読書が習慣になっていない子どもに、ただ「本を読みなさい」と言ってもムダです。心から感動できる一冊の本に出会い、それを学びにつなげる方法を親野先生に解説していただきました。



●本当の感動を与えてくる自分の一冊を発見することが大事



「本をたくさん読めば語彙や知識が増えます。言葉の表現力もみがかれ、長い文章に尻込みするようなこともなくなります。でも、必ずしもすぐに国語の成績がよくなるとはかぎりません。読書する目的を国語の成績を上げるためと考えると、読書自体を楽しめなくなってしまいます」と親野先生。


それでは、なぜ読書の習慣が大切なのでしょうか?



「読書は子どもの視野を広げます。今生きているこの世界のほかに本の世界があり、そこで起きる事件に胸を躍らせ、考えることで、たくさんの体験を得ることができます。すぐ目に見えるような形で成果があがらなくても、その体験が必ず子どもの将来を支えてくれます」


一方で、親野先生は「本をたくさん読むことも大事だが、感動を与えてくれる一冊に出会うことも大事です」と言います。


「本当の感動を与えてくれる本なら、どんなジャンルでもかまいません。理科の図鑑やスポーツの選手名鑑、地図帳や子ども新聞を読むこともりっぱな読書です」


親は子どもに、名作や古典などだれが読んでも失敗しない本を与えようとします。しかし、親野先生はそのよさを認めつつも「必ずしもこだわる必要はない」と言います。「『これを読め』と型にはめず、好きなジャンルの本を選ばせてあげてください」



●感動した本をベースに研究ノートを作ってみる



「感動できる本を一冊発見したら、つぎはその本をきっかけに研究ノートを作ってみましょう」と親野先生。


小学校低学年なら、本の図版や写真をコピーしてノートに貼ることからはじめればいいそうです。貼りつけた横に「感じたこと」「気づいたこと」を書き込んでいけば、何となく研究している感じになります。


「切ったり貼ったりすれば、ノートがすぐ埋まります。はじめは脈絡がなくてもかまいません。自分の感動をノートという形で残しておくことが大切です」


もし、小学校中学年以上なら、「作者」「テーマ」「背景」という3つの視点からひとつを選べばうまくいくそうです。「作者」でまとめるときは著者の生涯を調べ、ほかの本も読んで感想を書き込みます。「テーマ」でまとめるときは書いてある内容に注目。盲導犬の話を読んで感動したなら「盲導犬」をキーワードにして調べます。もし「背景」を選ぶなら、主人公が活躍した場所(地理)時代背景(歴史)を掘り下げます。


このほかにも「登場人物の人  物相関図を作る」「年表を作る」「新聞を作る」という方法もあるそうです。


「感動した一冊を材料して研究ノートを作成すれば、楽しく勉強できます(楽勉)。ひとつの素材をもとに自分の興味を広げるという体験こそが、学ぶことの本質です」        



●あなたのお子さんはどんなタイプ?



本をあまり読まない子にも、その理由によっていろいろなタイプがあるそうです。文字を追うのがめんどう、内容に興味がもてない、ほかに楽しいことがあるなど。お子さんのタイプに合わせて対応することが必要です。あなたのお子さんは次のどのタイプですか?


▼読書の経験が不足しているタイプ


読書の体験がそのものが不足しているというタイプ。このタイプの子どもは、時間が空いているときでも「本を読むこと」が行動の選択肢に入っていません。親に「本を読め」と強制されれば、読書そのものが嫌いになってしまうでしょう。漫画やゲームの攻略本を読むことからはじめてもかまいません。興味のあるものをきっかけにして、「読む体験」を広げてください。


▼本を読む以前にやることがたくさんある


習い事、塾、スペーツなどで毎日が忙しく、まとまった読書の時間がとれない場合もあります。しかし、たっぷり時間をかけなくても読書は楽しめます。トイレに定番の本を置いて10分、寝る前にテレビを消してから10分……とスキマ時間を利用する方法もあります。読む場所によって本を変えるのも楽しいアイデア。いろんな本を読んで、大好きな本を見つけてください。


▼好奇心や体験が読書に結びつかない


「読書に結びついていない」と考えているのは、お母さんだけかもしれません。学校の推薦図書や名作、古典を読むだけが読書ではありません。図鑑をながめるのも、スポーツのマニュアル本を読むのも、水族館のパンフレットを読むのもりっぱな読書です。子どもが好きな分野をさらに深められるものを、親が「こんな本もあるよ」と積極的に紹介してあげるといいですね。



●親野式アプローチ1


読み聞かせに向いているのは長編。山場がたくさんあるので「今日はここまで」と区切ることで子どもの興味をつなげます。読み聞かせは幼児までと決めつけず、マネをしてみましょう。


●親野式アプローチ2


歴史上の偉人伝や伝記は起承転結がわかりやすいため、本をあまり読んだことがない子どもにもお勧めできます。文字がたくさんあることを嫌がる場合は、学習漫画でもかまいません。


●親野式アプローチ3


親子で別々の本を読む約20分間の「読書タイム」を設定します。本を読んでいる間は話しかけたり、騒いだりしないことがルール。週に1度は親子で静かな時間を共有してください。


●お子さん本好きにするのにお薦めな本の紹介


▼盲導犬クイールの一生

盲導犬として役立ちながら犬として生涯をまっとうしたクイール。映画をDVDで観賞してから読むという方法もお勧め。


▼オオカミ王ロボ

抜群の知恵と力をもつロボと人間の対決を描いた名作。物語に力があり、狼に興味がなくても話に引きずり込まれる。


▼生きるんだ!ラッキー―山火事で生きのこったコアラの物語 

山火事で生き残った1匹のコアラ、ラッキー。その命をつなぎとめようと必死になって努力する人間たちの姿に感動する。


▼五体不満足

乙武氏の自分を肯定し、何事にもチャレンジし続けていくその姿は前向きで感動的。少し難しいが中学年以上なら読める。


▼レーナ・マリア―障害をこえて愛と希望を歌い続ける女性シンガー

音楽や水泳を通じて世界で活躍するレーナの姿がていねいに描写されている本。周囲で支える人の包容力もすばらしい。


▼ナイチンゲール

意志の力で困難を乗り越え、人のために尽くす尊い精神を学べる。文字は多いが、読み終えたあと、本当に感動できる。


▼ずーっと ずっと だいすきだよ

「犬を飼うこと」には喜びと悲しみがともなうことを教えてくれる本。大切な相手には伝え続けることが大事だと学べる。


▼北極のムーシカミーシカ

主人公のムーシカとミーシカは北極グマの双子の兄弟。大冒険にハラハラしながら、兄弟の生き抜くたくましさに感動。


▼月の輪グマ

人に狙われた子熊を助けるために滝壷めがけて飛び降りる母熊。子を思う母の心情を、子どもでも十分くみ取れるはず。


▼せかいいち大きな女の子のものがたり

大きくてたくましく知恵がある女の子が村人たちを助けるというストーリー。女の子に大きな勇気を与えてくれる本。


▼びりっかすの神さま

びりの子にしか見えない神様がいるという設定。この神様のおかげで、子どもたちは競争や勝負について考えるように。


▼チョコレート戦争

ぬれぎぬを着せられた子どもたちが、反乱を起こし、町一番のケーキ屋に戦いを挑む。その行動力と団結力に胸が踊る。