1年生のあっちゃんという女の子は、小学校の給食で生まれて初めて納豆という物に出会いました。
初めて出会ったその食べ物の、へんなにおいに大きな抵抗を感じつつ、ひと口食べてみました。
その瞬間、ヌルッとした食感と何とも言えない奇妙な味に驚き、思わず口から出してしまいました。

その後、給食で納豆の出る日は朝から憂鬱で、登校を渋るようになってしまいました。

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そういう日は、なんとか登校した後も気分が優れず、4時間目になると腹痛を訴えて保健室に行くようになりました。

親も先生も、なぜあっちゃんがときどきこうなるのか理解できませんでした。
3ヶ月くらいしてから、あっちゃんと仲良くなった保健の先生がうまく聞き出して、やっと納豆が原因だとわかりました。

これに似た例は、けっこうよくあります。
とくに、小学校1年生では、給食でつまずく子がかなりいます。

近ごろの生活スタイルの多様化により、私たちの食べ物も多様化しています。
私は、多様化自体が問題だとは思いません。
問題は、家庭によっては食べるものが偏りすぎていることがあるということです。

もちろん、親が食べ物についてよく考えた上で、確固とした価値観を持つに至ったというなら、それでいいと思います。
つまり、「体と頭と心の健康のために、どのようなものを食べればいいのか」という大切な問題についてよく考え、それによって一般的な食事とは違う食事を取っているという場合です。

それは、すばらしいことだと思います。
なぜなら、添加物過多、カロリー過多、必ずしも体にとってよくない食材の蔓延など、今の日本の食事には大きな問題があるからです。
そして、残念なことに給食にもそういう問題がまったくないとは言えないからです。

でも、それ以外の理由で家庭の食事が偏っている場合は問題です。
親の中には、食べ物についてまったく無頓着なひともけっこういます。
「本当に体と頭と心の健康のためにいい物を食べよう」と考えることもなく、ただ刹那的なおいしさを求めていることも多いのです。

親が揚げ物が好きということで、朝から晩までやたらに揚げ物が多いという家庭もあります。
先ほどのあっちゃんも、親が納豆嫌いなのでそれまで一度も食べたことがなかったのです。

同じ理由で、1年生になるまでダイコン、ニンジン、ゴボウなどの根菜類をほとんど食べたことのない子もいます。
お父さんがピーマンが嫌いなので、一度も食べたことがないという子もいます。
これらの例では、親の嗜好だけが優先されて教育的配慮というものがまったくありません。

人間形成にとって食べ物は極めて大切です。
それは、体と頭と心の3つに大きなな影響を及ぼします。
成長期の子どもにとっては、なおさらです。
しかも、生涯にわたる食習慣の形成という点でも大きな影響を及ぼします。

ですから、親は、自分の嗜好だけを優先させるのでなく、教育的配慮をもって日々の食事に臨む必要があります。
それは、給食への適応という身近な課題にも有効です。

とくに、気を配る必要があるのは野菜についてです。
いろいろな調査で、子どもが苦手な食べ物としていつも野菜が圧倒的な一番に挙げられます。
その中でも、ピーマン、セロリ、ゴーヤ、ナス、トマト、などはよく挙げられています。

というわけで、親であるみなさんには、子どもが苦手な食べ物も少しずつ食べられるように、ぜひ、努力していただきたいと思います。
その方法には、次のようなものがあります。

1,調理の工夫
・細かく刻んだりほかの物と混ぜたりして、見た目でわからないようにする
・子どもの好きな料理の中に上手に入れる
・スモールステップで、ほんの少しのところから始めて少しずつ量を増やす
・蒸し料理で野菜のうまみを引き出す
・干し野菜にして野菜のうまみを引き出す

2,栽培と収穫の体験
栽培や収穫の体験がきっかけになって食べられるようになることも、けっこうよくあります。
私の経験でも、生活科の授業でミニトマトを育てたところ、それまでミニトマトを食べられなかった子が食べるようになりました。

栽培はしなくても、収穫体験だけでもいいきっかけになることがあります。

3,宣伝と啓発の工夫
その食べ物のおいしさやいいところを宣伝するのも効果的です。
たとえば、「おいしいんだよ」「最初は苦いけど、食べ慣れると苦いのがよくなるんだよ」「体がじょうぶになるんだよ」「頭がよくなるんだよ」などです。

