●“地頭”が良くなる“好きなこと”の深め方
日経DUAL編集部 第4回では、読み聞かせや読書をする体験が知的レベルを上げるといったお話をお聞きしましたが、他にも勉強ができるようになるためのアドバイスはありますでしょうか?
親野さん(以下敬称略) 小学校に入学すると、それまでの生活にはなかった勉強というものが始まることになりますよね。この勉強を自分なりに楽しみながらやっていけるようになるには、“地頭”を良くしておくことも重要です。
基本的な頭脳の性能のことを、私は“地頭”と呼んでいます。地頭がいい、というのは、コンピュータでいえば、CPUの性能が高いということです。この地頭を良くするのに重要なのが、“熱中する体験”なんです。頭が良いということは、シナプスの数が多いということ。このシナプスが増えるのが、喜びを感じながら頭を使っているときなんです。
例えば、子どもがアンパンマン図鑑でたくさんのキャラクターたちを覚えたとしましょう。たいていの親は「アンパンマンなんか覚えたってしょうがないでしょ」と思いがちですが、そうではありません。アンパンマンのキャラクターを覚えているときに脳が耕されて、脳のコンピュータ性能はグングンと上がっているわけです。つまり、地頭が良くなる。
このキャラクターとこのキャラクターは色が違うとか、能力も違うとか、そういった比べる力や認識力も養われますが、これらはすべて勉強の基礎となる力でもあります。しかも、好きなものであれば夢中になって図鑑を読むので、自然と文字も読めるようになりますし、語彙も増えます。
好きなことであれば多くのことを覚えようとする意欲にあふれているので、記憶力も鍛えられますし、情報処理能力や表現力もつくようになります。すべてが、勉強するときに役立つ脳の働きなのです。実は、大好きなアンパンマンに夢中になっているときに、子どもの頭の性能がアップして、勉強したことがスイスイと頭に入る高性能の脳ができるのです。
──親には何の役にも立たないとしか思えないようなことであっても、それに熱中する体験をさせてあげることで、地頭が鍛えられていく。好きなモノであれば何でもいいのでしょうか?
親野 そうです。何でもいいんです。ただ、そこで忘れないでいただきたいのは、子どもが熱中していることを親が応援してあげるということです。例えば、粘土で遊ぶのが好きだったら、粘土で遊ぶのを応援してあげる。
油粘土で遊ぶことに夢中になっているようだったら、カラー粘土や紙粘土も用意してあげるなど、発展や深化ができるように応援してあげましょう。できた作品を写真に撮ってあげて、飾ってみるなど、親が応援してあげる方法はいろいろとあります。
親の応援がないと、いくら好きなことが見つかったとしても「ちょっと好き」くらいで中途半端に終わってしまうものです。それ以上、深めることができません。子どもにはお金もないので好きなモノを買えませんし、情報もありません。ところが、親が応援してあげて、好きなことを深めることができるようにしてあげると、ますます楽しくなるのです。
すると、子どもは好きなことに自信を持つようになります。「ボク(わたし)はこれだけは絶対に負けない」となる。すると、自己肯定感も高まります。それによって、他のことでも頑張れそうな気がしてくる。しかも、親に褒められる回数が増えるので、親子関係もさらに良くなります。好きなことを親が応援してくれると、感謝するようにもなります。
さらに、自分が楽しいと思ったり、好きなこと、やりたいことは自分でどんどんやっていくようになります。そこで、「自己実現力」もつくようになります。これが非常に大事なことですね。最近の子どもというのは、親に何かを“やらされる”ことが多くなりがちなのです。
「やりたいことがない」という子どもが時々います。そういう子どもの場合、親がやらせたいと思ったことばかりやらされているのです。そうなると、親にやらされていることをやることが自分の喜びだと勘違いするようになってしまいます。これは良くありません。自分がやりたいことをどんどんやる。それこそが、本当の自立に向けた第一歩なのです。
●都会の子どもは、自然体験に乏しい
──子どもは好きなもの、熱中するものがコロコロと変わりやすい面もありそうですが。
親野 子どもというのは、途中で飽きてしまうのが当たり前です。そこで無理強いはしないようにしましょう。「もう飽きちゃったの? ダメでしょ。せっかく買ったんだから、毎日遊びなさい!」などと言ってしまうと、その好きだったモノがたちまち嫌いになってしまいますから、それだけはしないようにしてもらいたいですね。
わが子のことをよく観察して、好きなことを応援してあげたいと思っても、何が好きなのかよく分からないということもありえます。そういうときは、色々、お試しをしてみるのがいいでしょう。例えばブロックで遊ばせてみて、イマイチだなと思ったら、お絵かきを勧めるなど、別のモノで遊ばせてみる。
習い事などもみんなそうですよね。やってみないと分からないものなんです。やってみて、反応が良さそうだなと思えば続けてみればいい。それでも飽きたのであれば、深追いはしない。それを無理に続けさせると、嫌いになるだけでなく自信もなくなってしまいます。子どもというのは、好奇心が旺盛な半面、基本的に飽きっぽいということを親は分かってあげておくのがいいと思います。そのうえで、わが子の“好き”と“やる気”の旬を応援し続けてほしいと思います。
──他にも、親野さんが感じていることで、小学校入学前に体験させてあげたほうがいいと思うことなどありますでしょうか?
