いよいよ楽しい夏休み。遊び、家事(お手伝い)、勉強、運動、いろいろな面でいい夏休みにするには、なんといっても健康が第一だ。

そのためには、早寝早起きで生活のリズムを整えることが必要だ。



そこで、今回はまず、子どもに早寝早起きをさせるにはどうしたらいいか考えてみたい。




早寝をするには、朝「あること」をするといいということが最近の研究で分かってきたそうだ。
「あること」などともったいぶって言ったが、それは、朝の光をしっかり浴びることだ。

日本で初めて睡眠学講座を開設した滋賀医科大学の宮崎総一郎教授は、次のように言っている(毎日新聞大坂版2008年5月10日夕刊より)。


「人間の体内時計は1日を24時間半から25時間と認識しているため、強制的にリセットしないと夜更かし朝寝坊は段々ひどくなる。リセットの役目を果たすのが朝の光だ。カーテンを開けたり外に出て太陽の光をしっかり浴びると、その15~16時間後にメラトニンというホルモンが分泌される。このホルモンが呼吸や血圧、体温を低下させて体を入眠に適した状態にする」。


朝の光をしっかり浴びることが夜の早寝につながるとは、わたしが子どものころは誰も知らなかったはずだ。
もちろん経験則でそう感じていた人もいたかもしれないが、朝の光を浴びてから15~16時間後にメラトニンが出て、それで入眠準備ができるなどということは誰も知らなかったはずだ。


さらに、宮崎教授は次のようにも言っている。

「睡眠時間の不足や生活リズムの乱れが集中力や記憶力、学習能力に悪影響を及ぼす」
「夕方以降に明るい光を浴びるとメラトニンの分泌は抑制され、体は眠りに就く準備が困難になる。コンビニなど非常に明るい場所に遅くまでいたり、住宅内でも明るい蛍光灯の部屋で過ごすと入眠にはマイナスだ。暗めの間接照明の部屋などで過ごした方がスムーズに眠りに就きやすい」。


この記事の中では触れられていないので付け加えるが、テレビやゲームなどで遅くまで明るい画面を見ているのもこれと同じだ。




●早寝早起きのための工夫とは?


ところで、朝の光を浴びることとともに大事なのが、日中に体を使った活動をたっぷり行うことだ。
体を使った活動を十分にすると、交感神経が全開になる。
そして、夜になったとき副交感神経への切り替えがうまくいく。
それで、自然に眠たくなる。


この反対に、日中に体を使った活動を十分行わないと交感神経が全開にならない。
そういう子は、夜になったとき副交感神経への切り替えがうまくいかない。
それで、いつまでも眠たくならない。


さらに、自律神経が適切に働いているかどうかは、ただ睡眠や早寝早起きの問題に留まらない。
血液循環、呼吸、消化、吸収、発汗、体温調節、排泄、内分泌、精神衛生、などなどすべてに影響する。
一言で言えば、心と体のすべての健康のもとなのだ。


ここまで言ってきた「朝の光を浴びる」「日中の活動量を増やす」のほかにも、食事をきちんと取ることも生活リズムを整える上で大切なのは言うまでもない。


親がこれらのことを理解していれば、子どもにも早寝早起きを身に付けさせることができ、健康な毎日を送ることができるのだ。


ところで、わたしも早起きが苦手だ。
なぜかというと、血圧が極めて低いからだ。
それで早起きのために、いろいろなことをやってきたし、今もやっている。


早起きのためのわたしのオリジナルの方法を三つ紹介しておこう。


目覚まし時計を三つ用意して、枕元から1メートルずつ離して置く。
三つ目を止めるには3メートル歩かなければならないので、けっこう目が覚める。
もちろん、五つあれば、その距離を5メートルにすることができる。5メートル歩いたらもうそこは洗面所ということになれば、効き目は大きい。


枕元にキシリトールガムとおしぼりを置いておく
目が覚めたら、ガムを口に入れて噛み始め、おしぼりで顔を拭いて、両手両足を開いたり閉じたりするニギニギ体操をする。


このように、とにかく体の中で簡単に動かせるところを動かすことで、交感神経に切り替えていく。
こういうことは、朝、ぱっと起きられる人にはその必要性が理解できないかもしれないが、朝が苦手な人には役立つと思う。
子どもにも教えてやって欲しい。