実際においしそうに食べながら、明るく楽しい雰囲気で言うことが大切です。
家族みんながおいしそうに食べていれば、子どもも「食べてみようかな」という気になる可能性は高くなります。

または、野菜や納豆などのよさについて解説した絵本を読み聞かせるのもいいでしょう。
これによって子どもが納得すれば、「食べてみようかな」という気になる可能性は高くなります。

ところで、これらを実行する上で気をつけていただきたいことがあります。
それは、ひと言で言えば、決して無理強いしないということです。

たとえば、「子どもが食べるまで許さない」「子どもが泣いて嫌がっても食べさせる」などということはしないでください。

調理の工夫のところで、「細かく刻んだりほかの物と混ぜたりして、見た目でわからないようにする」「子どもの好きな料理の中に上手に入れる」「スモールステップで、ほんの少しのところから始めて少しずつ量を増やす」などを挙げましたが、これらについても無理はしないでください。

子どもが嫌がるようでしたら、無理はしないでください。
せっかくの食事を台無しにしないでください。

「今のうちに、子どものうちに、入学する前に、ぜひとも好き嫌いをなくしてやろう」などとは、決して思わないでください。
そう思う度合いが強ければ強いほど、食事のとき叱る回数が増えてしまいます。

食べるという行為は、人間の根源的な欲求に基づくものであり、同時に、人間の喜びの最たるものでもあります。
子どものときの、その大切な食事の1回1回が、苦痛を伴うものであったとしたらどうでしょう?
人間形成にいいはずがありません。

たとえば、次のような状態になる可能性も否定できません。
食事は1人で食べたい。
ひとと食べるのはなんとなく落ち着かない。
食事はゆっくり楽しむというよりもさっさと済ませてしまいたい。

ある成人男性は、子どものころ給食で先生に無理矢理バナナを食べさせられて、それ以来今に至るまでバナナを食べられないそうです。

子どものときの、その大切な食事の1回1回が、楽しいものであることが一番大切です。
明るい雰囲気の中で、みんなで仲よく楽しく食べることが一番大切なのです。
それが一番の食育です。

ですから、みなさんは、できるだけのことはしつつも、決して無理強いはしないでください。
子どものころ食べられなくても、大人になれば自然に食べられるようになることも多いのです。
それに、大人になってから食べられないものがあったとしても、どうということはないのですから。

1年生に入学するに当たって心配でしたら、担任の先生に伝えておけばいいことです。
この連載の4回目にも書いたように、「家でも食べられるように努力しているのですが、なかなか・・・」と言えば、先生もあたたかい目で見てくれます。

もし、担任の先生に理解がなくて、給食についての強制的な指導が行われるようでしたら、そのときは親の出番です。
親がその先生と会って、強制的な指導はやめるように言ってください。
もし、親が言いにくい場合は、学級役員に言ってもらえばいいでしょう。
それでも変化がない場合は、学校長に言う必要があります。

もちろん、これらのことは、大人の交渉術で行ってください。
いきなりクレームという形で感情的に言うのでなく、「相談」という形でもっていくことが大切です。
この一事をもって担任との関係がまずくなるようなことがないように、うまくやってください。
でも、目的は必ず達成してください。

また、親が食べ物についてよく考えた上で確固とした価値観を持つに至った場合、「給食で出る○○は、うちの子に食べさせたくない(飲ませたくない)」と考えることもあると思います。
そういうときも、うまくやってください。
その理由を学校に伝えて、配慮してもらうのもいいでしょう。
その本当の理由を言いたくない場合は、なにか適当な理由を伝えればいいでしょう。

最後に、念のため書いておきますが、子どもの食物アレルギーについては確実に伝えてください。
入学に際して学校からのアンケートや調査があるはずですが、重大なアレルギーについては、直接面談して伝えてください。

担任と保健の先生には必ず直接伝えてください。
しかも、口頭だけでなく、同時に子どもの名前を入れた文書も手渡すとより確実です。
というのも、この時期の学校の忙しさはかなりのものだからです。
そのほかにも、資料などがある場合は、それも手渡してください。

校長や学年主任などにも、できるだけ直接伝えてください。
もちろん校内での伝達はあるはずですが、念には念を入れてください。

2年生に進級するときも、新しい担任と保健の先生には必ず直接伝えてください。
もちろん引き継ぎはあるはずですが、絶対に伝わるとは限りません。
人間のすることですから。

心おどらせ、張り切って入学してくる1年生の子が、給食でつまずくことがないように願っています。

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