●「とりあえず1問」がお勧め
 
 
前回は帰宅後すぐに宿題をやろうとしない子どもに対する親の対応についてお話しした。
今回は、子どもをどのように励まし、いかにやる気になる環境を作るかについてお伝えしよう。

 
まず、お勧めしたい方法が「とりあえず1問」である。


 
例えば、学校から帰ってきて、1問だけ宿題をやる。
あるいは、夕食前に1問だけやる。

 
これがなぜいいかというと、宿題全体がどのくらいで終わるか見通しがつけやすいからだ。

 
大人でも同じだろう。
書類を詰め込んだ封筒を渡され、「1週間で処理して」と上司から言われると重い気分になるが、とりあえず1問だけやってみると、全体の見通しがついて気が楽になる。

 
たとえば、どれくらいの難しさでどれくらいの時間がかかりそうか、などがわかるのだ。
すると、次に取りかかるときのハードルが低くなる。
場合によっては、1問だけのつもりが、ついでにやってしまえということで一気に片付くこともある。

 
1問もやってない状態だと、見通しが付つかないまま「めんどうだ」という気持ちだけが続くことになる。
それで、なかなか取りかかれないまま時間が過ぎることになる。

 
子どもの宿題も同じで、先に1問だけやっておくと、後で取りかかるときのハードルがぐんと低くなる。

 
私が教師時代、帰りのあいさつをした後に、その日の宿題を最低1問やらせて帰らせるようにしたことがある。
それは、保護者からとても評判がよかった。
「宿題のことでがみがみ言うことが減った」という話を、何人もの親から聞くことができた。




●カバンの中身を箱に吐き出させれば、宿題忘れ防止になる
 
 
もう1つ、ユニークな方法がある。玄関にカバンが2つ入るくらいの大きな箱を用意し、子どもが学校から帰ってきたら、カバンやランドセルの中身を全てその箱に出させるのだ。

 
こうすることで、子どもはどんな宿題があるのかを思い出す。
それと、親へ渡すお便りに気づくこともある。
親にとっても、宿題やお便りに気づきやすくなる。
それで、宿題忘れや持ち物忘れの防止になる。

 
また、予定帳が目に入ることで、子どもは自分がそれを書いたときのことをちらりと思い出すこともある。
それで、宿題や持ち物について思い出せることもある。

 
子どもは放っておくと、カバンの底にプリントやお便りなどを突っ込んだまま、忘れてしまうことがある。
また、不要な教科書類も入れっぱなしになる。

 
一度すべての中身を出せば、意味もなく同じ物を運び続けることもなくなる。
次にカバンに入れるときは、不要なものは入れないからだ。
それによって、カバンも軽くなる。




●音楽の活用で条件反射的に勉強モードに入る
 
 
子どもをその気にさせる上で、音楽を活用する手もある。

 
子どもは低学年ほど音楽に影響されやすい。
学校でも、昼休みには「剣の舞」や「トルコ行進曲」などアップテンポの曲を流して元気に遊ぶように仕向け、下校時は「家路」など家が恋しくなるような曲をかける。

 
5時15分から宿題をやらせようと思えば、毎日、その時刻にCDラジカセのタイマーをセットし、同じ時刻に同じ曲が流れるようにする。
そうすると、条件反射的に勉強モードに入りやすくなる。

 
また、宿題をやる順番を決めておくべきだろう。
せっかく勉強モードに入ったのに、何からやろうかなどと迷っていると、だれてしまう。




●簡単な計算でウォーミングアップ
 
 
基本的には簡単で単純な勉強から始めた方がいい。
例えば、百マス計算や計算ドリル、漢字の書き取りなどハードルの低いものから取りかかる。
いきなり、日記を書こうとすると、時間がかかってしまうので集中しにくいのだ。

 
もちろん、日記が大好きという子ならそれもいい。
だが、そうでない限りは、「何を書こうかな…」「日記ってめんどうだな」ということでだれてしまうものだ。

 
百ます計算意外にも、もっとハードルの低い「バラバラ九九」20問などもいい。
これは、あっという間に終わるので取りかかりやすいのだ。
タイムを計って、日々新記録を目指すように子どもを誘導しよう。

 
仮に宿題として出されていなくても、勉強モードに入るためのウォーミングアップとしてやるようにするといい。
新記録を目指すゲーム性を活かしつつ、親が大いにほめてやれば、けっこう子どもも乗ってくる。




●「宿題をやるとほめられる」パターンを作れ
 
 
子どもが宿題を終えたら、必ずほめてやることが大切だ。
子どもは、がんばって宿題をやってもほめてもらえず逆に叱られたりすると、だんだん宿題や勉強が嫌いになる。

 
多くの親はほめるどころか逆に、「もっとていねいに字を書きなさい」「間違いだらけじゃないの」などと叱りがちだ。

 
字を雑に書いていたとしても、中でもきれいな字を見つけて、部分的にほめる。
どんな小さなことでもいいから見つけてほめる。


「宿題をやるとほめられる」というパターンを作ると、宿題への取りかかりもスムーズになる。
「宿題をやると、その後、叱られる」というパターンでは、宿題への取りかかりがよくなるはずがない




●派手で華やかなマルを惜しむな
 
 
それと、親が計算や書き取りのマルつけをするときなどは、赤の水性サインペンや赤鉛筆で大きく派手にマルをつける。
逆にバツは小さく書く。
でかでかとバツをつけられると、やる気がなくなるものだ。

 
同じ赤色でも、ボールペンの赤はさみしい感じがするのでやめた方がいい。
鮮やかな赤い色が出る筆記具がオススメだ。
花マルもどんどんつけてやればいい。

 
こんなところで、ケチることはない。
ページ全体が華やかで楽しい感じにしてやるといい。
子どもは楽しい気持ちになってくる。

 
大人にとっては、マルが大きかろうが小さかろうが違いはない。
大きくても小さくてもマルはマルでありバツはバツなのだから。
だが、子どもにとっては必ずしもそうではない。


子どもは、鮮やかな色で大きくて華やかなマルの方がはるかにうれしいのだ。
それに、その方がなんとなくマルが多く見える。
意外とこういうことが大事なのだ。

 
たとえば、計算問題を20問やったとする。
子どもは、地味でさみしいマルが19個ついたときより、派手で華やかなマルが18個ついたときの方がにっこりする。


「我が子が宿題をやりたがらない」と叱ったり嘆いたりしていても、何も改善はされない。
親は、子どもが宿題をやる気になるような合理的な方法を工夫したり、やる気になるような言葉掛けを考えたりすることが大切である。

初出「親力養成講座」日経BP 2009年 11月9日