運動が苦手でコンプレックスを抱えている子どもは意外に多くいるものです。
こうした子どもが「運動が好き!」と心から思えるようになるにはどうしたらいいのか。
苦手克服のため親がすべきことを紹介します。


●親力1
運動は生涯スポーツの基礎づくりと考える


親が子どもの運動の苦手克服の手助けをする場合、まず大原則として「運動は生涯スポーツの基礎づくり」という意識を持ってください。


メディアでは、幼少期からスポーツの英才教育を受け、一躍スーパースターになった選手を多く紹介しています。
もしかするとそれを見て「わが子も!」と、スパルタ教育をする親御さんがいるかもしれません。

しかし、それでは勝つこと・強くなることがすべてになり、結果の出ない子どもは自信をなくします。
その結果、運動が嫌いになっていきます。


石川遼選手などの“成功例”はごく一部の話。勝利至上主義の結果、挫折し運動嫌いになってしまう子どもは、本当に多いのです。
さらに、こうした子どもは強引に運動させる親に不信感を抱くようにもなります。
これでは運動も百害あって一利なし。


運動が生涯スポーツの基礎づくりだと考え、子どもには「運動を楽しむ」ことの大切さを教えてあげてください。
今回は、運動が苦手な子どものコンプレックス解消法を紹介していきますが、この大原則だけは忘れないでください。


●親力2
親子遊びで運動感覚を習得


運動が苦手な子どもは「基本的な運動感覚」が身についていないことが考えられます。
例えば、マットや鉄棒を使って運動するときには、体が逆さになったりしますが、これを非常に怖がる子どもがいます。


自分の体が逆さになった経験がなく、基本的な運動感覚である「逆さ感覚」が身についていないからです。
この感覚は親子で楽しく体を動かす“親子遊び”を通じて、簡単に育むことができます。
親が子どもを逆さに持ち上げてあげるだけで、逆さ感覚は身につきます。


マットや鉄棒では「回転感覚」も必要不可欠ですが、これも布団の上で親子ででんぐり返しをして遊ぶことで身につきます。
また鉄棒などで腕で体を支えるさいに大切な「腕支持感覚」を鍛えるには、親子でアザラシ歩き競走をすることをオススメします。


両手を腕立て伏せの状態にして両足の甲を床に着け、そのまま両手を交互に動かしてアザラシのように前進するのです。
親が支えてあげて、倒立の練習をするのも腕支持感覚の発達に役立ちます。


逆さ感覚、回転感覚、腕支持感覚、子どもの運動感覚の向上に必要不可欠です。
親子遊びを通じて、楽しく育んでいきましょう。


●親力3
親子でスポーツをして運動の楽しさを教える


親子遊びは、基本的な運動感覚の習得に役立ちますが、もう一つ、子どもは親とのスキンシップに楽しさを感じるという利点もあります。
その結果、子どものなかで「体を動かすのって楽しいなー」という思いも強くなるはずです。


それだけに、アザラシ歩き競争などだけにとどまらず、親は子どもとたくさんの運動を行っていくべきです。
なかでも道具を使った運動は、楽しいのはもちろん、運動感覚の発達という側面からもオススメです。


バドミントン、キャッチボール、ドッジボール投げ、縄跳びといったオーソドックスな運動をイメージするかもしれませんが、それ以外にも、風船を使ったサッカーやバレー、輪投げ、一輪車、ゴム飛び、ケンケンパなど、道具を使う運動は多種多様です。


こうした運動は、大人からみると大したことのないように見えますが、実はかなりの運動量になり、体力アップにも大いに役立ちます。
しかも運動感覚も育てられます。


●親力4
二ッチな運動を得意にする


野球やサッカー、バレーボールなどのメジャーな運動は、日頃から練習している子どもも多く、運動が苦手な子どもにとっては、ますます苦手意識を強めてしまう可能性もあります。