そして、早寝早起きができなくて、毎日朝から「早く起きなさい。いつまで寝てるのっ!!」「毎日同じこと言わせないでっ!!」としかられ続ける子どもを救ってやってほしいと思う。


わたしがいつも言っていることだが、口でしかるだけでなく、合理的な工夫をして問題解決をしてほしい。
もちろん親が教えてやってもいいし、親子で考えてもいい。


親が合理的な工夫で問題解決する姿勢を見せること自体がとてもいい教育になる。
つまり、子どもも、何か問題が生じたときは工夫して解決しようという精神を身に付けることができるのだ。


●夏休みは母子のストレスがたまる時期




夏休みは、他の時期に比べたら親子で一緒にいる時間が長くなる。
特に、専業主婦の場合はそれが顕著だ。
一緒にいる時間が長くなるのは触れ合いの時間が増えることでもあるが、その分お互いのストレスがたまるということでもある。


子どものなかには、「親にしかられることが増えるから夏休みはあまり好きではない」という子もいるのである。



そこで、できるだけしからないですむような工夫を紹介してみたい。
自分の家でも使えそうなものは使って欲しい。
もちろん、お父さんが読んでいる場合は奥さんに情報提供してほしい。



片づけは、毎日決まった時間に「片づけタイム」を設けると効果的。
毎日10分でいいから、その時間を片づけに集中させる。
親子で片づけてもいいし、親は親の片づけ、子どもは子どもの片づけ、というようにしてもいい。
それは子どもの実態に合わせればいい。


毎日の片づけタイムを確実にやれば、「片づけなさい!!」としかりつける必要はなくなる。
親も片づけタイムを毎日10分やれば、家の中が確実にきれいになっていく。
これは、わたしのイチオシの中のイチオシだ。
わたしも毎日夕食後にやっている。



それと、できるだけ短時間で片づけができるような工夫をしてやることも大切だ。
ワンタッチ収納とまではいかなくても、それに近くなるようにしてやるといい。
簡単に片づけられるようにしおいてやれば、子どももそれほど面倒がらないで片づけるようになる。



「棚や箱以外にものを置かない」「出したら戻す」など、片づけのポイントや手順を書いて壁に張ったり、収納場所に分類ラベルを張っておくのも効果的。

家のお手伝いもぜひ、1日の予定に組み入れてほしい。子どもなりに任されたことを考え、段取りを工夫することが地頭を鍛えることにもなり、使える学力を伸ばすことにもつながる




●親が工夫すれば勉強でもしからなくて済む
 

勉強面でも工夫が必要。
毎日の勉強は決まった時刻に始めることが大切だ。
そして、最初にやることを決めておくといい。
それでないと、勉強開始時刻になっても「うーん、何からやろうかな‥‥」と言っているうちに10分くらい過ぎてしまう。
 

まず最初は、百ます計算のようなものからやるといい。
これは、単純ですぐやり終われるので取り組みやすい。
2、3分でできるのがいいのだ。


そして、「まず一つはやった」ということで達成感を持てて気分もいい。
しかも、単純計算をすることで脳の中の血流がよくなるので、脳のウォーミングアップにもなる。


この反対に、最初にやるのが昨日の日記だと、「うーん、何を書こうかな‥‥」ということになってなかなか進まない。
もちろん、文章を書くのが好きで得意という子ならいいかもしれないが、そうでない子はやめたほうがいい。


文章を書いたり、応用問題を解いたりするのは、脳のウォーミングアップが済んでからのほうがいいのだ。


飽きっぽい子にはゲーム感覚で楽しく集中できるようにする。
ストップウォッチで、問題を解いたタイムを測って表に記録し、新記録が出たら花丸を付けるなど、チャレンジ精神を刺激するといい。
タイマーや砂時計を使って、「10分以内に○○をやり終わる」というようにするのも効果がある。


読書が苦手な子には興味のあるジャンルの本から読ませることだ。
野球好きなら野球選手の伝記、科学好きなら科学関係の学習マンガも効果的。
そのような本をさりげなく目のつくところに置いたり、読み聞かせをしてやる。
1日のうちに読書タイムを作って、リズムを付けるのもいい。


