今週の相談
 
いつも先生の寛大な心に感銘を受けております。今回は我が家の小4男の子の件で相談させてください。

3年の終わりころから中学受験を目標に塾に通っています。志望校も既に決まっており、学校見学をしてさらに行く気になってはいるのですが、勉強をしていても、わからないとそのままで、平気な顔で手を付けません。毎週出される問題の答え合わせは母がしていますが、「バツの所をやり直せ!」と言ってもそのまま。塾の先生も主人も私も「できなかったら次にできるように練習したら良いよ」とアドバイスしても「うん、うん」と口だけで、実際はなかなか行動に移せません。昨日も、問題の考え方を教えてあげてもあまのじゃくで言われた事をやりません。

素直に人の話を聞けないのは育て方が曲がっていたのでしょうか? もう、すっかり親もやる気がなくなってきてしまいました。中学受験しなくても高校受験はあるし絶対逃げられないのに、「めんどうくさい」と、何でも簡単に処置している我が子に対してどうしたら良いかわからなくなってしまいました。先生教えてください。(泣きたいっ子 さん)


【親野先生のアドバイス】

前回に引き続き、泣きたいっ子さんへのアドバイスです。

ご相談にある状態を箇条書きにすると次のようになりますが、このような状態の子は、本当に山のようにいるはずです。
1.志望校を決めて学校見学をして、行く気になっているはずなのに勉強しない
2.勉強のわからないところもそのままで、平気な顔
3.「バツの所をやり直せ!」と言っても、そのまま
4.「うんうん」と、口だけで実際は行動しない(勉強しない)
5.問題の考え方を教えてもあまのじゃくで、言われたことをやらない
6.素直に人の話を聞けないのは、育て方が曲がっていたのか?
7.めんどうくさいと、何でも簡単に処置している

まず、1についてです。
志望校を決めて学校見学をすれば、その時は子どももその気になるものです。
学校見学で充実した設備を見て、すてきな制服を見て、上手な説明者から夢のような中学校生活の話を聞き、先輩たちの輝かしい中学校生活の様子を映像で見せられ、すばらしいパンフレットをもらって帰ってくれば、だれでもその気になるものです。
このまま地元の公立中学校へ行くのは、ちょっとつまらないような気になるものです。
高まった気分の中で、親も子も共にそういう気持ちになるものです。

それに、子どもは親の願いも重々わかっていますから、「この学校に行く」「がんばって中学受験する」という約束もしてくれます。
その時は、確かにそういう気持ちになるのです。

でも、実際にハードな勉強が日々続くようになると、ずっと同じ気持ちでいることはできないのです。
そもそも、先に書いたように、小学生の時期は遊びたい盛りの真っ最中です。
子どもの本能的な欲求として、目の前のおもしろいことや興味のあることに引かれるのです。
「自分が本当におもしろいと感じることをたっぷりやりたい」という欲求が極めて強い時期なのです。

それは、内的なプログラムのようなもので、人間の発達段階としてそうなっているのです。
そして、この時期の子どもが本当におもしろいと感じること、それが机に向かって漢字を書いたり過去問を解いたりというものであるはずがないのです。

自然に反することを無理にやらせようとしても、うまくいくはずがありません。
特に、男の子の場合は、それが顕著です。
男の子の場合は、かなりの割合で、この相談にあるような状態になるものです。
もちろん、個人による違いも大きいわけですが、一般的な傾向としてそういうことはあるのです。

この時期は、女の子のほうが意志の力による自己コントロールという点では勝っています。
ですから、女の子のほうが自分の欲求を抑えて、机に向かってハードな受験勉強に向かうのは得意です。

ただし、その反面、ずっと一生懸命がんばっていたのに急にプツンと切れてしまう女の子も多いのです。
私が知っている限りでも、ずっとがんばってきたのに急に何もかもイヤになってしまったという例は、女の子のほうが多いのです。
男の子はグズグズ(親から見ると、ですが)取り組んでいる子が多いので、そこまでいかないことが多いのです。

2から7の状態も、すべて、ここまで書いてきたこと同じことの表れです。
「勉強がわからないところもそのままで、バツのところをやり直せと言ってもそのままで、『うんうん』と口だけで、考え方を教えてもやらなくて……、これらはすべて上記のような事情によるものなのです。

ですから、このことをもって、「素直に人の話を聞けないのは、育て方が曲がっていたのか?」と考える必要はまったくないのです。
「めんどうくさいと、何でも簡単に処置している」と考える必要もないのです。
これは、そういう問題ではありません。

もともと、かなり無理なことを求めているのです。
もともと、子どもの発達段階にとって極めて不自然な状態を強いているのです。
そういう無理なことは続かないというだけのことで、素直さとか育て方がどうのとかいう問題ではないのです。

「受験する」と言ってはみたものの、内的にプログラムされている発達段階を無視して異常な生活を続けることなどできないのです。
1から7のような状態になるのは、子どもにとって極めて自然なことなのです。

それは、素直に人の話を聞けないという問題ではないのです。
ここで「素直に」親の言うことを聞いて無理を続ければ、その反動はあとで必ず出るのです。