学年の折り返し地点となる秋。学校生活が軌道に乗ってくる半面、勉強が分からなくなったり、友だちとのトラブルが発生したりするのもこの時期だ。家庭や保護者は子どもにどう接したらよいのか、教育評論家、親野智可等さんに具体的な家庭学習の方法を聞いた。


●充実の秋、家では安らぎを
 
――この時期、学校生活はどんな特徴がありますか。

どの学年、どの教科でも、重要かつ難しい単元に入る時期です。たとえば五年生の算数では分数を小数にしたり、仮分数を帯分数になおしたりします。小学生にはかなり難しい操作です。

人間関係も、徐々に遠慮がなくなり、本音のつきあいになって、言葉づかいも乱暴になるなどします。そのためトラブルやいじめが起きたり、表面化することも多いです。

行事も多く、修学旅行や文化祭、運動会を行う学校も少なくありません。部活動も本格的になってきます。先生たちにとっては授業発表会なども重なります。子どもも先生も忙しく、ストレスがたまる時期なのです。

――そんな中、保護者はどんなことを心がけたらよいでしょう。

まず、子どもの様子をよく見ていただきたい。疲れていないか、ストレスはた まっていないか。そして家 ではリラックスしてストレスの発散ができるようにしてあげてください。

家ではダラダラしてもいいんです。それが、学校など「外」でのがんばりにつながるのです。保護者は、子どもの気持ちをまずはそのまま受け入れる「共感的」な気持ちでいることが大事です。
 

●ノートのチェックでつまずき防止

――リラックスさせつつも、難しくなる勉強についていけているのか、気になります。

親が毎日、子どものノートを見ることが効果的です。どの学年・教科でもいいのですが、特に算数は一か所つまずくと後々まで引きずる傾向があるので、習ったその日のうちに、どこでまちがえたのかピンポイントで明らかにし、修復することが大切です。振り返りテストのときでは遅いのです。

ノートは、ただばくぜんとではなく、教科書と照らし合わせて見ます。分数の通分を習った日にどこをまちがえたのか、ひと目でわかります。そこでいっしょに復習したり、似た問題を作ってやらせたりする。これを積み重ねれば、必ず苦手は克服できます。

また、記入した日付や教科書のページなど、後で見直すときに分かりやすいノートの書き方を教えてあげることもできます。できれば低学年から毎日、たとえば夕食前などに必ずノートを見る時間をつくることをおすすめします。

――誤字や雑な書き方など、注意すべき点がたくさんありそうです。

いいえ。ここで大切なのは、ほめることです。ノートを見る目的のひとつは、子どもをほめる材料を探すことだと考えてください。じょうずに書けている字を見つけたら全部花マルを書きこむ。字が雑なら「この『はらい』はきれいに書けたね」と部分を見つけてほめる。

実は大抵の場合、親が子どものノートを見ると、字が汚い、習った漢字を書けてないなど、不十分な点ばかり目についてイライラしがちです。特に男の子のノートは、多くが見られたものではありません。それでも、必ず十個はほめ、指導は1個くらいにします。

ノートを見せればほめられる、というパターンができれば、子どもは必ずノートを出してくるようになります。


●音読とクイズ作りで教科書をマスター

――ノートを見るほかには、効果的な家庭学習はありますか。

家でもっと取り入れてほしいのは、教科書の音読です。国語だけではなく、社会や理科も音読してみてください。授業も学校のテストも、もとになっているのは教科書です。声に出して読み暗記するほどになれば、授業も分かりやすくなり、テストの正答率も上がります。

さらにおすすめしたいのは、教科書クイズを親子で出し合うこと。中学受験をひかえているなら参考書から出題するのもいいでしょう。教科書から三択やマルバツなどのクイズを作ってノートに書かせるのです。

クイズを作るために、子どもは教科書を一生懸命読みます。三択なら「ひっかけ」の選択肢も用意しなくてはなりません。集中して的確に読み解き、主体的に考えます。こうして教科書の内容は意味のある記憶となり、定着するのです。

「お父さんに難しい問題を出しちゃおう」などと誘うと、子どもはいつも問題を出される立場ですから、ノリノリで取り組みますよ。


●「楽勉」で意欲引き出す

――勉強のやる気を引き出すため、ふだんからできることはありますか。

ここまでお話ししたのは、教科書や問題集を使っての「勉強」です。しかし私は勉強には二種類あると考えています。もうひとつは、興味のおもむくままに楽しみながら書いたり調べたりするむ「楽勉(らくべん)」です。楽勉は生活の中で楽しみながら子どもを知的に鍛え、勉強好きにする絶好の方法です。

楽勉のために保護者が意図的にできることとしては、教科書を見て「そろそろ星座を学ぶんだな」と分かれば星座カルタでいっしょに遊ぶ、水産業が出てくる前には漁港や魚屋さんに行ってみる、「リットル」を学ぶ前にお風呂場にペットボトルを持ち込んでみるなど、広い意味での予習です。

少しでも知っていることだと、子どもは授業でノッてきて、吸収力がぐんとアップするのです。
 
特に勉強面では、子どもに自信をつけさせることが大事です。そのために、ほめることが非常に重要です。勉強をすればほめられる、という回路を作れば、勉強が楽しくなり、もっとがんばろうという気持になります。


●中学受験は改めて実力と目的と見極めて

――中学受験を控えている保護者には、この時期、どんなアドバイスがありますか。

子どもの実力を見極めることが大事です。中学受験に向いている子は、自己管理能力が早くから高い子、成績が早くから高い子、そして公立校より独自の校風を持つ私立のほうが合う、個性的な子です。

そうでない子を、親の思い入れで無理に勉強させて「つま先立ち」で入学すると、後が大変です。私学は似たような学力の子を集めるので、ちょっとつまづいたらたちまち最下位ということもあります。

中学二年以降に伸びる子もたくさんいます。そういう子は高校受験で勝負したほうがずっといい結果が残せます。
 
無理をせず、場合によっては志望校を変える、中学受験から勇気ある撤退をすることも決断してください。ここまで努力したことは決して無駄にはならないのですから。

初出「朝日進学情報」
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