●「大学入試共通テスト」で本当に改革できるのか? 記述式を増やして大丈夫なのか?


間もなく大学入試の方法が変わります。
それまでの「センター試験」に代わって「大学入試共通テスト」が行われます。
今年度・2017年度の中学3年生から新しい大学入試に臨むことになります。


「なぜ、どのようにかわるのか」という主旨は、「高大接続システム改革会議『最終報告』」の冒頭に、次のように書かれています。


新たな時代に向けて国内外に大きな社会変動が起こっている中、多様な人々と協力しながら主体性を持って人生を切り開いていく力が重要であり、知識の量だけでなく、混とんとした状況の中に問題を発見し、答えを生み出し、新たな価値を創造していくための資質・能力が一層重要になる。


私なりに平たく要約すると次のようになります。


「これからの時代、もちろん知識も大事だけど、主体性を持って人生を切り開いていく力が非常に重要だ。つまり、問題を発見し、答えを生み出し、新たな価値を創造していくための力だ」。


以下、この件についての概略と私見を書きます。


大学入試は具体的にどう変わるのでしょうか?
まず、特に大きく変わる英語から見ていきます。
センター試験では「読む・聞く」の2つだけでしたが、新たに「書く・話す」も加わります。
これは、グローバル社会における実際のコミュニケーション能力を重視するためです。
当然、小・中・高校の授業でもこららが重視されるようになります。


入試の実施においては、マークシート式ではテストできないので、英検やTOEICなど民間の試験を活用するという形になります。


次に、国語と数学ですが、内容的には、それまでの「知識・技能」偏重の入試から、より「思考力・判断力・表現力」を評価する入試に変わります。
具体的には、マークシート式と合わせて記述式問題が出ます。
国語では、古文と漢文を除く国語総合で、80~120字程度で解答する記述式問題が3問程度出ます。数学では、「数1」「数1・A」で数1の範囲の3問程度が出ます。


試験時間も長くなり、国語は現行の80分から100分程度に延長され、数学は60分から70分程度に延長されます。


こちらに国語の記述式問題のモデルが出ていますが、かなり難しく、受験生たちがかわいそうになるくらいです。

●「大学入学共通テスト(仮称)」 記述式問題のモデル問題例 平成29年5月

短時間で少なくない難問に立ち向かうのですから、日頃の勉強で実力をつけておくのははもちろん大切ですが、試験当日の体調や集中力によってもかなり結果が違ってくるのではないかと思います。


でも、「思考・判断・表現」のテストが難しくなるのは当たり前です。
「知識・技能」が備わっている前提で、さらにそれを使って思考・判断・表現できるかをテストするのですから。
小学生のテストでも、「知識・技能」のテストより「思考力・判断力・表現力」のテストの方が難しくなります。


さらにモデル問題例1を詳しく見てみますと、読解力の大切さが改めてわかります。
問1では、もとの文章を的確に読み取り(つまり読解力)、必要に応じて正しく書き写したり要約して書いたりする力が必要です。


問2、問3も同じです。
そして、なんと問4も同じです。
「かおるさんはどのような意見を述べたと考えられるか」を解答するわけですから、まずはもとの文章を的確に読み取る力が必要です。


それにしても問4は難問ですね。
解答の条件を理解するだけでも相当の読解力が必要ですし、条件に沿う形で書く力も必要です。


実際に解いてみればわかると思いますが、鍵になるのは読解力です。
もとの文章を読み間違っていては、その後の思考・判断・表現の全てが間違った方向にいってしまうからです。
テストで「思考力・判断力・表現力」を測ると言いつつ、実際は読解力が鍵になるのです。


なぜそうなるのでしょうか?
本当に受験生の「思考力・判断力・表現力」を測りたいなら、一番いいのは作文や論文と個別面談で、何らかのテーマについて条件をつけずに自由に解答させることです。
それなら、思考の独創性や表現の創造性を垣間見ることすらできます。


