●「自由研究」から「自慢づくり」へ、学校の宿題が「変化中」

 


かつては夏休みの宿題に「自由研究」があったことを覚えている読者も多いだろう。

自分で決めたテーマについて調べたり実験したりして、それをまとめるなど、どちらかというと理科的な内容が多かった。



現在の学校では、「自由研究」という言葉はあまり使われない。

「研究」というより、もう少し広い範囲で捉えられている。

絵が好きな子は絵を描けばいいし、工作でも、ドリルでも、読書感想文でも何でもかまわない。

なんでもいいから「自慢できるもの」という意味合いが強くなっている。


 

したがって、理科的な自由研究はそのうちの1つなのだが、親の世代では昔ながらの自由研究と勘違いしている人も少なくないようだ。



 

自由研究に代わる適切な言葉がないので、とりあえず「自由課題」とここでは呼ぶが、親が我が子の課題への取り組みをサポートする場合、以下のような3つの方法論があると考えていい。



●自己興味発展型

●もののついで型

●思い付き単発型



今回は、この3つについて解説していこう。





●「自己興味発展型」を、親子で楽しむには

 


1つめは、子どもが普段から興味を持っていることを夏休みでさらに深め、それをまとめる方法だ。

私としてはこれを最もお勧めしたい。


 

たとえばサッカー好きの子ならば、サッカーの歴史や戦術、有名選手の出身地や得意技を調べてまとめれば、立派な研究になる。


 

もともと好きなことだから、子どもが熱中して一生懸命取り組む可能性が高い。

だから、これは「楽勉」でもある。


 

しかし、実は、子どもだけでは、いくら好きなことでもなかなか深められない。

何をどう調べればいいかわからないし、行動力もおカネもない。

そこで、親の手助けが必要になる。


 

金魚が大好きなら、卵を孵化させたり、図鑑やネットや水族館で調べたり、エサを工夫したり、病気やその予防について研究するなど、親も楽しみながら一緒にやればいい。


 

その調べたことを文章にまとめ、対象物を写真に撮り、イラストに描き、記録を作って、スケッチブックにまとめれば完成だ。





●なぜ「紙にまとめる」ことが重要か

 


特に「紙にまとめる」ことが大切である。

楽勉を紙にまとめることを私は「紙勉」と呼んでいるが、紙勉は学問そのものである。紙勉が楽しいとなると、間違いなく勉強好きになる。


 

勉強とは、決して問題集を解くことだけではない。

勉強や学問の本質は、興味があることをとことん調べたり研究したりして「まとめる」ことだ。

小学生の頃から紙勉を身に付けると、勉強や学問の楽しさを知ることができる。

長い目で見て、学力を伸ばすための一番大事な土台になる。


 

自由課題を楽しみながらやれれば、自然と地頭が鍛えられ、自信が付き、知識の深め方を知ると共に深める喜びを知る。

さらに、親にほめられながら一緒に取り組めば、親子関係も良くなる。


 

つまり、いいことばかりだ。


 

自由課題のテーマは、どんなことでもいい。

親がたとえ下らないと思っても、子どもがそのことを好きならば、手伝ってやるべきだ。



大切なのは、「親にとって価値が高いかどうか」でなく、「本人が興味を持って取り組めるか」どうかだ。

子どもの熱中体験を応援して深めさせてやることが、一番大切なのだ。





●「もののついで型」は、時間のないお父さんに最適



夏休みでも「なかなか時間が取れない」お父さんにお勧めなのが、何かのついでに自由課題を仕上げてしまう方法だ。


 

たとえば、家族で旅行に行ったり、美術館や博物館を見学したり、あるいは何らかの本物体験をしたときなどに、それを記録し紙にまとめる。


 

子どもにとって、インパクトのある体験は楽しい思い出になり、喜んでまとめようという気にもなりやすい。


 

北海道に旅行に行って電車に乗ったなら、その時刻や駅名や路線名を記録しておく。

場所を地図上にマーキングし、通過駅をチェックしておく。

電車好きの子なら、喜んでするだろう。


 

自動車で移動したなら、その経路を地図やノートに記録し、通過した町の名前や食べたものなどをメモに残しておく。

さらに、ちょっとした感想を書いたり写真を撮ったりしておくといい。


 

立ち寄った漁港の水揚げの様子を写真に撮ったりスケッチしたりして、それをスケッチブックに貼る。

また、博物館や資料館などの資料やチケットをスケッチブックに貼る。

そして感想を書けば、形としてまとまる。





●「もののついで型」の利点は「時間節約」だけではない



こうした「ついで型」は、わざわざ新しいことに取り組むのではなく、本物体験のついでにできるので、時間の節約になる。

ただ、注意してほしいのは嫌がる子どもに無理強いしないことだ。

それでは、せっかくの楽しい旅行が台無しになってしまう。


 

