知り合いから聞いた話だが、小学2年生の子どもを持つお父さんが珍しく風邪で会社を休んだそうだ。すると、我が子が学校から帰ってきてリビングで勉強し始めた。
それを見て、びっくりしたという。

 
それまで子どもの勉強する姿を見たことがなく、てっきり子ども部屋で机に向かって勉強していると思っていたらしい。
リビングのテーブルで勉強するとはだらしないと、そのお父さんは子どもをしかった。

 
しかっているお父さんを見て、お母さんは「リビングで勉強する方が話しかけやすいし、宿題などの確認もすぐできるからいい」と反論して、口論になったそうだ。


この話を聞いて、子どもの勉強する姿を一度も見たことがないということにも驚いたが、30代の若いお父さんの割にはずいぶん古い考え方をすると思った。

 
どこで勉強させたらいいかという相談や質問をよく受けるが、子どもが小さいときは子ども部屋に閉じ込めて勉強させるのはよくない。
かえって子どもは集中できない。

 
特に小学校の低・中学年は、一人でいることが怖い。
大人は忘れているが、子どものころはいろいろなものを怖く感じる。
夜、一人でトイレに行けない子もいる。
学校のトイレで怪談話が生まれるのも子どもの恐怖心のせいだ。
低学年には昼間でもトイレのドアを閉められない子もいる。




●勉強の様子を身近で見て褒める
 

子どもは怖いと集中できない。
親の声や家族の物音が聞こえる場所の方が安心でき、集中できる。
だから、リビングやダイニングの方が勉強ははかどる。

 
ただし、テレビやラジオ、音楽などのスイッチをつけてはいけない。

 
親子の会話はかまわない。
子どもの勉強する様子を見ながら、集中していないようならば、「あと10分だけがんばろう」と親が励ますことができる。

 
また、もし分からずに困っているようならば教えてやる。
勉強や宿題が終わったら、その場でチェックし、間違っていたらすぐに直させる。
そうすると、知識の定着率が上がるのだ。

 
日記は子どもにとっては大変な課題で、書くことが見つからないと、たちまち20~30分過ぎてしまう。そういうときは「学校で何があった?」などと会話しながら、行動を思い出させるといい。

 
勉強している姿を見ながら褒めることも大切だ。

 
「足し算が早くなったね」「九九が完璧だな」「ノートの字がきれいになったね」「勉強好きだな」など、何でも気付いたことを褒める。
勉強しているときに褒められる体験を重ねると、「快」の記憶とつながって、勉強が楽しいと思うようになる。

 
その半面、リビングでやらせても、お小言ばかりでは逆効果だ。
「なんて汚い字!」などと聞かされたら、「勉強=不快」になる。
減点主義ではなく加点主義で子どもには接したいものだ。




●「机に向かう習慣」にとらわれない
 

もし、ノートの字が汚いと思ったら、「汚いから書き直し!」ではなく、まず「この字とこの字はきれいだね」と探し出してでも褒める。
それから、「この字とこの字は雑だから書き直そう」と言えばいい。

 
こうした細かい指導は一緒にいるからこそできる。


子ども部屋で一人でやらせておいた場合、勉強が終わると、子どもは頭のスイッチがオフになってしまう。
そこから直しなどを始めるにはオンに切り替えるエネルギーがいる。

 
「机に向かう習慣を身につけろ」とよくいわれるが、こうした慣用句を文字通りにとらえない方がいい。
無理やり子ども部屋で机に座らせ、姿勢を正すことばかりにこだわると、子どもは苦痛を感じて勉強を不快に感じる。

 
それよりも、勉強は楽しいという気分になれば、いつか自分から机に向かうようになる。
小さいときに寝そべって勉強していても、大きくなればちゃんと机に向かう。
あまりしゃくし定規に考えない方がいいだろう。

 
高学年であっても、勉強部屋や机を嫌うようならば、強要しないほうがいい。
自然に机に向かい始めるまで待たないと発達課題(※)を積み残すことにもなりかねない。
子どもに対しては熟柿戦略が大切なのだ。

※ 子どもから高齢者に至るまでの各発達段階で、習得しておくべき課題

初出「親力養成講座」日経BP 2008年10月31日