●過干渉型と放任型の親


私は講演のために新幹線で移動することが多いのですが、そこでいろいろな親子を目にします。
子どもの中には、じっと座っているのに飽きて、席を離れて通路をちょこちょこ歩き出す子もいます。


つまり探検に出かけるのです。
ここをずっと行くとどこに行くのかな?
あのドアの向こうには何があるのかな?
興味津々、わくわくしながらやる気満々で歩いていきます。


子どもが席を離れて歩き出したときの、親の対応には3タイプあります。
1つめはすぐに叱って止める過干渉型です。
「どこ行くの?ちょろちょろ動かない。言うこと聞かないともう連れてこないよ」という感じです。


2つめは放任型です。
子どもが歩き出しても放っておきます。
子どもがかなり遠くまで行ってしまってから慌てて追いかけ、「何やってるの!勝手なことしちゃダメでしょ」と叱りながら連れ戻します。


3つめは、過干渉と放任の両極端に偏ることなく、ちょうどいい対応ができるバランス型です。
子どもが歩き出すとニコニコしながらついていきます。
つまり、子どもの好奇心とやる気を尊重して付き合ってくれる親です。




●理想はバランス型


子どもが自動ドアを越えてデッキに出ます。
トイレの開閉ボタンを見つけて、「これは何だろう?押すとどうなるのかな?」という感じで興味津々、そして押そうとします。


さて、このとき親はどうすればいいでしょうか?
もちろん、トイレの中に人が入っているとか、あるいはトイレを待っている人がいるなどの場合は止めなくてはいけません。


でも、そうでないなら、特に誰かに迷惑をかけるわけでもないなら、そして危険なこともないなら、ぜひ押させてあげて欲しいと思います。
子どもは「お~、開いた。今度は閉まった!」という感じで喜びます。
機械を扱えたというちょっとした達成感も味わえますし、それが自信にもなります。


もしかしたら デッキにあるゴミ箱をのぞくかも知れません。
汚れていて触らない方がいいとか、のぞくことでゴミが散らかるなどという場合は止めなければいけません。
でも、そうでないならのぞかせてあげてください。
大人にとってはただのゴミ箱ですが、子どもにとってはとても不思議な空間であり、調べてみたくてたまらないのです。


デッキにいたとき電車が駅に止まって、ドアが開いて子どもには危険な状態になったという場合は、身体をつかまえてその動きを止める必要があります。


次に、子どもがデッキを通り抜けて次の車両に入ろうとするかも知れません。
そこが多くの客で混んでいて迷惑になるという場合は、止めなくてはいけません。


でも、危険なことや迷惑をかけるようなことがないなら、できるだけ子どもに付き合ってあげて欲しいと思います。




●放任型にも2種類ある


別の例で考えてみます。
例えば親子でショッピングモールに行って、子どもが玩具売り場とかお菓子売り場などに近寄っていったとします。
こういうときも親の対応は3つに分かれます。
1つめはすぐに叱りながら止める過干渉型です。


「どこ行ってるの?勝手に行かないよ。ダメダメ、玩具なんか見ないよ。言うこと聞かないともう連れてこないよ」という感じです。
そして、子どもが余分なことをしないようずっと目を光らせていて、少しでも何かしようとすると「ダメ! こっちにいらっしゃい! 勝手なことしないでおとなしくしてなさい!」と叱ります。


2つめは放任型です。
子どもが何をしても止めません。子どもがお菓子の袋を開けようとしても、玩具を触って壊しそうになっても止めません。


止めない放任型にも2種類あって、1つは、自分の買い物に夢中で、あるいはスマホの画面に気を取られたままで、そもそも子どもに注意を向けていないので子どもが何をしていても気づかない親です。


もう1つは気づいていても止めない親です。
人に迷惑をかけてはいけないということを、親自身が知らないのかと疑いたくなるような親も実際にいるのです。




●止めるときの言葉も大事


3つめはバランス型でこれが理想です。
子どもがお菓子や玩具の売り場に近寄っていったら、親もそれに付き合います。
子どもが商品を見ているだけなら危険でもないし、誰の迷惑にもなりませんから、それにも付き合います。


触っても大丈夫な物なら子どもが触るのを見守ります。
必要に応じて「そうっと触ろうね」とアドバイスします。
そして、これ以上触ると商品が傷んだり汚れたりするというところでは止めます。


もちろん、最初から触らないほうがいい商品は、子どもが触ろうとしたときにすぐ止めます。
これはその場の状況で判断することが大事です。
そのためには親が近くで見守る必要があります。


子どもを止めるときの言葉も大事です。
「ダメダメ!」「いい加減にしなさい!」と否定的かつ感情的に叱りながら止める必要などありません。


「これは売り物だから触らないでね」「袋が破れると売れなくなっちゃうから見るだけにしよう」「壊れやすいから触らないよ」「それ以上触ると汚れちゃうからもうやめよう」というように言ってあげます。


このようにしていれば、子どもはだんだん「なぜそれをしてはいけないのか」「どこまでよくて、どこからダメなのか」がわかってきます。
そして、判断の基準、行動の規範を学んでいくことができます。


年齢が小さくて言ってもまだ意味がわからない子なら、なおさら否定的かつ感情的に叱るのはよくありません。
何がいけないのかわからないまま、自分が否定されたという感情だけが残ってしまうからです。


そういう子の場合は、「あっちには何があるかな?」などと言って、その場から上手に離れさせるとよいでしょう。
あるいは、別のものを見せて「これおもしろいよ」と上手に注意をそらすのも効果的です。




●危険でもなく迷惑もかからないならやらせてあげよう


まとめてひと言で言えば、危険でもなく迷惑もかからないならやらせてあげるということです。
それができる親なら、子どもはやる気に溢れた意欲満々の人に成長します。


何でもすぐ止めてしまう過干渉な親だと、子どもは自分がやりたいことを抑える習性が身についてしまいます。これでは意欲的な人生を生きられなくなります。

また、放任型の親だと、子どもは判断の基準や行動の規範が身につかないままになります。危険なことや迷惑なことにもブレーキがかけられなくなってしまう可能性があります。

初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2016年6月号』