の中に入っています。
明け方、花が開く直前に、おしべがグングン伸びてめしべと同じ高さになります。
めしべと同じ高さになったとき、おしべの袋が破れて花粉が出て、それがめしべに付くのです。
その後、花が開きます。
本当に、「奇跡のようにうまくできているな~」と感じざるを得ません。
ですから、次の日に開きそうなつぼみの中からおしべを取りだして、すでに開いた花のおしべと比べてみるとおもしろいのです。
つぼみから取り出したおしべの先端には花粉を入れた袋がついていて、開いた花のおしべの先端には袋から出た花粉がいっぱいついています。
その違いに気づいて不思議がる子どもたちに、先ほど書いた明け方に起こる奇跡のようなできごとを話してやると、すごく真剣に聞いてくれます。
どの朝顔の花も、私たちが見ていないところでこういう経過をたどって咲いているのですから、本当に不思議です。
ところで、先ほどのポイントの2つめ「おしべの花粉がめしべの先に付くと(受粉すると)、めしべのもとのところが大きくなって実になり、実の中に種ができる」を確かめるために行う実験もなかなかおもしろいです。
これを確かめるためには、次のような実験をします。
1,朝顔のつぼみの根元を少し切り開いて、ピンセットおしべを全部抜き取ります。
これをAとBの2つの朝顔に行います。
2,AとBの朝顔の花が開きます。
このとき、AもBも受粉していません。
3,Aの朝顔のめしべに他の朝顔のおしべから取った花粉をつけます(受粉します)。
Bにはつけません。
4,1週間後にAとBの花の根元を比べます。
受粉したAの根元は大きくふくらんでいますが、受粉しなかったBの根元はふくらんでいません。
(なお、実験の間は、風で飛ばされた他の朝顔の花粉がAとBにつかないように、朝顔に袋を被せておきます)
ヘチマのように雄花と雌花に分かれている花の場合、この実験がもう少し簡単にできます。
なぜなら、雌花Aと雌花Bの両方に袋を被せておいて、雌花Aのみに雄花の花粉をつければいいだけだからです。
つまり、おしべを切り取る作業が要らないわけです。
ですから、教科書によっては、この実験では朝顔は扱わずヘチマのように雌花と雄花がある植物だけを扱う物もあります。
これらの実験によって、「おしべの花粉がめしべの先に付くと(受粉すると)、めしべのもとのところが大きくなって実になり、実の中に種ができる」というポイントが、すごくはっきりわかります。
さて、ここまで5年生を見てきました。
4年生までと比べて、5年生ではかなり「実験」という感じになるのがおわかりいただけたと思います。
次の6年生でも、植物の勉強をします。
6年生で一番大事なポイントは次のことです。
・葉に日光が当たるとデンプンができる
これを確かめるために、次のような実験をします。
1,前の日に、3枚のジャガイモの葉「A,B,C」をアルミニウム箔で覆っておきます
2,次の日の朝、AとBのアルミニウム箔を外します。Cはそのままです
3,すぐに、Aの葉にデンプンがあるかヨウ素液で調べます
4,その5時間くらい後に、BとCの葉にデンプンがあるか調べます
ところで、デンプンがあるかどうかは、葉を2,3分間煮て、水で洗ってからヨウ素液に浸して調べます。
デンプンがあれば、濃い紫(ほとんど褐色に近い)になります。
さて、ここで問題です。
A,B,Cの中で、葉の中にデンプンがあるのはどれでしょうか?
Aは、朝にアルミニウム箔を外されて、すぐにヨウ素液で調べられました。
Bは、朝にアルミニウム箔を外されて、その後日光をたっぷり浴びました。
Cは、ずっとアルミニウム箔で覆われていたので、日光を浴びていません。
子どもたちに予想させたら、ほとんどの子は「Bにはデンプンがあり、Cにはデンプンがない」と予想しました。
でも、Aに関しては意見が分かれて、「Aには、昨日できたデンプンが少しは残っている」と考える子がクラスの半分以上でした。
そして、実験してみると、デンプンがあるのはBだけでした。
これによって、先ほど書いた「葉に日光が当たるとデンプンができる」というポイントが確認できたわけです。
でも、このような実験をすると、子どもは教える方が意図していること以外にもいろいろと大事なことを発見したりすばらしい感想を発表したりしてくれます。
たとえば、この実験では子どもたちの大方の予想とは違ってAにもデンプンがなかったので、その運ばれ方の素早さに驚いた子がたくさんいました。
それで、次のような感想が出されました。
「葉っぱで作られたデンプンは、すぐ運ばれてイモの中に蓄えられるのですごいです。それほど、デンプンは大切なのだと思います」
「前の日に作ったデンプンが、葉っぱに少しは残っていると思ったけど、残っていないことに驚きました」
また、この実験で、光合成の不思議さを感じた子もたくさんいました。
「『日光が葉に当たると、葉は二酸化炭素と水でデンプンを作って酸素を出す。この働きを光合成という』と教科書に書いてあるけど、なぜ、それでデンプンができるのか不思議です」
「朝の葉っぱと昼の葉っぱは見た目では違いがわからないけど、昼間の葉っぱの中にはデンプンがあるのがわかりました」
「葉は光合成でせっせとデンプンを作って、イモを大きくしていて、それを私たちが食べるので『ありがとう』って言いたいです」
そして、この最後に書いたような感想は、6年生のもう1つのポイントである食物連鎖にもつながっていくものです。(これについての詳述は割愛します)
さて、ここまで、小学校における植物の勉強を概観して、植物の勉強のポイントについて考えてきました。
各学年でいろいろなポイントがあることが、おわかりいただけたと思います。
でも、一番大切なのは、それらのポイントを知識として暗記することではありません。
ここまでお読みいただいておわかりのことと思いますが、一番大切なのは絶対にそういうことではありません。
一番大切なのは、次のようなことなのです。
・植物について豊かな実体験をし、その中で植物の不思議に驚き、自然の奇跡や神秘に目を見張ること
これによって、感性が豊かになり、感動する心が育ちます。
そして、それは、自分の感動を表現したいという意欲とさらに深く真理を知りたいという意欲につながります。
前者は芸術的表現へのモチベーションにつながり、後者は科学的探究へのモチベーションにつながります。
子どもたちには、こういうことを大切にした教育をしていくことが必要です。
それによって、初めて、子ども自身の自主的な表現や探究が始まるからです。
理科的な面で言えば、「自ら疑問(問題)を持ち、その解決のための方法を自ら進んで考えて実行する」ということも可能になるのです。
小さいうちから、ペーパーテストでいい点を取るために、ポイントを暗記する「勉強」ばかりやらせられているとどうなるでしょう?
知識を暗記することはうまくなります。
出された問題の解答欄を、すでに暗記してある答えで埋めていくのもうまくなるでしょう。
でも、自主的な表現や探究への意欲など育つはずがありません。
理科的な面で言えば、「自ら疑問(問題)を持ち、その解決のための方法を自ら進んで考えて実行する」ということも、とうてい望めないわけです。
大人たちは、真に子どものことを思うなら、目先のことばかりにとらわれないことが大切です。
子どもたちの人生を長い目で見て、何が本当に大切なのかを考えること、それは大人の責任なのです。
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