最近は学校行事などに積極的に参加する父親が増えてきた。
これはとてもいいことだ。


参加する機会はたくさんある。
入学式、卒業式、運動会、音楽会、参観懇談会、PTA行事、あるいは父親や地域のネットワークなどによる工作教室、イベントなど。

 
わたしがかつて勤めていた学校でも子どもたちはこうした行事を楽しみにしていた。
地域の人たちと触れ合えるのは子どもにとって素晴らしい経験だし、親にとっては我が子とコミュニケーションできる話題も増え、我が子への理解も深まる。


そのような行事やイベントにおける我が子は家とはまるで違う姿を見せるので、必ず発見がある。
父親にとっては、どのような空間で、どのように子どもが過ごしているのか分かる。

 
いい点も、気をつけるべき点も、母親が見えないことも見える。


一般的には学校への参加は母親が中心だ。
そのため、世の父親は母親の目を通して学校や学校における子どもの姿を見ている。
しかし、実は母親と父親で見る角度、見えるものは違ってくる。




●父親と母親では子どもの見方が違う
 

例えば、授業参観で我が子の様子を見て、母親が「あの子は授業中にみんなと違うことばかり言って困る」と思っても、父親が見ると「みんなと違う発想を持っているのは素晴らしい」となるかもしれない。

 
一般的に女性は、人と違うことに不安を感じる傾向が強く、男性は人と違うことに好感を感じることが多い。
母親にとって「困ったこと」が、父親にとって「いいこと」となるなら、子育ての視野が広がる。

 
また、教師や母親が「おとなしくて、問題を起こさないいい子」と思っても、父親から見ると「自分を押さえていてストレスがたまっているな」と見るかもしれない。

 
ちょっと乱暴な男の子がいると、多くの母親は「暴れん坊の問題児」と思うかもしれないが、父親の目には「昔のガキ大将みたいで、包容力があって、なかなか頼もしいじゃないか。息子が引かれるのも分かる」と映るかもしれない。

 
このように子育てには父親の子どもに対する見方を加えることが大切だ。
子どもに対する評価の幅が広がり、子どもはそこに居場所を見つけることができるからだ。

 
父親が学校によく顔を出し、クラスの先生や友だち、保護者のことをある程度知っていると、何か問題が起きたときも解決が早い。
知らないと、不安になったり、腹が立ったりして、いきなり学校にクレームをつけ、お門違いな文句を言って、問題がこじれてしまうことが多い。




●学校行事の記念写真が後に威力発揮
 

実際にあった話だが、我が子の友だちから「A君のランドセルをB君が踏みつけていたよ」と聞いた親が怒り、学校に怒鳴り込んできたが、よくよく聞くと、当時はランドセルをぺしゃんこにすることが流行っていて、A君に頼まれてB君が手伝っていたのだという。

 
ランドセルを踏みつけるのはいけないことだが、もし、父親がB君のことを知っていたら、「あの子がそんなことをするはずがない」と冷静になって、まず事実を確認しようとするだろう。

 
父親が学校に行くことは先生にとってもメリットが多い。

 
例えば、40人学級で「これだけの人数の面倒を見るのは先生も大変だな」と父親に分かっていてもらうと、例えば子どもが「先生はテストの採点を返すのが遅いんだよ」と言っても、「40人もいるんだから時間がかかるんだろう」と言える。

 
実際、国語のテストなどで40人分を採点するのはとても時間がかかるのである。

 
母親から学校の様子を聞くだけでは、決してこうした実態は分からない。
父親が自分の目で見ることが大切だ。

 
学校行事やイベントに参加したら、必ず写真も撮っておこう。
入学式、卒業式、運動会など子どもと一緒に撮った写真が後々、親子の心のつながりを助けてくれる。

 
子どもからすれば、一緒に成長の時を父親が過ごしてくれた、自分のことをいつも気にかけ、応援してくれたなと思い出し、親に愛されている実感につながる。

 
10~20年後にこの写真の力が生きてくる。
写真のような具体的な思い出がないと、子どもは意外とすぐに忘れてしまうものだ。




●オヤジの会は子育てに役立つ
 

最近では学校ごとに「オヤジの会」や「父親の会」など、父親の有志が集まって、子どもたちの教育を支援するケースが増えている。

 
これはとてもいいことだ。
工作教室やペットボトルロケット、サマーキャンプなど、父親たちは行動力があるので、子どもたちを楽しませてくれる。

 
子どもにとっても、いろいろなお父さんたちと触れ合う機会はとても重要である。
それは、自分の父親だけでなく、さまざまな大人がいることを知るからだ。
話し方、言葉遣い、立ち居振る舞い、話題など、普段聞かない話を聞き、いい知的刺激を受ける。

 
ある都内の小学校ではオヤジの会が学校崩壊を救った例もある。
授業も崩壊し、朝礼でも教師の話を聞こうとしない子どもたちに対して、父親たちが立ち上がった。

 
メーリングリストを作って互いに情報交換し、手分けしてこまめに授業参観したり、教師たちを助けたりして学校を建て直したのだ。
父親にはそうした力がある。

 
ただし、オヤジの会がイベントなどを開催する際に、気をつけていただきたいのは「安全」である。
事故、ケガなどを決して起こさない「安全性最優先」の姿勢を持っていただきたい。

 
遊びにはケガがつきものと思っている人もいるかもしれないが、子どもたちは一人ひとり大事に育てられており、かすり傷程度ならまだしも、入院するようなケガが起きると、せっかくの善意や努力が台無しになってしまう。

 
安全管理担当者を必ず置くぐらい、安全面には十分な配慮をしてもらいたい。




●イベント開催で先生への負担は最小に
 

もう一つ、気をつけていただきたいのは学校や先生たちへの「負担」である。

 
中には「父親が子どもたちのためにイベントを開催するのだから、学校に負担を強いて当然」とばかりに、「材料を買っておいて」とか「長いすを用意しておいて」と注文されることもあるようだが、学校の先生たちはいまや忙しすぎて肝心の授業に手が回らないほどだ。

 
予算削減による人手不足から、クラス担任のほかに図書館主任、パソコン管理主任、補導担当、出席簿管理責任者など、最低でも1人で四つや五つの係を抱えている。
わたしも八つほど係を兼任していたことがある。

 
おまけに子どもの指導に関しては以前より時間がかかり、加えて親とのやり取りにも時間がかかる。
モンスターペアレントなどが出てきたときにはほかの仕事が何もできなくなる。
さらに、教育行政が変わるたびに提出の必要な書類が増える。

 
愚痴を言うわけではないが、それほど、いま教師は厳しい状況に置かれており、そのことを親たちにも理解していただきたい。

 
だから、オヤジの会のイベントでは、準備から後片付けまで、学校側と連絡を取りながら完結してもらえると先生たちはありがたい。
もちろん、先生でなければできないような必要な協力は求めるべきだし、先生たちも手伝うだろうが、極力、教師の負担を軽減してやってほしい。

 
教師が授業や指導に全力を注げないことは子どもにとっても不幸なことだ。