●親の言葉が罰則型だと子どももそうなる


「勉強しないとデパートに連れて行かないよ」「片づけしないとおやつ抜きだよ」。
親はよくこのように言って子どもを脅します。
これは罰で脅すことで相手を動かそうとする罰則型の言葉です。


親に脅されれば子どもは従うしかありません。
手っ取り早い効果があるので親はつい使ってしまうのです。


でも、子どもは「なぜそうすべきなのか」という意義を理解していません。
つまり、「本当にそうだな。そうしなくては」と心から納得してやっているわけではないのです。
ですから、内面的な成長にはつながりません。


そして、罰がないとやらない、罰を与える人がいなければやらない、ということになります。
罰に慣れてくると、より大きな罰でないと従わなくなるということも起きます。


このように罰で脅すのは効果がないのです。
そればかりか、実は大きな弊害があります。
それは、子どももこういう罰則型の言葉を身につけてしまい、兄弟や友達に対して使うようになるということです。




●親の言うことは聞かないけどすることは真似る


つまり、「○○しないと遊んでやらないよ」「○○しないと□□だよ」などの言葉で脅して友達や兄弟を動かすようになるのです。


子どもは実によく親の言葉を真似します。
関西弁で育てれば子どもも関西弁になり、東北弁で育てれば子どもも東北弁になります。
同じように、罰則弁で育てれば子どもも罰則弁になります。


もともと親としては、勉強させたいとか片づけができるようにさせたいと思って言ったのです。
でも、子どもはそれは身につけずに、別のもの、つまり「罰則型の言葉」を身につけてしまいます。


このように、親が意図したものは伝わらず、意図しなかったものが伝わるということは本当によくあります。
意図したものは表の教育で、意図しなかったものは裏の教育です。


表の教育は失敗しても裏の教育はいつも成功します。
なぜなら、子どもは親の言うことは聞かないけどすることは真似るからです。




●親が自業自得型だと子どももそうなる


別の例で見てみましょう。
私が教えた子でよく忘れ物をする子がいました。
そのことを親に相談すると、「忘れ物をして自分が困れば懲りて直すだろう。だから放っておく」という返事でした。


こういう自業自得型の親はけっこうたくさんいます。
でも、これで直った子は見たことがありません。
そもそも、もしそれで直るなら、とっくの昔に直っていたはずです。
なぜなら、もう既にそれまでにもさんざん困ってきているのですから。


放っておかれた子は直るどころかますます忘れ物が増えます。
すると、先生に叱られることも増えますし、友達からの評価も下がります。
そして、「自分はダメな子だ」と思い始め自己肯定感が持てなくなります。


そして、これほど自分が困っているのに、それに対して何の手助けもしてくれない冷たい親に対する不信感も持つようになります。
親の愛情が実感できないので、「自分は大切にされていないんだ。愛されていないんだ」と思うようになります。


このように自業自得型には効果がないばかりか、さらに大きな弊害があります。
それは、子どももこういう自業自得型を身につけてしまい、兄弟や友達に対しても使うようになるということです。




●自業自得型が身につくと友達を助けなくなる


例えば、学校で友達が「あっ、○○を忘れちゃった。ちょっと貸してくれない」と頼んできたときも断るようになる可能性があるのです。
というのも、「忘れ物をして自分が困れば懲りて直すだろう。だから放っておく」となってしまうからです。


自業自得型が身についた子は、友達から「○○が見つからない。一緒に探して」と言われても断ります。
「探し物で自分が困れば、だらしのないのも直るだろう」となってしまうからです。


「○○がわからないから教えて」と言われても教えません。
「わからないのは先生の話をよく聞いていないからだ。困ればちゃんと聞くようになるだろう」となってしまうからです。


もちろん、その度にいちいち考えてそうするのではありません。
無意識のうちにそういう発想で行動してしまうのです。
そういう発想が身についてしまっているからです。


もともと親としては忘れ物を直させたかったのです。
でも、子どもはそれは身につけずに、別のもの、つまり「自業自得型」を身につけます。
これもまた、裏の教育が成功する例です。




●親が子どもを叩けば子どもも叩くようになる


もう一つ例を挙げます。
「しつけのためなら叩いていい」という暴力肯定型の親がけっこういます。
叩かれると嫌なので子どもは従います。


でも、「本当にそうだな」と納得してやるわけではありませんから、内面的な成長にはつながりません。
そして、叩かれないとやらないということになります。


このように罰で脅すのは効果がないばかりか大きな弊害があります。
それは、子どもも暴力肯定型になってしまうということです。
つまり、友達や兄弟を暴力で従わせるようになるのです。


子どもは、親が叩くとき「言っても聞かないから叩くのだ。お前のためだ。しつけのためだ」と言うのを聞いています。
それで、「言っても聞かないときは叩いていい。相手のためなら叩いていい。正しい理由があれば叩いていいのだ」という発想を身につけてしまうのです。
そして、「正しい理由」などというものはいくらでも見つけることができます。


親はしつけのために叩いたつもりです。
人を叩くような子にしたいと思って叩く親はいません。
でも、子どもは親の意図したものではなく意図しなかったものを身につけます。


表の教育は失敗しても裏の教育はいつも成功するのです。
親の言うことは聞かないけどすることは真似るからです。
この真実を理解してください。
あなたの裏の教育は大丈夫ですか?
とんでもないモノを子どもに伝えていませんか?


子どもに対して感情的にキレてばかりいませんか?
それは、イライラしたときは相手に当たればいいと教える裏の教育です。


子どものよいところを見つけてほめる親なら、子どもも人のよいところを見つけるようになります。子どもの話を共感的に聞く親なら、子どもも人の話を共感的に聞けるようになります。このようなよい意味での裏の教育を目指してください。

初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2016年8月号』

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