以前、ある講演会で楽勉について話をしたところ、質疑応答の時間にお2人から体育の楽勉について質問されたことがある。

 
1人目の人の子どもは幼稚園の男の子で、太り気味な上に体を動かすのが嫌いとのことだった。
このままでは、学校の体育が苦手になるのは間違いないので、何かいい方法があったら教えてほしいという質問だった。

 
2人目の人の子どもは女の子で、体を動かすのは好きなのだが運動神経がよくないとのことだった。
それでスケートと空手を習っているのだが、ほかにもいい方法はないかという質問だった。

 
体育の得意と不得意はかなり先天的なもので、わたし自身も子ども時代からあまり得意ではなかった。しかし、スポーツや運動、体育で活躍する友だちを横目に、ヘタはヘタなりにやってきたし、体育の授業も運動部の部活も楽しんできた。

 
だから、子どもが不得意であることを気にせず、その子なりに楽しく運動できるようにしてやることが大切である。

 
本人も自分の実力というのは分かっているものだから、決して「ヘタだ」とか「上達が遅い」「なぜそんなことができないんだ」などと言ってはいけない。

 
このコラムの第13回目「二極化する子どもの運動」で書いたように、子どもたちのスポーツや体育は健全な心身の発達のためにある。
だから、間違っても試合に勝つことや大会で優勝することなどが最優先になるような指導をしてはいけないのである。




●体を動かす楽しさと親子のスキンシップ
 

子どもが体を動かすことが好きになるきっかけの一つとして、今あらためて注目されているのが親子遊びである。

 
子どもの小さなころから親が以下のような親子遊びをしてやることが、基本的な運動感覚の発達にとても役立つのだ。
楽しく遊びながら大きな効果が期待できるため、わたしはこれを「体育の楽勉」と呼んでいる。


1 子どもを逆さに持ち上げてやるだけで、逆さ感覚が育つ。

2 親が子どもの両手を持ってやり、子どもは自分の腹筋を使って足抜き回りをする。これで回転感覚が育つ。

3 布団の上でのでんぐり返りで、回転感覚が育つ。

4 親子でアザラシ歩き競争をすると腕支持感覚がつく。
アザラシ歩きとは、両手を腕立て伏せの状態にして両足の甲を床に着け、そのまま両手を交互に動かしてアザラシのように前進する。

5 親が支えてやって、倒立の練習をする。これで腕支持感覚が育つ。


逆さ感覚、腕支持感覚、回転感覚などは、鉄棒、マット、跳び箱などに役立つ基本的な運動感覚だ。

 
このような親子遊びをしていると、腹筋や背筋をはじめとして、いろいろな運動に必要な筋力を鍛えることができる。
また、柔軟性も養える。

 
また、自分の体を動かすことの気持ちよさや楽しさを味わうことができる。
そして、何よりも、親子のスキンシップという面でもすばらしいものだ。

 
子どもの中には、鉄棒などで体が逆さになるのを非常に怖がる子もいる。
その場合、教師が手伝ってやらせようとすると、恐怖で体が硬直してしまう。
また、マットで前転をさせようとしても怖がってできない子もいる。

 
彼らは、頭が下に来る感覚や体全体が回転する感覚を経験したことがないのである。
親子遊びをたっぷりやっておけば、これらの感覚を自然に身につけることができる。




●フリスビー、インディアカ、フラフープなど他の子がやらない遊びがお薦め
 

親子遊びは、運動の楽しさを、親子で触れ合うという楽しい気持ちと結びつけて体験することができる。
これによって子どもの中で、運動は楽しいという認識が強化される。

 
何事も、土台に「快」の感情が伴うことによって本人の内面的モチベーションになることができる。
それは勉強でも運動でも同じことだ。

 
暴言などと結びつけて運動を体験することは、決して子どものためにはならない。
その点で、特にスポーツ少年団の指導者たちには気をつけてもらいたい。
そして、お父さんたちはなるべく小さいころから、楽しい親子遊びをたくさんしてやってほしい。

 
また、道具を使った遊びも運動感覚の発達に役立つ。

 
バドミントン、キャッチボール、インディアカ(羽根の付いた特殊なボールを手で打ち合うバレーボールのような競技)、風船サッカー、風船バレー、フリスビー、フラフープ、輪投げ、ストラックアウト、ヨーヨー、一輪車、縄飛び、お手玉、メンコ、剣玉、竹馬、ゴム跳び、ケンケンパ、ドッジボール投げ ―― など何でもいいから、親子で楽しんでほしい。

 
こういう遊びは、大人から見るとたわいないように思えるかもしれないが、実はけっこう運動量が多いのである。
しかも、いろいろな運動感覚を育てるのにもかなり役立つ。

 
特に運動が苦手な子にとっては、学校の体育でやらないものがお薦めだ。


例えば、フリスビー、インディアカ、フラフープ、剣玉、竹馬、ヨーヨー、お手玉などはやったことのない子も多いので「自分はうまい」と思うことができる。
それは、大いに自信になる。体育や運動に苦手意識を持つ子にはかなり有効だ。

 
また、ダンスのDVDなどを見ながら親子で踊りまくるのもいいし、親子ジョギングもお薦めだ。
運動は苦手だけど親子ジョギングだけは毎日欠かさないという子もいる。
ジョギングには上手下手がないのがいい。
また、親子ジョギングは心身の健康と心の触れ合いという点で一石二鳥になる。

 
体を動かすのが楽しいとか、運動が好きなどと子どもが心から言えるようにしてやってほしいと思う。

 
苦手意識を持ったまま大人になると、スポーツを嫌う傾向が強まる。
それは大きな楽しみの一つを捨てるようなものだ。