「いつの世にもいじめはあり、どんな子でもいじめられる可能性はあります」と教育評論家の親野智可等さん。

そんな親野さんが最近、とくに危惧しているのは、親が忙しすぎて心に余裕がないこと。
すると、子どもの変化に気づきにくく、その結果、事態が悪化してしまうとのこと。


「子どもの多くは、直接口で訴えるのでなく、日々の暮らしのなかで、無意識のうちに親にSOSを伝えています。それは表情であったり、口調であったり、本当にちょっとしたことなのです」

「子どものSOS=変化にいち早く気づくために、毎日少しでも子どもと触れ合ったり会話をしたりしましょう。こういう時間を大切にしてください」

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■■いじめに気づくには?■■


もしもわが子がいじめられていたら…。すぐに気づくためには、そして気づいたときには、親はどうしたら? そんな読者の不安に親野先生が答えてくれました。


●普段からよく観て、よく話し、子どもの変化に敏感になって


「親が子どものいじめに気づくための前提として、〝いじめられやすいように見える子だけが被害に合うとは限らない〞という事実を覚えておきましょう」と親野さん。

「明るい子でも友達が多い子でも、いじめられない子なんて存在しない。私たちはわが子を〝いじめられにくい子〞にはできても、じめられない子〞にはできません。

だからこそ、子どもの様子や会話から、少しの変化にも敏感になることが大切です」。

〝なにかあれば親に話してくれる〞という思い込みも危険。子どもは親に心配をかけたくない気持ちから、またはプライドが傷つくことを恐れて、いじめられていることをを隠そうとするもの。

「『うちの子がいじめられるはずがない』ではなく、どんな子でもいじめられる可能性はあるという認識を持って臨むことが大切です」


●いじめられやすい要素はある程度親子で解決できる


いじめられる側に非はないけれど、じつは“いじめられやすい要素”としてあげられることはいくつかあります。

まず、体がにおったり、不潔な感じがする、太り過ぎ、やせ過ぎ、などの外見的な要素。すぐ泣く、だらしがない、自己中心的、正義感が強すぎる、などの内面的な要素。

さらに、勉強ができない、運動が苦手、転校による方言など言葉の違い、口癖など。

親が改善に向けて一緒に取り組めることも多いので、せめていじめられにくい子にするために、こういった視点からわが子を見つめてみるのもひとつの方法です

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■■1,子どもの様子をよく見る■■


●"なんとなく普段と違う"が、SOS のサイン。変化を見逃さないで!


SOSのサインはたいてい、「なんとなく普段と違う」のなかに潜んでいるもの。

表情や持ち物など見た目に変化はないか、体重や体調などはどうか、口数や話の内容に変わりはないか、遊びや登下校、金遣いなどの行動面はどうか、親友の転居など環境が変化してはいないか、などに気をつけましょう。そこにSOSのサインが隠れている可能性があります。


●SOSの見た目のサイン


□元気がない。表情が暗い。逆に、妙に明るい
□無表情になった、ぼーっとしている
□持ち物が減っている、汚れている、壊れている
□イライラしている。反抗的で怒りっぽくなった


●SOSの体のサイン


□体の不調を訴える
□体重の増減がある
□よくけがをしてくる


●SOSの言葉のサイン


□口数が減った。逆に、口数が増えた
□学校や友達のことを話さなくなった。その話題を避ける
□「いってきます」「ただいま」の声の調子が違う


●SOSの行動のサイン


□遊びに出なくなった。友達が来なくなった。遊ぶ友達が変わった
□登校を渋る、休みたがる。登校、帰宅が遅くなった。逆に、妙に早くなった
□金遣いが荒くなった。お金を欲しがる。家のお金や品物がなくなる
□修学旅行、キャンプ、社会見学、遠足、部活、塾の話題を避ける。休みたがる
□メールを異常に気にする


●SOSの環境のサイン


□友達が転出した。転入生が来てクラスの人間関係が変化した


● 参観日は家以外の子どもを知る絶好のチャンス


わが子が友達といるときにどんなふるまいをしているかを知ることも、子どもの変化に気づくためにはとても重要。

授業参観はその絶好のチャンスですが、授業中だけだと友達との関係まで観察できません。できるだけ早めに学校に行き、休み時間の過ごし方を見る、居残って掃除中の様子を見るなど最大限に活用しましょう。

また、参観日以外でも、いつでも学校の様子を見に行くことはできます。気になるときは遠慮なく見に行きましょう。


●休み時間の過ごし方


1人で過ごしているか友達と過ごしているか。
1人の場合、好きで1人なのか、だれかといたいのに1人なのか。
友達を避けていないか、避けられていないかなどをチェック


●掃除の班行動


先生の目が行き届かない掃除時間は子どもの素の姿が出るもの。人間関係はどうか、役割分担や協力はどうか、気になることはないか、などをチェック


●帰り仕度の様子


授業中の緊張が解け気持ちが解放された瞬間に、本来の姿が観察できる。カバンを取りに行く途中や支度の最中で、友達との関わりに気になることはないかなどチェック

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■■2,会話から子どもの日常を知る■■


●子どもには、気軽なおしゃべりをするつもりで常に会話を


たとえば子どもの学校での様子が知りたくて、「友達はいるの?」「休み時間はなにをしているの?」「だれと遊んでいるの?」といった直接的な聞き方をすると、「別に」「いない」といった返事しか戻ってこない子も多いもの。