でも、それは実現不可能です。
何十万人もの受験生の合否を短期間で決めなければならないからです。
そもそも、採点者による主観が入り、公平性の担保ができません。


そこで、膨大な量の答案を短時間で、しかも「できるだけ公平に」採点するために、条件をつけて採点しやすい形式にすることを優先せざるを得ないのです。
つまり、もとの文章を示し(これに沿って解答するという条件がつく)、条件つきの問を出して、条件つきで記述させる、という形です。


でも、これで、思考力・判断力・表現力を測っていると言えるのでしょうか?
そもそも入試改革の当初に目指したのは、「主体性を持って人生を切り開いていく力」「混とんとした状況の中に問題を発見し、答えを生み出し、新たな価値を創造していくための資質・能力」としての思考力・判断力・表現力だったはずです。


でも、少なくともモデル問題でそれが計れているとは言えません。
「記述式テストで文章を書くのだから表現力のテストになっている」とお茶を濁しているのです。
高校や予備校ですぐに傾向と対策が分析されて、受験指導が始まるでしょう。
すると、当初目指した思考力・判断力・表現力を測るという趣旨はどこかにいってしまいます。


もう一つ、モデル問題を見ると採点の難しさも想像できます。
モデル問題の各問について「正答の条件」が示されていて、正答の条件のすべてを満たした解答が正答になります。
それ以外はすべて誤答でバツになるというわけでもなく、部分点がつきます。
条件を満たしていない部分が増えれば増えるほど点数が下がる、ということだと思います。


しかし、この部分点というのが曲者です。
朝日新聞の報道では、『新たな記述式問題の採点は民間業者が担い、一つの答案を複数の人が担当する仕組みになりそうだ。国語では、正答に必要な要素の一部だけを書いた場合に「部分点」を認めたり、段階別評価をしたりすることも検討されているが、詳細は決まっていない。』とのことです。


● 自由な解答より採点しやすさ優先 センター試験後継案


もちろん「正答の条件」を示すことで、部分点の統一的な基準も一応できるのですが、それでも「これは部分点をつけるべきか、否か?」と迷わせる解答が必ず出てくるのが記述式テストなのです。

そうなったとき、どうやって公平性を担保するのでしょうか?
膨大な量の答案を、民間業者が雇った数多くの人たちが短時間で採点するのです。
その人たちの学力は大丈夫なのでしょうか?
正しく採点する能力のある人ばかりが集まるのでしょうか?
1点の違いで合否が分かれる入試で、公平性の担保は絶対条件のはずです。


しかし、いろいろ書いてきましたが、私は入試改革に携わる担当のみなさんは一生懸命やっていると思います。
はじめから不可能なことをやれといわれて、「それは無理だよ」とわかりつつ挑戦しているのです。
目指すべき理想の入試と現実の狭間で、なんとか着地点を見つけようと苦闘している姿が目に浮かびます。


理想を追いすぎて現実とのギャップに苦しむ状況、いろいろな声に八方美人的に応えて複雑になりすぎている状況、こういったものが日本のあちこちに見受けられます。
私は不可能なことは不可能だとはっきり明確にした方がいいと思います。
なぜなら、入試改革については、その検討期間もそうですが、その後の実施においてはさらに膨大な予算・人員・労力が費やされ、それらがすべてもったいないことになるからです。


それよりも、入試はマークシートのままにしておいて、それだけの予算、人員、労力をもっと別の方に回した方が社会全体のためになると思います。
マークシート式でも読解力を的確に測ることはできます。
しかも、主観が入らないから公平です。
そして、読解力がわかれば受験生の学力もわかります。


子育て支援から始まって、未就学児の保育・教育環境を充実させる、小・中・高校における様々な子どもの実態に個別対応できるように教職員を増やす、大学の研究と教育の充実、などなどやるべきことはいくらでもあります。
予算、人員、労力をそこに振り向けていって欲しいと思います。

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