わたしはあるサイトで教育相談を受け持っていて、お母さん方から多くの相談や悩みが寄せられる。
なかには、非常に深刻なものもあり、ため息をついたり、頭を抱えたりすることもしばしばだ。

 
こうした相談などを読んでいて思うことは、子育て中の母親たちの負担が高まっているということである。

 
そのストレスはすべて子どもたちに向かう。
イライラして怒鳴りつけたり、暴言を吐いたり、たたいたりなど虐待となって表れるのだ。


 
児童虐待は増え続けている。
平成17年度の児童相談所における児童虐待相談対応件数は3万4451件と前年度に比べて1043件、約3%増加した。





大変な数だが、これは氷山の一角で、児童相談所に通報されない虐待を含めて、少なくともこの10倍程度はあるだろう。




●専業主婦ほど心理的ストレスがたまる
 

専業主婦の夫たちは妻が「家に1日中いるのだから楽だろう」と考えやすいが、実は逆に煮詰まってしまって、ストレスを抱えているケースが多い。

 
特に3歳以下の小さな子どもを抱えている母親は外に出ることもできず、泣き声に悩まされながら、付きっきりの24時間対応になっている例も多い。

 
その上、夫の手助けもなく、近所に知り合いも祖父母もいない、話し相手や相談相手さえいないという場合もある。

 
また、夫は深夜に帰ってくるので、悩みや愚痴を話すこともできず、何週間もずっと子どもといっしょで、気を抜く暇もなく、ストレスが積み重なっていくということもある。


「それも分かるが、昔の母親たちは同じことをやっていた」とか「オレのお袋は愚痴一つこぼさなかった」という夫たちもいるだろうが、昔と今では時代が違う。

 
昔は誰もが同じような環境でやっていたから、あきらめもついたろうが、いまは同世代の友だちで独身生活を謳歌し、キャリアアップして生き生きと働いている人たちも多い。
それを見ると、自分がみじめになり、取り残されている感覚に陥るのだ。

 
あるいは、過去にバリバリと働いていた自分と比較して、マニキュアもできないし、繁華街でショッピングもできず、毎日疲れ果てるだけの自分が情けなくなる。

 
こうしたお母さんたちの心理的なストレスが大きいことをお父さんたちはもっと理解するべきだろう。




●共働きの主婦は時間的に追いつめられる
 

仕事を続けている共働きのお母さんたちもストレスを抱えている。
忙しくて時間的に追いつめられているのだ。

 
1日働き、急いで帰って保育所から子どもを引き取り、すぐに食事や子どもの世話、洗濯、掃除と息つく暇がない。

 
男女共同参画社会といわれながら、封建主義の名残を引きずる夫たちは忙しそうな妻を横目で見ながら、それでも家事や子育てを手伝わない。
これは、若い夫婦でも多い風景だ。

 
30代の男性でも封建主義的な家で育ってきた人は、「家事や子育ては妻の仕事」と過去の遺物に甘えているケースは少なくない。

 
わたしが教師をしていたころも、子どもが熱を出したり病気になると休んだり、病院に連れて行くために遅刻したり、学校へ連絡するのはお母さんたちの役割だった。

 
こういうときに、学校への連絡だけでも父親がすれば、母親はだいぶ助かるだろう。

 
結局、専業主婦のお母さんたちは心理的に追いつめられ、共働きのお母さんたちは時間的に追いつめられる。
こうした母親たちのストレスに夫は気づかない。

 
気づかないどころか、さらに追い打ちをかけるようなことを言う夫たちが多い。


「母親なんだから当たり前だろう」
「みんなやっているのに、なぜお前だけできないんだ」
「1日中、家にいられて気楽でいいな。オレなんか会社でもっと大変だ」
「子どものことはお前に任せたはずだ」
「誰のおかげで、食べられると思っているんだ」

 
ここまではっきりと言わないまでも、心に思っていたり、暗にほのめかす男性は多いはずだ。
こうした言葉を決して言ってはいけない。

 
つらい思いをしている母親たちはさらに立つ瀬がなくなる。
そして、子育てがイヤだ、子どもといるだけでイライラする、子どもがかわいいと思えない、しまいには怒鳴ったり、たたく、あるいは子育てを放棄する虐待になる。




●話を聞き、できる手伝いから実行する
 

お父さんたちはこうした現状を認識して、「うちの奥さんはどうなのかな」と気にかけてほしい。
そして、ほんの少しでもいいから手助けしようという意識を持つことだ。

 
まずは、土日でも時間を作って、たっぷりと妻の話を聞いてやろう。
「オレなんかもっと大変」と言いたくなるのをぐっと我慢して、じっくりと受容的・共感的に聞くことだ。
それだけでも妻は楽になる。

 
さらに、できる範囲内で具体的に手伝えることを提案し、実行する。
例えば、「毎朝のゴミ出し」「子どもといっしょにお風呂に入る」「週に何日かは買い物」「お風呂掃除」など、何でもいいから実践することだ。

 
「仕事が忙しいから無理だ」と手伝えない言い訳を考えるのではなく、まずやれることから手伝う。
手伝えない男性は頭の隅に「家事や子育ては女性の仕事」という考えがあったり、自分の育ってきた環境が封建主義的だったりすることが多い。

 
だが、それは妻たちの大変さを知らないか、甘えているだけだ。
一度、自分を振り返って、思い当たることがないか考えてほしい。

 
もし、どうしても手伝うことができない、あるいは単身赴任でほとんど家に帰れないというのならば、「家事代行サービス」を利用する手もある。

 
家事代行サービスとは掃除や洗濯、食事などを代行してくれるサービスで、1カ月に数回でもいいから、利用すればお母さんたちの負担はだいぶ減る。

 
女性は家計のことを考えるので、自分から利用したいと言い出しにくい。
だから、夫が提案すれば、妻の負担が減るだけでなく、夫の愛情を感じるだろう。

 
あるいは、学童保育や、民間の保育施設、行政の子育てサロンなどの情報を探して、妻に情報を勧めてやるのもいい。


こういうところで子育て仲間とおしゃべりしたり、愚痴をこぼしたり、相談に乗ってもらったりするのは、精神衛生の面で極めて有効だ。
みんながこういう時間が持てていれば、虐待の件数はかなり減るはずだ。

 
ともかくも、お母さんたちが1人で悩みとストレスを抱え込み、煮詰まることがないようにお父さんたちは気遣ってほしい。

 
最近では、こうした気遣いのできる男性とできない男性の差が大きくなっている。
気遣いのできる人はきっと会社や仕事でも信頼を得るはずだ。

 
企業にも一言、言いたい。
男女平等といいながら、男性に子育て休暇を与えている企業はまだほんの一部だ。
ぜひ、共働きの女性たちの負担を軽減し、子育てや家庭円満を支援する意味でも男性に対する子育て休暇制度を導入してほしい。

 
いまやこうした制度をもっている会社ほど優秀な人材が集まる時代だと思う。

 
最後に、行政にも一言、言いたい。
子育て中の親たちが気楽に集まってガス抜きできる場を、もっともっと用意して欲しい。