「地頭(じあたま)」とは前回述べたように「ものごとを認識したり、考えたり、創造したりするような」基本的な能力である。
いわば、芽が出て大きく育つための土壌だ。

 
種をまけばすぐにでも芽が出るような土づくりを親御さんが生活の中で行っていくことが子どもの成長にとても役立つ。

 
地頭を鍛えるのは机に向かってテキストを開く勉強だけではない。
特に小学生にとっては生活の中で楽しみながら知的な刺激を受けることが重要であり、わたしはこれを「楽勉(らくべん)」と呼んでいる。

 
楽勉には無理強いや強制は一切ない。
楽しんでやっているうちに自然に子どもは勉強好きになるものだ。

 
実は教科書ほど小学生にとって抽象的で分かりにくいものはない。
教科書は世の中の仕組みや法則、事実を体系化したものであり、その根本や本当の意味を理解するためには生活や遊びの中で学ぶことが前提となる。

 
よく子どもは「なぜ勉強しなければいけないの?」と質問するが、それは抽象的な教科書を学ぶことを勉強と思っているからだ。
楽勉も勉強と分かれば、子どもはそんな質問はしないだろう。
しかも、楽勉はよく分かるだけでなく、「忘れにくい知識」になる。

 
親御さんにはこうした地頭と楽勉の意義を子どもに教えて上手にプロデュースできる親になってもらいたいと思う。
プロデュースといってもそれほど難しいことではない。


例えば、温度計と湿度計をすぐ手の届くところに置いておくだけでいい。
普通は朝起きて「今朝は暑いな」で会話が終わってしまうだろうが、そのときお父さんが「今日は朝から30度だ。昨日より2度も高いね」と数値に置き換えて子どもに話しかけてあげる。

 
同じように「今日はジメジメするね」で終わらず、「湿度が60%もあるね」という会話が続けば、子どもは自然現象を数値でとらえる意味が分かる。

 
そのような地頭が出来てくると、例えば授業で植物を育てるとき、教師が何も言わなくても子どもは葉や茎を物差しで測ろうとするだろう。




●ドライブは「時速」を教えるいいチャンス
 

休み中にドライブに出かけたご家族も多いだろうが、そんなときも地頭を鍛える楽勉のいいチャンス。

 
「時速60キロというのは、このままのスピードで1時間走れば60キロメートル進める、そういう速さのことだよ」

 
時速という考え方を教室で分からない子どもも、現実を引き合いに話すと理解しやすくなる。

 
1年生など低学年ではもっと極端な話、10以上の数を家で数えた経験があるかどうかで大きく違う。

 
誰でも両手の指が10本だから、10までは数えているが、50以上となると数えた経験はかなり少なくなる。
たくさんの物を数えている子は、10個ずつの固まりを作ると数えやすくなることを自然と知っている。

 
これはとりもなおさず、十進法の構造を理解しているということだ。
実は十進法が分からない子どもは意外と多く、理解できないと算数がそれ以上、進められなくなる。
家庭での経験が子どもの学力を左右することを理解していれば、幼稚園時代からそれとなく親が物を数えさせる楽勉をプロデュースできる。

 
小数点も子どもが分かりにくい概念の一つだ。
プールに入ったとき、水深1.3メートルとあれば、「これは1メートルと2メートルの間で、1メートルに近い長さ」と教えると、小数点という考え方が知識のクイとなって、子どもの頭にたまっていく。

 
新聞も子どもの知的好奇心を刺激するには最高の材料だ。
子ども向けの新聞が一番いいが、大人の新聞でも面白いコラムや漫画、読者の声、文化欄など子どもが興味を持てる内容を解説付きで読んであげる。

 
活字で読むことは重要で、例えば、テレビで「日銀が公定歩合を引き上げた」と伝えても、子どもの耳には通り過ぎてしまうが、活字で見れば「ニチギン」が「日銀」であることが分かり、さらに解説を読めば日本銀行の略だと分かる。
習っていない漢字でも日常的に触れさせて、読み方を教えることは重要だ。




