わたしが「親力」というものにそもそも着目したのは、いくら子どもに直接働きかけても簡単には変わらず、子どもの総合力を引き上げるには背後の親の存在が大きいと考えたからだ。


わたしは昨年まで23年間、静岡県の公立小学校の教師として約600人の子どもたちを担任してきた。
教師として経験を積めば積むほど、「親の力」ほど子どもたちにとって必要なものはないと痛感するようになり、クラスの懇談会で話し、学級通信で書いてきた。

 
そして、どうせならもっとたくさんの人に読んで参考にしてほしいと思うようになった。
そのころ、メールマガジン(メルマガ)という便利なものがあることを知り、2003年10月から「親力で決まる子どもの将来」というメルマガの発行を始めた。


このメルマガが、ありがたいことに大きな反響を呼んで、話題になった。
クラスの大半の親たちにも読んでもらえたし、それどころか、今では発行部数も3万8000部を超えた。親力の大切さを多くの人たちに伝えることができるようになった。

 
親力とは、ひと言で言えば、「子どもを育て、包み、伸ばす親の総合力」である。
単に学力を上げるということではなく、ものごとを認識したり、考えたり、創造したりするような力(これを“地頭”とわたしは呼んでいる)を楽しく育てていく、それによって親も「親力」をさらにアップさせる。

 
その好循環をみなさんに体得してもらいたい。
それまで子どもをガミガミとしかりつけていたことがいかに子どもを傷つけ、結果的に親子関係を悪くしていたのか気付いてもらいたい。

 
おそらく、ほとんどの両親は子どもへの深い愛情を持っていると思うが、子どもへの接し方や愛情の表現の仕方を意識的に変えて、工夫を加えることで、驚くほど子どもは伸びていくものだ。




●「子どものために何かしてやらねば」は親力ではない


親力という言葉が少しずつ浸透してきたのはうれしいが、一方で誤解や曲解をされているケースも目に付くようになってきた。

 
特にお父さん方に理解してもらいたいのだが、大上段に振りかぶって「子どものために何かしてやらねば」という大前提はやめてもらいたい。

 
第2回でも書いたが、星一徹のように「子どもに道を示すこと」が親力ではない。
ゴルフや野球などで父親が親身に指導し、子どもが成功した例が増えてきたが、その一方で報道されない失敗例は数多くある。

 
受験も同じだ。最近は中学受験が加熱しており、「受験に成功するには父親力が必要」とあおり立てる人々やマスコミがいるために、母親以上に父親が受験に熱中するケースも増えてきた。

 
昨年6月、母親と兄弟2人が犠牲になった奈良家族3人放火殺人も、教育熱心な父親が息子を自分と同じ医師にしようと過度に厳しく指導したことによって不幸にも事件が起きてしまった。
「子どものため」という思いが逆の結果になった。

 
ここまで極端でなくても、わたしがかつて担任をしたA君のお父さんもとても厳しい人だった。
しつけにうるさく、お箸の上げ下ろしまでしかっていた。そのためA君は家で緊張し続け、学校に来ると逆に気が抜けてしまう。

 
係の仕事もやる気がなく、友だちとちょっとトラブルがあるとすぐに切れる。
愛情に飢えているためか、いつも自分が被害者だと思ってた。

 
もう一人、Bさんという女の子は三つ編みみをして学校に来るときは、とても穏やかで落ち着いているが、ぼさぼさ頭で登校するときには、人が変わったように周囲とのケンカを繰り返した。

 
聞いてみると、お母さんが働いているらしく、余裕のあるときには三つ編みを結いながら、Bさんにいろいろな話をしてくれるのだそうだ。
その代わり、忙しいときにはそのまま放り出してしまう。
いろいろな家庭の事情はあるのだろうが、子どもにとっては、例えば3日に一度、親が愛情を持って接すれば満足できるということはない。




●家庭で一番大事なことは毎日を安らかに
 

子どもにとって家庭で一番大事なことは毎日を安らかに生活できることである。
親に愛されている実感を持ちながら、自分のありのままを受け入れてもらう安心感を持てることである。

 
だが、実際には多くの家庭において、子どもはいつも親からしかられている。
親はしかることに慣れてくるが、子どもが慣れることなどない。
そのうち、子ども自身にも知らないうちにストレスがたまってくる。

 
母親の場合は、特に細かい生活態度が目について仕方がないので、マイペースの子を許せなくなり、ついつい口やかましくなりがちだ。
ときには両親のストレスやイライラから子どもに八つ当たりすることもあるだろう。
親のイライラは子どもの心を不安定にさせる。

 
わたしの教師経験では、勉強や生活態度やリーダーシップ、思いやりなど能力を発揮できる子は家で心の安らぎを得ている。
逆に年中、しかられたり、厳しく指導されている子は家の中で緊張している分、学校で気力がなくなる。

 
わたしは一切しからず、甘やかせと言っているわけではない。
人間として許すことのできないことをしたら、真剣にしからなければならない場合もある。
例えば、人のものを盗んだり、人を傷つけたり、弱い者をいじめたりしたときなどだ。

 
しかし、そのようなことは年中、起きるものではない。
普通は朝起きられない、歯磨きができないなどささいなことである。


これを毎日、「ちゃんとしろ!!」「だらしない!!」と怒鳴っていても、子どもは変わらない。
変わったと見えたら、それは親の前だけで変わったのである。
性格はそう簡単に変わらない。

 
だから、しつけや教育に工夫をすればいい。
ここはお父さん方の出番である。

 
例えば、朝起きるのが苦手ならば、ちょっと工夫して、タイマーに蛍光灯をつなぎ、時間が来たら、ブザーが鳴って蛍光灯がパッとつく。
こんなことはお父さんなら簡単だろう。
食後の歯磨きができないなら、食卓に箸といっしょに歯ブラシも置いておく。

 
父親は会社や仕事でいろいろな工夫をしながら目的をやり遂げようとしているはずだ。
だから工夫が得意なはずである。

 
子どもをありのままに受け入れて、その上で合理的に改善できるように努力する。
あるいは子どもが地頭を鍛える知的環境をさりげなく用意してあげる。
そして、褒めてあげる。
これこそが親力であり、子どもの総合力を伸ばすことは間違いない。

初出「親力養成講座」日経BP 2007年8月24日

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