●一方的に「上の子」だけを叱るのはダメ! 
 
 
子どもたちの兄弟関係について悩む親も多い。
たとえば、上の子が下の子をいじめるとか、始終けんかが絶えないなどだ。

 
こういうとき、事情がよくわからなくても、とりあえず上の子を叱ってしまうという親も多い。

 
「お兄ちゃんらしくしなさい」「お姉ちゃんらしくしなさい」というようにだ。


でも、これでは、上の子が不公平感を持ってしまう。
「上の子だから」という理屈は、親にとってはわかりやすくて都合のいい理屈だが、押しつけられる当の本人にとっては理不尽この上ないものなのだ。

 
子どもは、自分が公平に扱われているかどうかについて極めて敏感だ。
なぜなら、子どもは弱い存在で、親に依存して生きていかざるを得ないからだ。

 
すべての頼りのもとである親の愛情が、自分に対してより少なめだということになれば、子どもにとっては大問題だ。




●「ユー・メッセージ」は相手を責める言い方 
 
 
では、兄弟ゲンカが多いときどうしたらいいだろう?

 
1つの手段として、「アイ・メッセージ」で親の気持ちを伝える方法がある。


アイ・メッセージとはアイ(私)を主語にして相手に伝える話し方で、以前『第15回 親の言葉遣いで子どもは変わる』でも書いた通りだ。

 
アイ・メッセージに対して、ユー(あなた)を主語にした話し方を「ユー・メッセージ」というが、ユー・メッセージでは相手を責める言い方になる。

 
例えば、兄弟ゲンカをしている子どもたちに対して、ユー・メッセージでは「どうして、(お前たちは)ケンカばかりしてるんだ」となる。




●「アイ・メッセージ」は非難の要素が薄まる 
 
 
これをアイ・メッセージで言い換えると、「お父さん(お母さん)は、お前たちがケンカすると悲しいよ」あるいは「兄弟仲良くしている姿を見るとうれしいな」となる。

 
アイ・メッセージは相手を非難する要素が薄まるので、相手の心に届きやすい。

 
ところで、ちょっとつかみ合うぐらいのケンカならしばらく様子を見ていてもいいかもしれない。

 
だが、「殴る」「蹴る」という段階になったらすぐ止めなければならない。
そのタイミングが大事だ。
殴ったり蹴ったりとなるとケガをする危険がある。

 
兄弟げんかで歯を折ったり、目がつぶれたりすることもないわけではない。
取り返しのつかないケガをしてからでは、後悔が大きい。




●仲のよい時にほめる、写真を活用するのも有効 
 
 
次に、兄弟が仲よくしているときに、それを見逃さずにほめるのもいい方法だ。


例えば、お兄ちゃんが弟の落としたものを拾ってくれたときとか、弟の荷物をもってくれたときなどに、「ありがとう。お兄ちゃん、頼りになるね」「弟に優しくしてくれてありがとう」とほめる。

 
親は、このようなほめるチャンスを見逃してはいけない。
それを見逃しておいて、けんかのときだけ叱っても仕方がない。

 
写真を活用する方法もある。

 
兄と弟が仲良く写っている写真を壁に貼っておくと、自然に「ボクたちは仲がいい」「お兄ちゃんはやさしい」「弟はかわいい」という意識が心の底に生まれてくる。

 
いい写真はいいイメージを育ててくれる。




●兄弟姉妹を比べて叱ったりほめたりするのは厳禁! 
 
 
もう1つ、親が気をつけるべきは兄弟で比べないことである。
比べて叱ることには大きな弊害がある。

 
たとえば、「お姉ちゃんを見習いなさい」とか「弟はしっかりしているのに、おまえはダメだね」などだ。
こういう叱り方をすると、兄弟間で相手に対する恨みが残る。

 
また、比べてほめることにも大きな弊害がある。

 
たとえば、「お兄ちゃんはだらしがなくて困るね~。あなたはちゃんとできてえらいね」などだ。
こういうほめ方をすると、相手をさげすむ気持ちが生まれる。

 
このように、比べて叱ったりほめたりするのは厳禁だ。

 
親がこれをやっていては、兄弟仲がよくなるはずがない。
もちろん、大人になってからもその影響は続くことになる。




●「上が男の子、下が女の子」の場合は細心の注意を 
 
 
特に、上が男の子で下が女の子の場合、ほとんどの家庭でお兄ちゃんが叱られ続けるパターンになる。

 
一般的に、男の子は女の子に比べて自己管理力の目覚めが遅い。

 
だから、大人が望むような「生活習慣」「整理整頓」「約束を守る」「がまんする」などの能力の育ちが遅い。

 
もちろん、個人差も大きいので一概には言えない。
だが、一般的な傾向としては確かにこういうことがある。

 
そして、下の子は上の子が叱られたところを見て学ぶ有利さがある。

 
だから、妹という存在は、女の子であることと下の子であることの両面から有利なのだ。
逆に、兄という存在は両面から不利なのだ。




●男の子の自己管理力は中2頃に女の子に追いつく 
 
 
ゆえに、お兄ちゃんはずっと叱られ続け、妹は「しっかりしてるね」とほめられ続けることになる。

 
結果として、お兄ちゃんは自信をなくしてしまう。

 
一般的に、男の子の自己管理力は中学2年頃になってようやく女の子に追いつく。
そのことを頭に入れておいてほしい。

 
そして、次のことも頭に入れておいて欲しい。

 
男の子には、次のような傾向がある。
これらは、すべて親にとっては望ましくないものだが、後で伸びるために今必要なことなのだ。


 ・自分がやりたいことはやるが、やりたくないことはやらない。
 ・どうでもいいことに熱中する。
 ・生活の約束を守らない。
 ・言われたことをすぐ忘れる。
 ・ちょろちょろしたり、ちょっかいを出したりする。




●弟妹の誕生は上の子にとって「人生最大の危機」 
 
 
子どもも、弟や妹が生まれると喜ぶ。
だが、親の愛情が下の子により多く注がれるようになると、しっかりしていた上の子が急に赤ちゃん返りすることが多い。

 
このとき、親は上の子に早く自立してほしいと考える。
そして、「弟が生まれたんだから、お姉ちゃんらしくしなさい」などと突き放すことが多い。

 
ところが、これが逆効果になる。

 
上の子は、それまですべて自分に向かっていた親の愛情が目減りしてしまったように感じている。
それは、自分の存在基盤に関わる大きな不安だ。

 
つまり、その子にとっては、生まれて初めて体験する人生最大の危機なのだ。

 
ただでさえそういう状態でいるところに、さらに親が突き放して追い打ちをかける。
これでは子どもはたまらない。




●「赤ちゃん返り」のときは思い切り甘えさせる 
 
 
親は、「お姉ちゃんでしょ。自分のことはしっかり自分でやれるようになろうよ。赤ちゃんのためにもがんばって」などと理屈で納得させようとする。

 
子どもも、けなげに「うん」と返事をするかもしれない。

 
でも、押し寄せる不安はどうしようもない。
それをコントロールできるような、器の大きい大人物の子どもがいるだろうか?

 
このとき、大事なのは、ひとえに子どもの不安を取り除いてやることであり、それ以外にはない。

 
つまり、思い切り甘えさせて愛情を確信させてやることが大事なのだ。
今までと同様に、できればそれ以上に、だ。