とくに親にあまり質問されたくないタイプの子や高学年の子に対しては、「お母さんが子どもの頃はドッジボールがはやっててね…」「○○くんは最近元気にしてる?」など、親が自分のことから話したり、気軽なおしゃべりをするような形で話をきり出すと、子どもも自然と話しやすくなります


●子どもと直接かかわりのある大人、とくに担任の先生とはなるべく会話を


子どもは外では家とまったく違う姿を見せていることもあれば、ふるまいを場によって使い分けていることもあります。担任や元担任、保健の先生、学童クラブの先生など、わが子に直接かかわっている大人に話を聞けば、子どもの意外な一面を知れることも。

とくにいちばんの情報源、担任の先生とは、学校へ行くつどひと言でも会話をし、日頃からいい関係をつくっておくことが大切です

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■■いじめにどう対処する?■■


●いじめられる子はなにも悪くない。痛みを丸ごと受けとめてあげて


「もしも自分の子どもがいじめにあっていることがわかったら、必ず念頭に置かなくてはいけないのは、いじめられる子には原因も非も責任もないということ。

そして、とにかく子どもの話をよく聞くこと。急かさず、問い詰めず、その子の痛みをしっかり理解するよう、100%受容的、共感的な姿勢が大切です」

受容とは、その子自身のすべてを、ありのままに受け入れること。そして共感とは、その子と同じ気持ちになり、悲しさや悔しさを自分自身の心の痛みとして感じること。


「そう意識することで、子どもは安心し、親を信頼して、より気持ちや事実を話しやすくなります」。対策を練るには不可欠な情報も、子どもが話してくれないとなにも得られません。肝心なのは、最初の親の姿勢なのです。

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■■1,子どもの話をよく聞く■■


●子どもと向き合って言葉をはさまずにじっくり聞く

親がしっかり向き合い、うなずきながら聞くと、子どもは自分が受け入れられていることを実感でき、安心します。また、子どもの「疲れちゃうよ」に「そう、疲れちゃうんだ」と共感的に繰り返したり、「息が詰まるんだよ」に「苦しいんだね」など、共感的に言い換えることも有効です


●信頼できる親以外の大人から聞いてもらうこともひとつの方法

親だとかえって話しにくい場合や、親子の間に信頼関係がないときには、信頼できる第三者に聞いてもらうこともひとつの方法。たとえば、祖父母、おじさん、おばさん、担任、元担任、保健の先生、塾の先生など。ただし、とても繊細さを要することなので、人選には細心の注意を

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■■2,子どもを安心させる■■


●心からくつろげる環境をつくり、スキンシップを

いじめられている子にとって、家は唯一の心安らげる場所。家では1人でのんびりと好きなことを楽しめるよう環境づくりをしましょう。また家族とのスキンシップは子どもに安心感を与え、心を安定させます。ときには遊園地など非日常的な場所に連れ出すことも◎


●学校以外の世界をもたせ、ほめて自信をつける


塾、習い事、スポーツ少年団など子どもが学校以外の場所で、いろいろな人間関係をもてるようにすることも効果的。私にはここがあるから大丈夫、と思える場所が学校以外にあれば、それがその子の支えになります。自信がもてるなにかと出合える可能性も


●子どもを守るため、登校拒否や転校の覚悟も


どんなに努力をしても状況が改善しないときや、とにかく緊急に子どもを守る必要がある場合は、登校拒否や転校を選択してでも子どもを守ることを考えましょう。転校すれば、今までの人間関係をすべてリセットし、新しい第一歩を踏み出すことも可能です


●担任に対策を依頼。ただし細心の注意を払う


担任や校長の尽力で解決することも多いもの。緊急に担任や校長に依頼するときは手紙より電話がお勧め。直接の面談で依頼するときは、母親だけでなく父親も同行するなど、複数の大人がきちんとした服装で出向き、ことの重大さを認識してもらうことが大切。

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■■気をつける点■■


●子どもの言葉を封じる言動に注意!

元気づけるつもりでつい口にしがちな「勇気を出せ」などは、出せないから困っている子どもにとっては、逆に言葉が詰まってしまう原因に。

「お前が○○だからいじめられるんだ」など、受容、共感とは真逆の、子どもを否定する言葉も絶対に禁句。子どもを追い詰めるばかりなので注意して


●NGワード

・そんな弱いことでどうする? 勇気を出せ
・やられたらやり返せ
・いじめられるお前にも問題があるんじゃないか?
・お前がはっきりしないからいじめられるんだ

初出「ESSE」扶桑社

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