●友達力をつけるために「熱中する世界を持つ」

日経DUAL編集部 2回目のときに、愛情不足になると他者不信感を抱えてしまい、友達と良い関係が築けなくなるといったお話を伺いました。小学校入学に伴って、わが子は友達とうまくやっていけるのだろうかというのも、親の大きな関心事だと思います。どんなことをしておけばいいのでしょうか?


親野さん(以下敬称略) 私は「友達との人間関係をうまく調節する力」のことを「友達力」と呼んでいます。この友達力をつけるためには、まず、友達と遊ぶ機会を増やすということが大事です。

 あとは2回目でもお話ししたように、日ごろから親が言葉を直すことで、子どもの発する言葉が良くなれば、友達関係もおのずと良くなっていきます。

 それとともに、もう一度言いますが、親は叱ることを減らす。とがめることをやめて褒めるようにする。さらに、子どもに対して共感に徹してあげることも大事です。子どもが何かを失敗すると「そうじゃないでしょ!」と、頭ごなしに叱ってしまいがちですが、そうではなくて、話を聞いてあげて「そうなんだ」とか、「大変だったね」「嫌だったね」といったところから会話に入っていくようにすることを忘れないようにしていただきたいですね。

 子どもが他者不信感を持たないようにするには、「子どもを叱ることを減らして、褒めることを増やす」ことと、「子どもに共感する」ことの2つがポイントになります。これを心がけてさえいれば、他者信頼感が生まれ、友達関係を築くうえで一番大切な土台をつくることができます。


──友達力に必要な調節する力というのは、どういうものでしょうか?


親野 友達と遊ぶことも大事なのですが、一方で“一人でいる力”も必要になります。一人でいる力がなければ、いつも友達に頼ってばかりになってしまいますから。

 一人でいる力というのは、一人でも何かに熱中できる時間を持てるということなんです。好きなこと、あるいは好きな世界を一つでも持っている子どもは、一人でも平気です。何かに熱中する体験がたくさんある子どもは、友達に頼り過ぎることなく、バランス良く友達関係を築いていけるのです。

 そうなると、友達と群れてばかりということにはならず、自分のなかで完結した生活もできるようになるのです。ところが、一人でいる力がないと、誰かが誰かをいじめようといった雰囲気になったときに、その輪に加わらないと自分も遊んでもらえなくなるといった状況が発生してしまいます。でも自分はその輪に加わらなくて大丈夫と思える子どもは、いじめに加担しないで済むわけです。

 つまり一人でいる力が弱い子どもは、いじめっ子の仲間に入って安泰を図ろうとしてしまう。一人でいる力がある子どもは自分の世界があるので、群れなくても平気です。それが、熱中する世界を持つということなんです。


●「いじめ」に対する切り返しの練習をしておく


──いじめ問題というのも、小学校に入ってからの心配事の一つだと思いますが、1年生からでもあるものなのでしょうか?


親野 それはもう、保育園や幼稚園でも既にありますから。人間関係があるところには常にあるものと考えていいと思います。いじめているつもりではなく、ふざけてからかっているつもりでいても、やられた子どもからすればいじめられたということになります。

 そういうときに「いじめられた」と、ただ泣くだけでは、ますますいじめられてしまいかねません。そういうことにならないよう、切り返す練習をしておくのもいいでしょう。いじめに限らず、いろんなシチュエーションで友達との会話のやり取りをあらかじめ、親と一緒に練習しておくのがオススメです。


──切り返しの練習というのは、どういうものですか?


親野 友達とのやり取りに必要な言葉をロールプレイで練習するんです。うまく友達と遊べるのか心配であれば、例えば、お父さんが友達A君で、お母さんが友達Bさんになって会話のやり取りを練習するのです。A君とBさんが楽しく会話しているところに、子どもが仲間に入れてもらいたいというシチュエーションで、「ボクも入れて」と実際に口にして言う練習をするのです。

 ここで大事なのは、その場面を設定して、実際に本人が口に出して発音すること。これをやっておくと、実際の行動につながりやすくなります。そのときにちょっと変化をつけてみて、A君が「もう始まっちゃったからダメよ」と言ってみて、子どもがどう切り返すかを練習してみる。

 「じゃあ、見てていい?」とか「次に入れてね」など、うまく切り返すようなことを言えるようになれば大丈夫なのですが、ウーンとなって黙り込んでしまうようでは良くないですよね。さらに、ワーっとなって「入れてもらえなかったあー!」と泣いてしまうようでは、心配です。

 このように、いろんなシチュエーションで練習してみて、切り返す練習をする。こういったロールプレイは、友達力に心配がある子どもの場合、とても有効だと思います。


──意地悪なことを友達にしてはいけないよ、と言うばかりではなく、実際にちょっとした意地悪をされたとき、どう切り返すべきなのかを練習しておくのはいいかもしれませんね。


親野 なかなか切り返すことができない子どもはいますからね。わが子が心配であれば、いろんなシチュエーションを設定して、練習しておくと、実行しやすくなります。

 例えば、ありがちなシチュエーションでは、友達にカバンを持たされて、わが子が泣きながら帰ってくるとか。そういうときには、ロールプレイで「おい、おまえ、オレのカバン持てよ」と言ったらどう切り返すのか。「じゃあ、ボクのカバンを代わりに持って」とか、「じゃあ、順番だよ」「ジャンケンで決めよう!」などと切り返す練習をしておくと、いざというときに役立つでしょう。

 切り返しの見本を、最初は親が見せてあげてもいいですし、一緒に考えてみるのもいい。実際の言葉で声に出して言わせるようにしてみましょう。


●親が子どもを直接変えることはできない


──他者信頼感を持つようになるためには親への信頼感を高めることが大事だという意味では、親も努力しなければならないと思います。親もわが子の小学校入学を機に子どもと一緒に成長していかなければならないということでしょうか?


親野 全くその通りです。小学校入学というのは、親がひと段階、成長する機会だと思います。逆に言えば、親は子どものために変わりたいと思える時期でもあります。

 究極的な話をすれば、「教育とは何か?」ということなんです。教育というのは「教育者が変わること」だと私は思っています。教育者でも親でも、子どもを変えることはできません。なぜなら、人間同士だからです。

 教育者だけでなく親も、ついつい子どもを変えたいと思ってしまいます。でも、それはせんえつなことなんですよね。変えたいと思うのは、自分だけが正しいと思っているからです。しかし、絶対にそんなことはない。子どもには子どもの、これまでの生きてきた“文脈”があるのですから。

 親は子どもを見て「これじゃあダメじゃん」って思うけれど、その子は今、そういう状態でいる必要性があるんですよ。それを親はすべて分かってあげることはできないのです。だからこそ、子どもを自分の思い通りに変えようとするのは、やってはいけないことなんです。

 そうではなく、親である自分が変わる。その影響が、自然にわが子に及んでいくようにするというのが、私は子育てにおいて目指すべき姿なのではないかと思っています。子どもを変えようとするのは、やってはいけないことなんです。

 親が子どもを直接変えることはできません。親が変わらなければ、子どもも変わらないんです。

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つづく
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