●子どもは次の瞬間何をするか分からない
 
 
前回は交通安全についてお話ししたが、学校内でも意外と危険は多い。


例えば、教室から廊下に飛び出してぶつかったり、廊下を走って曲がり角でぶつかったり、階段から駆け下りるときに踏み外して転落したりなどだ。
特に、雨の日は危ない。


遊具も、ルール以外の遊び方をすると危険だ。
例えば、滑り台で頭から滑り降りて、頭や首のケガをする子もいる。
雨上がりにジャングルジムで鬼ごっこをして、滑って転落することもある。

 
2階以上の教室では、窓から落ちる事故も起こる。
窓からの転落を防止するための手すりに腰掛けたり、壁際のロッカーに乗ったりして、ちょっとした弾みで落ちてしまうこともある。
子どもは大人より相対的に頭が重いので、落ちやすいという話も聞いたことがある。

 
夏場はプールサイドも危険地帯だ。
「走ってはいけない」と言っているのに走って転び、頭を打つ子が必ず出てくる。

 
子どもというのは、次の瞬間なにをするか分からないことがある。
だからこそ、子どもとはそういうものだと理解した上での安全対策が求められるのだ。




●教室内でも油断は禁物
 
 
教室内にいるときも油断はできない。
おはし、鉛筆、ハサミなど、とがった物を持って歩くときは、とがった方を手の中に入れて持つように指導する必要がある。

 
私は教師時代、とがった鉛筆を持って歩かせないようにしていた。
そのため、教室内に鉛筆削り機を置かないようにしていた。
そして、鉛筆は家で削ってくることを徹底していた。
同時に、各自にミニ鉛筆削りを持たせて、自分の机のところで削らせるようにしていた。

 
というのも、それ以前に非常に危ない状況に遭遇したことがあるからだ。
あるとき、給食が終わった後、女の子がおはしを洗うために洗面所へ行ったとき、後ろから男の子がワッと脅かしたことがあった。

 
すると、女の子は驚いて、おはしを持った手をそのまま上げ、後ろの男の子の眉間に刺してしまったのだ。
幸い、大したケガもなかったが、もし目を刺していたらと肝を冷やした。

 
こういうことがあったので、とがった物を持って歩かせないようにしたのだ。
どうしてもというときは、必ず箸箱や筆箱に入れてから持たせるようにしていた。




●自分のヒヤリとした経験を子どもに伝えよう
 
 
学校の駐車場も盲点だ。
かくれんぼで車の影に隠れていて、教師、業者、保護者の車にひかれる危険性もある。

 
低学年でよくあるのが、友だちに向かって石を投げることだ。
目や歯に当たってケガをすることがある。

 
雨の日は傘を振り回して、先端のとがった部分がぶつかることがある。

 
このように、子どもの身の回りには危険がいっぱいだ。
これらについて、教師は当然しっかり指導すべきだ。


そして、親が子どもに話すことも大切だ。
その際、自分の子ども時代にヒヤリとした経験を話すのも効果的だ。
もちろん、つくり話でもいい。
そういうことを日ごろから話題にすることで、事故を未然に防ぐことができるのだ。




●保護者も安全管理への参加意識を
 
 
こうした危険への安全対策は、学校側の安全管理が第一だが、保護者も学校に安全管理についてきっちりと要請するといい。

 
というのも、保護者の立場で知り得ることや気づくこともあるからだ。


たとえば、子どもとの会話の中で、「○○ちゃんがこんな危ないことをやっていたよ」などという話が出ることもある。
また、授業参観や行事のために学校に行ったとき、教師が気づかない危険箇所に気づくこともあるだろう。

 
もし、自ら言うことがためらわれるならば、クラスのPTA委員に代わりに言ってもらえばいい。
学校としても、そういうことは言ってもらった方が助かるのだ。

 
もちろん学校の安全管理は学校がやるのが第一義だが、子どものために保護者の目も活用した方がいいのは当然だ。




●教育委員会に安全管理の専任者を置くメリットは大きい
 
 
それと、ぜひ、各自治体にお願いしたいことがある。
それは、各市町村の教育委員会に所管の学校の安全管理を専門的に行う職員をおいて欲しいということだ。
つまり、プロの専任者だ。