●学習漫画は最高の楽勉グッズ
 

テレビも使い方次第で、楽勉のいい材料(楽勉グッズ)になる。
わたしがよくお勧めするのがテレビの横に日本地図や地球儀を置いておくことだ。

 
世界の都市の名前がニュースなどで流れたら、すぐに地球儀などで調べる。
日本の各地を訪ね歩く番組もよくあるが、その場所も地図で確認する。
すると、山が多いのか、海の近くなのか分かり、番組自体に対する理解の仕方も深まる。

 
書店に行くと各学年向きの地図や各地の特産などが記載された地図もあるので壁に張っておいてもいいだろう。

 
ぜひ、お勧めしたい楽勉グッズが学習漫画だ。
学習漫画は高校レベルの内容が小学生でも分かるように書いてある。
漫画というと活字の本より低級に思う親御さんもいるかもしれないが、実際は相当な知識量を面白いストーリー仕立てで興味を引きつけながら、絵を通して理解しやすいように工夫している。

 
ちゃんとした学習漫画はその分野で一流の監修者が監修している。
作家の司馬遼太郎さんも書庫に歴史漫画をそろえていたという。

 
10年前に学校の懇談会で学習漫画の話をすると、あるお母さんはその足で本屋に行き、学習漫画を100冊まとめ買いした。
子どもが全部読んだのか分からないが、学習漫画は置いておくだけでも役に立つ。

 
良質な学習漫画は学研や小学館や集英社などから、「○○のひみつ」などのタイトルでたくさん出ている。

 
理科といえば、子ども向けの実験キットもすばらしい楽勉グッズである。
電磁石セットやセンサー付きロボットなど大人でも楽しめる。
各地の科学館などでは岩石セットを売っているが、学校ではいろいろな岩石を実際に見せることはできないので、家庭に岩石セットがあると子どもは授業に興味を持つだろう。

 
子どもはちょっと知っていることを勉強するのが一番楽しい。
ただし、せっかく買っても子どもが興味を全く示さないこともあるだろう。
そのときは潔く、引っ込めて、無理強いをしないことだ。

 
無理やりやらせると逆に嫌いになることもある。
数カ月後、1年後に興味を持つかもしれないので、気長に待とう。




●国語力を大幅にアップする親子日記
 

わたしがこれまで担任した教え子のお父さんの中で、とても有意義な楽勉を実践していた方がいる。

 
小学校1年生のAさんは入学したときから、質的にも量的にも書く力がずば抜けていた。
低学年の子が作文で自分の気持ちを書くことは難しいが、Aさんは個性的で感性豊かに自分の気持ちや様子を書くことができた。

 
その秘密を聞くと、幼稚園の年長のときから毎日、お父さんと親子日記を書いていたという。
お父さんが多忙で、いつも帰りが夜遅くなるので、お母さんが心配して親子のコミュニケーションのために日記を始めることを提案したそうだ。

 
最初はお母さんに字を教わりながら大学ノートにひと言ずつ書いていたAさんだったが、毎日書いているうちに、1年後にはノート1ページを楽に書けるようになった。

 
幼稚園であったこと、友達や先生のこと、遊びのこと、ケンカのこと、がんばったこと、見つけたことなどいろいろなことをAさんは書き、お父さんはそれに対する返事や感想、考えなどを書いた。

 
もちろん、気が乗らない日はひと言しか書かないときもあったが、書きたいときはたくさん書いた。
無理をしないことが大切だ。

 
書くことは内面にあるものを表面化させる手段であり、会話だけでは分からない考えや内面が表れてくる。
書いたものを読み合うことでお互いの理解はとても深まる。

 
親子日記は文章力や文字力を身につける上で最高の楽勉であり、おそらくAさんはそれ以上の大きな力を得ただろう。

 
親子日記を実践する上で、大切なことは強制しないこと。
子どもが書かないことをいつもしかるようならばやめた方がいい。
楽しく続けるために親が工夫をするべきだろう。


そして、書いた内容や書いたこと自体を基本的にほめ、共感的に返事を書く。
お説教のようになると、子どもは書かなくなってしまう。

 
楽しく書ければこれほど子どもの国語力をアップさせ、言語表現という地頭を鍛える楽勉はない。