読書感想文を書かせる場合は、本選びが大切だ。
はっきり言って、読書感想文の質は本選びの段階で決まると言ってもいいくらいだ。
その子が興味を持っているものや、実際に同じような体験をしたものなどがお薦めだ。


親友が1学期に転校して悲しい思いをした場合、同じテーマの児童文学を読めば身につまされるような感じで読む。
当然、理解も深まり感動も深まる。


そして、感想文を書くときも自分の体験を振り返りながら書くことになる。
つまり、感想文を書くことが、本の中身と自分の体験を絡めながら「人生における別れ」について考えを深めていく作業になるのだ。


これこそ読書感想文の本来あるべき姿なのだ。
そして、出来上がった感想文は結果的に内容豊かなものになる。


日記や作文が書けないときは、書きたいテーマが見つからないから書けないことが多い。
「何を書いてもいいよ」というのは子どもにとって意外と困ることだ。
まずは親子でその日にあったことなどおしゃべりして、そのときの様子や気持ち、会話などを引き出してやると、文章も書きやすい。


親子の交換日記をするのもお勧めだ。
特にお父さんと子どもの間で交換するといい。
たった1行でも文句を言わず、続けているうちに子どもの気持ちややりたいことが見えてくる。
子どもから見えにくいお父さん自身のことや仕事などを伝えるにもいい機会だ。


勉強で子どもをその気にさせるには、勉強後、その内容をゲーム感覚でミニテストにするといい。
必ず満点を取れるようにするのがポイントで、最初は問題数を少なくしたり、簡単にする。全問できると子どもの自信につながり、やる気が出てくる。




●夏休みは「休み」であることを忘れないで


最後に一つ。夏休みは「休み」だということを忘れないでほしいと思う。
休みとは、やりたいことを自由にやれる時間であるべきだ。
だから、子どもがやりたいことをたっぷりやらせてやるのが夏休みだと考えてほしい。
それが夏休みの意義なのだ。


わたしが受け持った子でこういう子がいた。
その子は夏休みの最初にすべての宿題をやってしまった。
親が言うには、ものすごい集中力で全部やってしまったそうだ。


そして、親にこう宣言した。
「後の30日はひたすら遊びまくるからね」


ちょうどそのとき学校で保護者面談があったので、その親はわたしにそのことを相談した。
「先生どうしましょう。何か別の問題集でもやらせた方がいいでしょうか?」 わたしは答えた。
「すばらしい子です。こういうのを自主性というのです。この子は最高の夏休みを過ごすでしょう。そういう子が、自分の人生を切り開いていけるのです。親が邪魔をしないことです」。


わたしは、子ども時代に、自分がやりたいことに熱中して過ごす時間をたくさん持たせてやることが大切だと考える。
それによって、自分のやりたいことをやる喜びを味わい、熱中する楽しさを知ることができるのだ。


そういう熱中体験を持っている人は、自分のやりたいことを自分で見つけられるようになる。
自分で人生を切り開く力を身に付けることができるのだ。
「自分が何をやりたいか分からない。特にやりたいことがない」というようにはならないのだ。


とはいっても、もちろん子どもにやらせなければならないこともある。
宿題、勉強、仕事(お手伝い)などなどだ。


でも、そういうことだけで終わってしまっては夏休みの本当の意義はない。
だから、そういうことは、うまくできるように取り計らってやってほしい。
そのために、合理的な工夫(しからないシステム)が必要なのだ。
だから、この文章で書いたいろいろな工夫も、子どもにやりたいことをやらせてやるための工夫と考えてもらいたい。


最後の最後にもう一つ。細かいことでしかってばかりいると、親子関係は確実にまずくなる。
それに、子どもは自分に対するいいイメージを持てなくなる。
だから、しかるのではなく合理的な工夫で乗り越えることが大切だ。


それでもうまくいかないときは、目をつぶってやることも大切だ。
できない子どもを許してやってほしいのだ。
親自身もできないことはあるのだし、それについてはしっかり目をつぶっているのだから。


そして、今までしかる方に向けていたエネルギーを子どもを褒めることに振り向けて欲しい。
そのほうが、いい結果に結びつくのである。


先ほども言ったように、特に専業主婦のお母さんは夏休みにしかることが増える。だから、これをお読みのお父さんたちからお母さんと子どもに救いの手を差し伸べてやってほしい。

初出「親力養成講座」日経BP 2008年07月25日

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