この方法は、旅行のような大イベントでなくてもできる。

スーパーに買い物に行ったついでに、外国から輸入された食材を調べたり、野菜や果物の産地を記録するなどして、気が付いたことや感想を書くという方法もある。



2週間も記録すれば、大変な研究だ。

店に断って写真を撮ってもいいだろう。


 

また、テレビを見ていても研究はできる。

たとえばNHKの『週刊こどもニュース』をチェックして、ニュースの概略をまとめ、感想をメモする。

ニュースや解説に出てきて言葉や地名や動物などを調べる。


 

アイデア次第で、日常の生活の中から、知的好奇心を刺激する材料を集めることができるはずだ。





●「思い付き単発型」は簡単だが、押し付けにならないよう工夫を



本やネットで調べると、「自由研究のやり方」についていろいろな情報が出てくる。

それを参考にする手もある。


 

本やネットのアイデアを実行して、それをきっかけに子どもの興味が広がったり、親子で楽しむ中でコミュニケーションが深まることもある。


 

本やネットの他にも、学校の教科書にも自由課題のヒントはたくさんある。

たとえば、各単元の最後には「わくわくチャレンジ」や「やってみよう」といった吹き出し(囲み)がある。


 

これは習った内容をさらに発展させるためのものなのだが、学校では時間がなくてやれないことが多い。


 

3年生の理科では太陽の働きを学ぶ。

それを補強するために、「水に色を付けて太陽光の吸収の違いを調べる」実験がある。

水をペットボトルに入れ、赤・青・黒の画用紙で囲ったり、絵の具を溶かして水に色を付けたりして、温度の上がり方を調べるのだ。


 

とても面白い実験だが、学校ではなかなかやれない。


 

6年生の理科で地層の勉強をするが、教科書やテレビを見るだけで終わってしまう。

実際に見に行けば「本物体験」になるし、子どもの記憶にも残る。


 

ほかにも、リトマス試験紙で家にあるいろいろな液体を調べるなど、学校で一度学んだことを、再び家庭で追体験するのも面白い。


 

環境教育も盛んになってきたので、我が家のエコ対策をまとめるのもいいだろう。


 

ただし、これら「思い付き単発型」には問題点がある。

親の押しつけになる傾向があるのだ。

子どもにとって突然の提案になりがちなので、子どもがそのテーマや話題に「乗ってくる」かどうかわからない。

乗らないものを無理にやらせることは良くないので避けよう。





●テーマとまとめ方で用紙を選ぼう

 


最後に、調べたり研究したことを「どのようにまとめるか」、お伝えしたい。


 

成果をコンクールなどに応募したい場合は、よく募集要項を読むことが大切だ。

まとめ方や文字数、紙やノートの大きさなどに規定がある場合がある。

研究の動機や目的なども重要だ。


 

学校に提出する場合は、まとめ方や用紙などは自由だろう。

テーマによって効果的なまとめ方と用紙があるが、その種類は以下のように6つほど考えられる。



●厚手のケント紙、模造紙、画用紙

1枚のケント紙、模造紙、画用紙にまとめる場合、手間は掛かるが見栄えがする。

写真や絵などを多用するときはいいだろう。



●アルバムやスケッチブック

アルバムやスケッチブックは短時間にまとめられ、仕上げたときの充実感もある。

保管して取っておくのにも最適。



●ノート

子どもはノートに慣れているので、取り組みやすいし、書きやすい。



●手作りワークシート

目的に応じて必要なワークシートを手作りすると、まとめやすい。

上に絵を描き、その下に文章を書くワークシートは、何かの変化を継続的に観察してまとめるときに向いている。



●原稿用紙

文章で勝負の場合は、簡潔に原稿用紙でもいい。

読書感想文や詩や物語などに最適だ。



●巻紙

巻紙は珍しいので、子どもが乗って来やすい。

旅行記や自分の生い立ちなど、時間の流れで書き進むときに楽しんで取り組める。

いずれにせよ、テーマとまとめ方に合わせて、よく考えて媒体を選ぶのが「コツ」だ。





●夏休みこそ、子どもを育てる最適の「楽勉時間」だ

 


せっかくの夏休みだからこそ、普段忙しいお父さんたちも、我が子に少しだけ時間を割き、一緒に自由課題に取り組もう。

会社で報告書やレポートを書いているお父さんなら、お手の物だろう。


 

ただし、繰り返すが親の価値観で「こんな下らないことをやるな」とは、決して言わないでほしい。

主役は子どもなのだから、子どもが楽しめるようにすることがポイントだ。


 

なんでもいいから「自慢できるもの」という意味合いが強くなっている、今の学校の夏休みの宿題の状況を考えた上で、子どもと一緒に楽しみ、そして学問の本質を身に付けるような体験をさせてあげることこそ、何にも代え難い貴重な体験なのだ。

初出「親力養成講座」日経BP 2009年 7月3日

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