 
というのも、各学校にもいろいろな安全管理の担当教員はいるが、いろいろな仕事のひとつとしてやっているので手が回らないということが実際問題としてあるからだ。

 
たとえば、学校の遊具については体育主任が兼務していることが多いのだが、体育主任はほかにも山ほど仕事を抱えている。


運動会、スポーツテスト、全校運動の指導、陸上指導、水泳指導、運動場整備、プール管理、体育備品管理……、そのほかにもいろいろある。
山ほどある仕事の1つとして、遊具の安全管理をやっているというのが実状なのだ。

 
私の考えでは、各教育委員会のプロの専任者が所管の各学校を自分で巡回して、自分の目と手を使って安全の確保をした方がよほど実際的だと思う。
安全管理は専門的な知識と技術を要するところがあるので、プロとして活動してもらった方がいいのだ。




●親たちで自治体に働きかけよう
 
 
近年、小学校6年生が明かり取り用の天窓から転落して亡くなった事故があった。
天窓に子どもが乗ることを想定していなかったという話もあったが、こうした不手際もプロとしての知識があれば防ぐことができるはずだ。

 
もし、プロの専任者が各学校の安全管理をするようになったら、学校の事故はもっと減るはずだ。

 
これまでも学校で事故が起きる度に、教育委員会などから注意喚起の紙切れが回るだけで、根本的な改善は進まなかった。
のど元過ぎればなんとやらだ。

 
保護者の人たちはぜひ、安全管理専任者を置くようにPTAなどから自治体に働きかけてほしい。




●校長は安全管理を教諭に丸投げせず、自ら取り組むべし
 
 
先ほど、プロの専任者をおくといいと書いた。
だが、今すぐにでも学校ですべきこともたくさんある。

 
学校側は校長の責任の下、さらなる安全管理を徹底するべきだ。
現状では不十分である。


校長は安全管理の第一責任者の自覚を持って、担当の先生に任せず、ましてや丸投げせず、自ら現場を回って遊具の安全性を確認してほしい。
学校に来ている子どもを無事なまま家に帰すことは、絶対必要な最優先事項なのだから。

 
子どもは「走る生き物」である。
子どもが走らなくなったら人類の終わりだ。
だから、「廊下は走るな」と言うだけでなく、「いくら言ってもそれでも走るものだ」ということを念頭に置いた対策が必要なのだ。


つまり、走っても安全なように工夫することが大切なのだ。




●子どもは「走る」「駆け下りる」「飛び降りる」もの
 
 
例えば、廊下の曲がり角や教室の出入り口に、安全確認用のカーブミラーをつけるだけでもだいぶ違う。
下の方につけると子どもがぶつかる可能性があるから、子どもがぶつからないように少し上の方につければいい。

 
子どもが走れないように、廊下の真ん中に花や植木などを置いてある学校もあるが、かえって危ないこともある。
安全確認用のカーブミラーなら、余分な危険が発生することはない。

 
「走るな」と指導するだけでなく、積極的な安全対策を講じてほしい。
階段も「駆け下りるな」「飛び降りるな」だけでなく、万が一、それをしてもケガをしようないように下の部分にクッション性のある敷物を敷くなどの工夫をしてほしい。

 
ジャングルジムなどの高さのある遊具の下もそうだ。
安全マットを敷いておけば、転落してもケガを最小限に抑えられる。

 
責任感と実行力のある校長なら、こうした安全対策に取り組むはずだ。
だが、そうでない校長の場合はやらないかもしれない。


このように学校によって対応がバラバラにならないためにも、教育委員会の安全管理専任者を置いて徹底することが必要だろう。

初出「親力養成講座」日経BP 2009年 10月5日