●実践すれば、みるみる子どもが伸びる
子どもを伸ばす父親はほめ上手が多い。
ほめるのが下手で、子どもが伸びることは稀だろう。
多くのお父さんたちは頭ではそのことをわかっていると思うが、いざとなると、うまくほめられない。「いまさらほめるのも恥ずかしい」気持ちがあるのかもしれないが、ほめ方がわからない、何をほめていいかわからない、という人もいるだろう。
そこで、今回と次回の2回にわたって、お父さん方の苦手な「ほめ方のコツ」をお教えしよう。
ご紹介するポイントのいくつかを「だまされたと思って」実践すれば、みるみる子どもが自信をつけ、伸びることは間違いない。
それに万一効果がなかったとしても、マイナス面は何もない。
まずは実践してみてはどうだろうか。
以下、いくつかのポイントを順次見ていこう。
●大事なコツは、ポイントを絞ってほめること
1 ピンポイント法
重要なコツのひとつ。ほめるところを絞ってほめる方法だ。
たとえば、子どもの漢字書き取りノートを見たとき、お父さん方の9割は、字が汚くてイライラすることだろう。
それが普通だ。
しかし、中にはきれいな字もいくつかはあるはずだ。
そこに丸を付けてほめる。
汚い字には目をつぶって、比較的きれいな字だけをピンポイントでほめる。
これを毎日続けて丸が増えてくると、子どもは不思議なことに、だんだんていねいに書くようになる。わざわざ「ていねいに書け」と言わなくても、必ずそうなるのだ。
丸を付けてほめた後、「書き直したいと思う字はある?」と聞いてみよう。
ほめた後に聞くことが重要だ。
すると子どもは「この字を直したい」というから、書き直させて、またほめる。
これを繰り返せば、必ずていねいに漢字を書くようになる。
●次のコツは、短所をどうほめるか
2 短所言い換え法
親というものは、子どもの短所ほど目につくものだ。
ダラダラしている、やるべきことをやらない、整理整頓をしないなど、「子どもの短所を挙げてください」と訊くと、スラスラといくつも言える親が多い。
ところが、子どもの長所を挙げてくださいというと、なかなか出てこない。
しかし、大人も同じだが、短所は長所の裏返しである。ここが重要だ。
何でも後回しにして遊んでしまう子は、「度胸がよい」「神経が太い」とも言える。
これは、大人になってから大事な資質だ。
いつも気を抜けない神経質な人では、大きな仕事を任されたときにその重圧に参ってしまう恐れがある。
その点、神経が図太い子は、トラブルが起きても乗り越える力があるかもしれない。
逆に「家に帰ったら宿題をしないと気がすまない」性格は、もしかしたら長所ではないかもしれない。親としてはすばらしい長所に思えても、将来を考えると、逆に不利かもしれない。
つまり、要は親の見方だ。
そういう目で見れば、宿題をしてなくても平気で遊べる子が、頼もしく見えてくるだろう。
親が子どもを見るときに「直すべき短所」と否定してしまうのではなく、「ちょっと別の角度から見る」ことは大切だ。
短所は長所の裏返しであり、無理に矯正してしまうことで、子どもの長所を奪っているかもしれないのだから。
●他の子と比較せず、我が子を虚心坦懐に見つめよう
3 成長評価法
我が子を他の子と比べたくなるのは人情だが、子どもの成長には個人差がとても大きい。
いろいろなことが早くできるようになる子も、遅い子もいる。
人と比較して人より遅いところ、劣っているところを矯正しようとするべきではない。
他の子と比べるのではなく、その子自身が以前に比べて成長した点、良くなったことを見つけて、ほめよう。
たとえそれがほんの少しでも、とにかく前進しているのだから、それはすごいことだ。
多くの親は「何年生までには、こんなことができていないといけない」というイメージを抱きがちだ。そんな考えは必要ない。
固定的なイメージを持っていると、左右の靴を間違わずに履けるようになったとか、繰り下がりの計算ができるようになった、掛け算九九ができるようになった、などといった「その子にとってはすごい進歩」が、「やっとできたか」「できて当たり前」などと、逆に叱る材料になってしまう。
その子ががんばってできるようになったことは、素直に親としてほめてやろう。
他の子と比べずに、自分の子をしっかりと見つめよう。
●我が子を「一歩下がって見る」目が大事
4 個人内評価法
前項の「成長評価法」は時間軸による評価だが、個人内評価法は、その子の中でいいことを見つけてほめる方法だ。
たとえば、勉強で理科が比較的できるならば、たとえ他の子より成績が悪くてもほめる。
算数が苦手でも、計算ができるならば、「計算が得意だね」とほめる。
やはり、他の子と比較せず、その子の中で、いいことを見つけようとすれば、いくつもほめることは出てくるはずだ。
5 一歩下がり法
「ほめようにも、我が子には得意なことがない」という親もいるが、毎日、元気で過ごしているだけでもすばらしいことだ。
字が雑だと言っても、字が書けるだけでもすごいことだ。
これは冗談で言っているのではなく、本当にそうなのだ。
親は、わが子ができることに対しては「できて当たり前」と思ってしまうことが多いので、ほめられない心境になってしまう。
つまり「当たり前」と思うと、さらに先を見て、欠点ばかりに目が行ってしまう。
たとえば、字が書けることより、雑なことが目についてしまう。
親のイメージや願いは子どもとは無関係に勝手に進んでしまうものだが、一歩下がって見つめると、ほめる要素はたくさん出てくる。
上を見ればきりがない。
勉強ができない、成績が悪いと言っても、ちゃんと字は書けるのだから、あわてることはない。
●自分の子ども時代を振り返って、子どもをほめよう
6 我が身振り返り法
親はいつも子どもを評価する側に立っているが、ときには親自身が自分を振り返って、子どもを見てほしい。
自分はルーズだが子どもは几帳面だとか、自分はあきらめやすいが子どもは粘りがある。
あるいは、自分は怒りっぽいが子どもはいつも穏やかにニコニコしている。
――よく考えると、親よりもいい点が、子どもになにかあるはずだ。
親はそれに気づいていても、ほめる材料になっていない。
もし、子どもが頑張り屋なら、こう言ってほめやろう。
「お父さんは三日坊主だけど、お前は偉いな」
こう言うと、子どもは大喜びするはずだ。
あるいは、親の子ども時代と比べてほめてやる。
「お父さんは子どもの頃、~だったけど、お前はすごいな」
小学生にとって、親は子どもの尊敬の対象だ。
だから、その本人からそう言ってもらえると、自信になる。
ときには多少のウソが混じってもいいだろう。
「お父さんなんか算数で100点を取ったことがないのに、すごいな」というようなウソは許されるウソだ。
「お父さんが子どもの頃、賞状なんてもらったことがないのに驚いたよ」
昔と違って今は賞状を乱発するので、子どもが賞状をもらう機会は多い。
そこで「昔の賞状より価値が低いな」などとは言わずに、ほめてやればいい。
会社でも同じだろう。
部下はほめて伸ばすことだ。
「俺の新入社員時代より、お前たちは進んでいるな」と言えば、新人も喜ぶだろうが、普通は「俺たちの新入社員時代に比べて、お前らは~」と非難になる。
一度、我が身をふり返って、部下の美点を見つけてはどうだろうか。
次回も引き続き、ほめ方のコツをいくつか検討していくので、ぜひ実践してみてほしい。
初出「親力養成講座」日経BP 2009年 5月29日
初出「親力養成講座」日経BP 2009年 5月29日