「カリスマに聞く 授業に役立つ ハート&テクニック」というテーマで親野智可等先生にお話を伺いました。

文/織田孝一


■向上心を刺激するのは「ほめる」言葉の力です。
●ほめられることがモチベーションにつながる

教育においては、学習者のモチベーションが極めて重要です。モチベーションさえ高ければ相当のことが可能になります。しかし、モチベーションの一つである「自分のありたい姿」を、本人がわかっていないことも、少なくありません。ですから、教師は胸襟を開いて話をしながら、それに気付かせることが大切です。

モチベーションを実際の行動に変えるのが「目当て」と「約束」です。小学生なら「縄跳びチャンピオンになりたい」というモチベーションがあり、「二重跳びが50回できるようになる」という目当てがあり「家で毎日30分、縄跳びを練習する」という約束があるわけです。

世の中にはさまざまな種類のモチベーションがありますが、中でも極めて大きいモチベーションが「ほめられる」ことです。子どもも大人も、ほめられればうれしいし、意欲が出ます。

ですから、早い段階からほめることが大切です。教える側はつい「良い結果を出したらほめよう」と思いがちです。しかし実は順番が逆で、人間とは、ほめられたら良い結果を出そうとする存在なのです。そして、ほめれば子どもは心を開いてくれます。この信頼関係こそ教育に欠かせないものです。

こう言うと「ほめると子どもは慢心してしまうのでは」と言う方がいます。しかし、そんなことはありません。人間には誰でも生まれつきの向上心があります。それが自信をなくすことでブロックされてしまうんですね。ほめられるとそのブロックが取り除かれてエネルギーがわき、「これでいいんだ」と動き出すことができます。相手の能力を引き出すことは、教師の重要な役目だと思っています。


●否定的な表現は徹底して排除する

ほめるのにも「ほめ方」があります。なかなか成果の上がらない子どもでも、必ずほめることのできる部分はありますから、そこを探してほめてください。また、結果でなく、努力の過程をほめることが重要です。

もちろん能力を育てるには、ほめるだけでなく、指導も必要です。それには、子どもがつまずいている部分を、ピンポイントで指摘できる能力が必要です。

例えば小学生で算数の点が伸びない子を観察すると、ちょっとした繰り上がりの法則を理解していない、といった場合があります。そこを的確に見抜いて指導しなければなりません。子どもに本当に必要な修復をしてあげるのです。

そして、つまづきを指摘する際にも、決して「何度言ったらわかるの」「そんなやり方ではだめ」といった、否定的表現は使わないことです。

教師の中には、「指導」と「叱ること」を勘違いしている人がいますが、そもそも「叱る」とは「声をあらだてて欠点をとがめる」(『広辞苑』)こと。本来の指導力さえあれば、否定的な表現で、子どもを叱る必要はないはずです。

まずほめること、そして問題点は「こうすればもっと良くなる」と、肯定的表現で指摘・修正すること。肯定的表現が難しいなら、「ここはこうしよう」と単純表現に変えましょう。

否定的表現を発したくなっても、ひと呼吸置いて、肯定的表現に置き換えます。私はそれを「自己翻訳」と呼んでいます。


●見届け表ですべての子どもとコンタクト

イメージの力も役立ちます。前述した「目当て」と「約束」を書いて、目につくところに貼っておくだけでも効果があります。

そのほか私の手法には「ヒーローインタビューごっこ」「達成イメージ作文」などがあります。すでに自分のなりたいものになったという仮定で子どもにインタビューし、気持ちを語らせたり、文を書かせたりするのです。

日本語教育の場合なら、例えば、子どもに「すでに日本で専門職として活躍している自分」を想定して何か語ってもらう、といったことが考えられますね。

教える立場にある方にぜひお薦めしたいのは「見届け表」です。人間には相性があり、子どもによって積極性や社交性も異なります。ですから放っておくと、どうしても、教師とよく交流する子どもと交流しない子どもができ、不公平感が生まれてしまいます。

そこで、子どもの名簿を用意して、声をかけたら丸を付けるようにします。これによって、どの子にたくさん声を掛けているか、声掛けが少ないのはどの子か、などが一目瞭然になります。

このような工夫をして、偏ることなくどの子とも平等にコミュニケーションを取ることが大切だと思います。


●教師の心がまえ

1.否定的表現を使わない

「なんで○○しないの? ○○しなきゃダメでしょ。何度言ったらできるの?」などという否定的表現を使うと、子どもは心を閉ざしてしまいます。こういう言葉は使わないようにしましょう。


2.つまずき部分を把握する

子どもは自分のつまずき部分に自分で気づくことはできません。つまずき部分を早期に的確に発見して、丁寧に教えてあげるのが教師の務めです。


3.子どもの実情から出発する

子どもには子どもの実情があることを知ることが大切です。健康、家庭、経済なども相まって、子どもの現在の状態があります。教師はそこをよく理解して対応する必要があります。


●ほめるときのテクニック

1.まずほめる

〈教師がほめる→子どもが意欲的になる→子どもが良い結果を出す〉のが、あるべき流れ。まずはほめるところから始めましょう。

2.部分を探してほめる

「字の形がきれい」「発言が積極的」「言葉がはっきりしていて聞きやすい」など、探せばほめるところはたくさんあるはずです。改善点がある場合は、たくさんほめた後に言ってあげましょう。

3.努力の過程をほめる

ほめるときも、他者と比べないことと結果だけを重視しないことが大切です。比べるなら過去の本人と比べて、進歩したことに注目してあげましょう。

初出:「月刊日本語」アルク
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