子どもを伸ばすには、叱るよりほめて―。
教育評論家の親野智可等(おやのちから)こと杉山桂一さん(52)は、小学校教師だった2003年から始めた無料メールマガジンで、「叱らない子育て」のコツを発信。「ほんの少しの工夫と発想の転換で、親も子も楽になる」と呼び掛けている。
●苦い経験
ほめることの大切さに気づいたのは、教師としての苦い経験がきっかけだった。
「ある時、指導力に定評のある2人の先生と同じ学年を受け持つことになり、自分のクラスを良くしようと焦ってしまった。叱ったり怒ったりすることが増え、それでも言うことをきかないとイライラ。叱るたびに生徒が言うことを聞かなくなっていることに気づいた時には、もう遅かった」
その後、担当したクラスでは、叱らない指導を心掛けた。
「時間が守れない子、片付けができない子もいます。やるべきことを紙に書いて貼るなど、苦手なことができるようになる工夫をいろいろ考えて、それでもだめなら目をつぶる。その代わり、長所は、おおいにほめるようにしました。
ほめられることで子どもは自己肯定感を持ち、ほかのところでもやる気を持てるようになります。机の上に置いたハンカチをイメージしてください。持ちやすいところを持って上げれば全体が上がる。でも、わざわざほつれたところを持てば落ちてしまいます」
●ほめる子育てを
教室では確かな手応えを感じる一方、家庭で親からほめてもらっていない子どもが多いことが気になった。
「親が子を叱るのは昔も今も同じですが、昔は、祖父母や友達、地域の大人などの逃げ場がたくさんあり、学校や家庭以外にも、何かに熱中し、誰かにほめてもらえる場がありました。最近は中学受験熱の高まりもあり、そうした余裕がますますなくなっているのが気掛かりです」
保護者との懇談会では、我が子のいいところを100個書き出してもらうようにした。
「はじめは『計算が速い』『手伝いをしてくれる』など、親が望むイメージに沿ったものしか出てきませんが、発想を変えていくと『怒られてもめげない』『よく笑う』など、当たり前と思っていたことや見方次第でプラスにとれることもあげてくれるようになります。
親の価値観を脇に置いて、ありのままの我が子を見れば、ほめるところはたくさん見つかるのです」
●メルマガで発信
1人でも多くの親に「ほめる子育て」を実践してもらおうと、03年にメールマガジン「親力で決まる子供の将来」の発行を開始。子どもを伸ばす親の役割を「親力(おやりょく)」と名付け、ペンネームも「親の力」に語呂合わせした。アドバイスの中で特に強調する「親力」の一つが、「自己翻訳力」。子どもに対する否定的な表現を言い換えることだ。
「『生まなきゃよかった』といった直接的な存在否定は論外ですが、『○○しなくちゃだめでしょ』『どうして○○しないの』など、多くの親が口にしている否定表現も、繰り返し聞かされている子どもの心にはボクシングのジャブのように効いて『どうせ自分はだめだ』『がんばれない』と思ってしまいます。これを『○○するといいよ』というプラス表現や『○○しなさい』という単純な命令形に言い換えるだけでいいのです」
悩んだり落ち込んだりしている子どもには、先回りしてアドバイスしたり叱ったりするより、まずは、つらい気持ちに寄り添い、共感することを勧める。
「人生の土台を築く子ども期に一番大切なのは、自己を肯定し、身近な人を信頼すること。その土台ができた子どもは、新しいことにチャレンジする勇気を持つことができます」
メールマガジンは06年に教師を退職後もほぼ毎日のペースで更新を続け、バックナンバーは1300件を超えた。「メールが届くことで、つい子どもを叱ってしまう親が、親力に気づくきっかけにしてほしい」と願っている。
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