そこでフリスビーやフラフープ、けん玉、竹馬、ヨーヨー、お手玉など、あまり人がやらないような運動を楽しませてみるのもいいアイデアです。
施設が近くにあるならスケート、カーリング、ダンスなどもいいでしょう。


二ッチな運動は、プレーしたことのない子どもが多いため「自分は上手だ!」と思うことができ、それが大きな自信になります。
まず親子でやってみてもいいですし、さまざまな場所で大会や教室なども開催されていますから、それを見学したり参加して、遊び方の基本を知るのもいいでしょう。


そして学習発表会などの機会に、みんなの前で披露すれば「わー!すごい!」とヒーローになれるかもしれません。
そうすればさらに自信は深まって、運動好きの子どもに変ぼうしていくはずです。


●親力5
スポーツクラブなどに入れて運動能力を高める


子どもの運動の苦手克服は、親子が一緒に楽しみながら実践していくことが基本になりますが、親が忙しい場合などは、スポーツクラブやスポーツ少年団(スポ少)に入れて、運動能力を養わせていくのもいいでしょう。


こうしたクラブには専門的な指導員がいるケースが多いため、特定のスポーツの運動能力を高めることができるメリットがあります。
得意なスポーツが一つでもあれば、それこそ生涯にわたって楽しむことができます。


ただしスポーツクラブの選択には十分注意してください。
勝利至上主義の指導者も多数存在するからです。
強いチームをつくるためには、そうした指導者も必要ですが、運動が苦手な子どもは余計にコンプレックスを抱えてしまうことになります。


体験入学などを通じて、指導者が運動が苦手な子どもに優しく接しているのかなどを厳しくチェックしていきましょう。
クラブに入った後、指導者の方針に疑問を持ったのであれば話し合って、場合によってはやめさせることが大切です。


●親力6
歩いたり、走ったりに楽しみをくわえる


運動が苦手な子どもは、体力に自信がないことも多いため、普段から「歩いたり」「走ったり」して基礎体力をつけることも大事です。
とはいえ、ただ目的もなく歩いたり走ったりすることは、あまり楽しいものではありません。
そこで親が楽しみを付加してあげましょう。


まず歩きについては歩数計を持たせることをオススメします。
最近は歩数によってキャラクターが成長するユニークなものも販売されています。
これらを持たせることで、子どもは歩くことに楽しさを感じるようになります。


走ることについては、親子ジョギングがベスト。風景を見ながら、のんびりと一緒に走れば、退屈になることもありません。
また走るごとに「これで我が家から東京タワーまで走ったことになるぞ」などと、地図上にシールなどを貼っていくのもオススメです。
走ることに目的が生まれ、自ら「走ろう!」という気持ちになっていきます。


●親力7
運動以外の好きなことの実力を伸ばす


今回は運動が苦手な子どものコンプレックス解消法を紹介していきましたが、いくら実践していっても「やっぱり運動は嫌い。絵を描くほうがいい」と言うならば、その好きなことの実力を伸ばしてあげることに力を注ぐべきです。


親は運動が不得意なわが子を見ると「将来どうなるんだろう?」と不安を抱きがちですが、大人なれば、運動が苦手なことなんて、大したことではなくなります。
親力2で紹介したような、基本的な運動感覚の習得は軽く実践しつつも、あまり深追いはせず、その分の時間とエネルギーをほかに傾けてあげましょう。


(ひと言)


運動好きになるかのポイントは運動を楽しめるかどうかです。
運動が下手でも、楽しいと思えれば、苦手克服を実現できたといって間違いありません。
ぜひ親御さんは、子どもが「運動って楽しい!」と思えるように取り組んでください。

なお、安全面については常に細心の心配りをしてください。
もともと運動が嫌いで苦手な子は、ケガをしやすい傾向があります。

ケガをしたことでますます運動が嫌いになってしまうとか、運動そのものができなくなってしまうなどということになれば、元も子もありません。

初出「AERA with Kids」

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