しかることがいかに子どもを傷つけているか、何度も書いているが、しかることと同じように親の言葉遣いも大きな問題だ。
感情的にしからなくても、言葉遣い一つで子どもを傷つけている例がとても多い。


例えば、こんなケースでは、あなたは子どもにどんな言葉をかけるだろうか。

 
子どもを目医者に連れて行ったら、とても混んでいて、通路の隅で待っていたが、ちょっと目を離したすきに子どもが通路に飛び出し、危うく他の患者とぶつかりそうになった。

 
こんなとき、「そこにいるとジャマでしょう」といいながら子どもを引き寄せるお母さんが多いのではないだろうか。
しかし、何気なく使った「ジャマ」という言葉には相手を非難する要素がある。

 
例えば、道路をふさいで立っている大人に向かって「そこにいるとジャマだ」とは言わないだろう。
おそらく誰でも「ちょっとどいて頂けますか」とか「すみません。通らしてください」と言うのではないだろうか。

 
それなのに、なぜ子どもだと平気で「そこにいるとジャマ」と言えるのだろうか。
それは親子関係に親が甘えているからである。
子どもだって、そのような言い方が気持ちいいわけがない。

 
それならば、単に「こっちにいなさい」と単純に指示する方がはるかにいい。
もっといいのは、「こっちにいるといいよ」と前向きな言葉遣いをすることだ。
ここには非難の要素がないので、言われた方は素直に聞くことができる。




●「ダメ語」は子どもの自信を失わせる
 

毎日の生活の中で、読者のみなさんは子どもに対して「ダメ」という言葉をどれほど使っているだろうか。

 
「○○しなきゃダメでしょう」と、ダメを何度も使っているようならば気をつけた方がいい。
「ダメ」という言葉を言われた方はとても不快になり、何度も言われると人は心を閉ざしてしまう。

 
言われていることがたとえ正しいと頭で分かっていても、素直に聞く気になれなくなる。

 
わたしはこういう言い方を「ダメ型表現」とか「ダメ語」と呼んでいるが、職場でもダメ語を話す人は多いのではないだろうか。

 
「これじゃダメだろう」とか「○○しなきゃダメじゃないか」などと何度も言われたら、あなたもだんだん嫌になって、その人の顔を見たくなくなるのではないか。

 
ところが、ダメ語を話している人たちはほとんど無自覚で、その言葉が相手に与えるダメージなど考えたこともない。

 
親子でも同じだ。
親が年中、ダメ語を話していると、子どもは親と話すのが嫌になり、次第に「自分はダメだ」と自信を失っていく。


毎日、「ダメ、ダメ‥‥」と言われている子が「自分はがんばれる」「自分にはできる」という気持ちになれるはずがない。

 
さらに、「ダメ」をぶつける親に対して子どもは不信感を持つようになる。
親子関係をよくするためにも、ダメを使いそうになったら、即座に別の言い方に自己翻訳しよう。

 
例えば、「○○するといいよ」「○○するとうまくいくよ」「○○すると気持ちいいよ」「○○してほしいな」「○○してくれるとうれしいな」「○○しよう」などに言い換える。

 
今からでもすぐに「ダメという言葉を使わない」と決めて、自己翻訳してほしい。




●否定的な言い方で子どもを注意しない
 

子どもを注意する場合、否定的な言い方をする人が多い。


「食べたら歯を磨かなきゃダメだよ」
「次の日の仕度は早めにやらないとダメだろ」
「自分の仕事はしっかりやらなきゃいけないよ」
「脱いだ靴は揃えなくてはいけないね」

 
これらの言い方には「ない」とか「ダメ」などの言葉が入っている。
こうした否定的な言葉を浴びせかけられていると、子どもは無意識のうちに自分自身が否定されているように感じる。

 
1回や2回ならどうということがなくても、毎日繰り返されると、ボクシングのジャブのようなもので、ジワジワと効いてきて、親に対する不信が育ってしまう。

 
もっとよくないのは相手の人格を否定する言い方だ。


「食べたら歯を磨かなきゃだめだよ。お前はずるいな」
「次の日の仕度は早めにやらないとだめだろ。何回言ってもできないのはバカな証拠だ」
「自分の仕事はしっかりやらなきゃいけないよ。怠け者だな」
「脱いだ靴は揃えなくてはいけないね。全くだらしがないんだから」

 
「ずるい」「バカ」「怠け者」「だらしがない」などという言い方は、相手の人格そのものを丸ごと否定する言い方だ。


こんなことを言われたら、誰でも嫌な気持ちになる。
たとえ1回でも言われたら心が深く傷つくだろう。
たとえ、相手が親であっても同じだ。

 
こういう言い方で自分を否定する人の「愛情」など、信じられるはずがない。

 
そして、こういう言い方をされている子は必ず次のように言うようになる。


「どうせずるいもん」「どうせバカだよ」「どうせ怠け者ですから」「どうせだらしがないんだからしょうがないでしょ」

 
いくら、コミュニケーションやスキンシップを心掛けて、愛情を注いでいても、このような言い方をしては帳消しだ。




●子どもをやる気にさせる肯定的な言い方
 

そこで、逆に「子どものをやる気にさせる肯定的な言い方」で子どもを注意しよう。
すると、受けとめる側の気持ちは全く違ってくる。


「食べたら歯を磨くと気持ちがいいよ」
「次の日の仕度を早めにやっておくと、すっきり遊べるね」
「自分の仕事をしっかりやってくれから大助かりだよ」
「脱いだ靴が揃えられていて気持ちがいいね」

 
これらの言い方は肯定的な言葉を多く使っているので、聞いている人は気持ちがよくなる。
否定的な言葉とは逆に、自分自身が肯定されているように感じるからだ。

 
さらに、肯定的な言い方は「うまくいったときのいいイメージ」を自然に想像させることができる。
それで、聞いている人は前向きな気持ちになる。

 
とはいえ、現実的にはいつも肯定的な言い方ばかりはしていられないだろう。
その際は次のような単純な命令形で言えばいい。


「食べたら歯を磨きなさい」
「次の日の仕度を早めにやること」
「自分の仕事をしっかりやりましょう」
「脱いだ靴を揃えてください」

 
この方が、否定的な言い方や人格を傷つけるような言い方をするよりよほどましだ。

 
このように、親の言葉遣いが子どもに与える影響は計り知れないほど大きい。
これに気づいて、毎日の言葉遣いに気をつけるだけでも、親子関係はよくなる。
いい親子関係は子どもの教育のための絶対的な条件だ。

 
と同時に、親の肯定的な言葉を毎日、浴びることで、自分自身への肯定的な気持ちが育っていく。

 
こうした気持ちは子どもを前向きにし、人生の意欲につながる。
つまり、子どもは「がんばってみよう」という気持ちになるのだ。

 
このような意欲を持てない子や、「どうせ‥‥」というような投げやりな気持ちの子は、親がいくらいろいろなことをしつけようとしても、受け入れる気持ちにならないだろう。

初出「親力養成講座」日経BP 2008年12月25日