下手でもいいから手書きの部分を大切に
 
 
今年も終わりが近づき、そろそろ年賀状を書く時期が迫ってきた。

 
最近は住所も文面も印刷ですませてしまう家庭が多いようだが、もらう方はあまり面白くない。
教え子から手書きの年賀状をもらうと教師として本当にうれしい。
 

せっかくの年賀状の機会を利用して、我が子に書く体験をさせてほしい。
住所から文面まで、下手でもいいから自分で書くことでハガキや文章の書き方を学ぶことができる。

 
学校でもハガキの書き方の授業はあるが、授業でやるまで一度も書いたことがなかったという子もいる。
ぜひ、家庭にある機会を活かして欲しい。
それが教育的配慮というものだ。
書き方と同時に、ハガキや手紙のよさと大切さを子どもに教えることも大切だ。

 
年賀状を書く相手は、友達、担任の先生、以前の担任の先生、幼稚園・保育園時代の先生、塾や習い事の先生、スポーツ少年団の監督やコーチ、おじいちゃん、おばあちゃん、いとこ、親類、などなどいくらでもいる。
書けるだけ書こう。

 
しかし、紋切り型の「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」だけでは味気ない。
心を伝える手紙のつもりで、文章表現を大事にしてほしい。



「近況」「相手との思い出」「相手への関心」の3つが大切


 
子どもの年賀状、ハガキ、手紙には、以下のようなことを書くことをお薦めしたい。

 
1つ目は「近況」だ。
いま、何をがんばっているか、何が楽しみか、何を目指しているか、何が一番好きかなど、現在の状況を伝えると、もらった相手はその子の今の様子がよくわかり、心のつながりも深まる。

 
2つ目は手紙を書く「相手との思い出と感謝」だ。その人と一緒にいたとき楽しかったこと、言われてうれしかった言葉など。
例えば、いとこと夏に海で遊んで楽しかったとか、大きな魚を釣り上げるとき手伝ってくれてうれしかったなどだ。
場合によっては、相手への感謝も伝える。
これも、心のつながりを深めることになる。

 
3つ目は「相手への関心」だ。「○○さんは、どうしていますか?」という問いかけ、「○○君はサッカーが上手だから、ますますがんばってください」という励まし(「ほめる」のも大切)、「また会っておしゃべりしたいです」という誘いなどだ。

 
年賀状には、紋切り型の「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」だけでなく、これら3つの内容を含めることをお薦めしたい。
全部でなく、1つでも2つでもいいのだ。

 
こういう年賀状をもらえば、相手は大いに喜び、その子への関心も高まる。
また、なによりも、こういう年賀状を書くことで、子どもは心を伝える手紙や文章の書き方を学ぶことができる。



心温かくなる教え子たちの年賀状



子どもは日常的に手紙を書くことが少ないので、ぜひ、年賀状でいい体験をさせてほしい。

 
私も、もらってうれしかった年賀状がある。
A君はとてもおとなしい子で、教室では、ほとんどしゃべることはなかったが、卒業して数年後、年賀状をくれ、「先生がいろいろと話しかけてくれてうれしかった」と書いてあった。

 
A君は、家庭以外の場では何も話すことができなくなってしまう場面緘黙症だったので、私が話しかけてもいつも返事をしてくれなかった。
しかし、私の気持ちをしっかりと受けとめていてくれていたのだ。
それが、その年賀状で初めてわかって、私はうれしかった。

 
B君は、6年生のときに受け持った子だ。
当時はやたらと反抗的だったが、卒業して数年後にくれた年賀状には「先生と過ごしたあの1年がすごく楽しかった」と書いてあった。
これも、また、うれしかった。


「あけましておめでとうございます」とだけ書いてある年賀状も、教え子からもらうとうれしいものだが、こうした言葉が一言書いてあると心が温かくなる。



書くことで相手への感謝の気持ちが強まる
 


心の伝わる手紙はもらう方だけでなく、書く方にも大きな意味がある。
文章や手紙の書き方を学べることもそうだが、それ以上に、自分がお世話になったことを思い出したり相手への感謝の気持ちが強まったりすることが大きい。

 
大人はたくさんの年賀状を書くので、どうしても通り一遍の文面になりがちだが、できたら「近況」「相手との思い出と感謝」「相手への関心」なども書き添えるといいだろう。

 
子どもたちは、それほどたくさん書くわけではないのだから、ぜひ、年賀状が心を伝える文面になるようにサポートしてやってほしい。

 
600人を超える子どもたちを教えたが、全ての子どもたちのことを覚えている。
教師が教え子を忘れてしまうということはない。
「○○小学校の□□です」と書いてもらえれば必ず思い出す。
道で会ったときも同じだ。

 
これを読んでいる親御さんたちも、かつての小学校の担任に久しぶりの年賀状でも出してみてはどうだろうか。
きっと、先生はみなさんの子ども時代の顔を思い出し、喜ぶに違いない。

初出「親力養成講座」日経BP 2009年 12月10日