親野 豊かな自然体験ですね。特に都会の子どもは、自然体験に乏しいですから。花でも野菜でもいいので、植物栽培などをぜひ体験させてあげてほしいと思います。あるいは昆虫体験もいいでしょう。昆虫を捕りに行ったり、飼育してみるといった体験をできるだけさせてあげたほうがいいと思います。
そういった体験がいっさいないまま、いきなり勉強だけしても、興味を持てるものが、どうしても少なくなってしまいがち。ただ頭で覚えるだけのものになってしまいます。
生活科という授業では、植物を栽培したり、昆虫を飼育したりします。特に昆虫飼育で虫が怖いという子どもがとても多い。触ったことさえないのですから、授業も消極的になってしまいます。保育園や幼稚園などでは、そういった体験を積極的にやっているところも多くなっていますが、できれば、親と一緒に体験できるといいのではないでしょうか。
●ホンモノの自然体験をたっぷりと
親野 なぜかといいますと、ホンモノの自然体験をしていないと、何に関しても頭だけでの理解になることが多くなってしまうからです。例えば、カブトムシを幼虫や卵から親と一緒に飼育した経験のある子であれば、途中でサナギになって成虫になるまでの過程を知っています。
3年生になると、昆虫には2種類あって、途中でサナギになるのは「完全変態」で、バッタのような、途中でサナギにならずに成虫になるのを「不完全変態」だと習うわけです。そのときに「ああ、そういえば、カブトムシはそうだった」と、経験したことがある子どもは深く納得します。
ところが、何も経験していない子どもにとっては、どうでもいいこととしか思えないのです。とりあえず、「バッタは不完全変態で、カブトムシは完全変態」だから覚えておこうと思うだけ。それではつまらないですよね。
──同じ学びにしても、実際に体験したことに関連しているかどうかで、興味の持ち方も大きく違ってくるということですね。
親野 そうですね。さらに、小さいころに自然にたっぷり触れておくということは、感性を育てるという意味でも、とても大事なことです。もちろん、絵本の世界にたくさん触れる体験も感性を大きく育ててはくれますが、あくまでも想像の世界でしかありません。
夏の里山に行ったり、水田を眺めて草の匂いをかいだりしてみる。たくさんの落ち葉を布団にして寝てみたら暖かかったとか、そういった体験もとても大事です。
蝶々をジックリと観察したり、クモの糸に水が滴っていて美しいなあと思うといったホンモノの自然体験は、子どもの感性を育ててくれます。自然は奥深いものですから、感性とともに、創造力も無限大に広げてくれます。こういった力は、芸術的な創造力や科学的探究心の源にもなります。
「不思議だなあ」とか「キレイだなあ」と感じる力が源となって芸術や科学は発達してきたわけですから、そのモチベーションの根本になる体験をしてきた子どもと、そうでない子どもとでは、後々の伸び方が大きく異なってきます。
想像の世界だけでは、どうしても薄っぺらいものになりがちです。すべての勉強において、ホンモノの体験が薄いままだと、動機付けができないので勉強でもなかなか伸びません。とりあえず、勉強だから覚えておこう、といった感じで終わってしまうのです。
──親のどちらかの実家が地方であれば帰省時に自然に触れさせることもできますが、それができない場合はどうするのがいいのでしょうか?
親野 東京であれば、高尾山あたりにちょっと行ってみるといったことでもいいのではないでしょうか。ちょっとだけ親が意識してあげることができれば、自然に触れさせる体験ができるところは他にもたくさんあると思います。
もちろん、遠出しなくても、近くの木々がたくさんあるような大きめの公園でもいいと思います。大きな木があれば、秋から冬にかけてはドングリがあったり、落ち葉もたくさんあるわけですから。もちろん、そういうところでは昆虫採集だってできるでしょう。都会でも親が意識さえすれば、できることはたくさんあると思います。
すべてが想像の世界だけでは、バーチャルな体験ばかりになって、どうしても肝心なところが抜け落ちてしまうものなんです。親が意識して、できるだけ色んな自然体験をさせてあげられるように工夫をしてもらいたいですね。
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