ことわざは先人たちの経験の結晶であり、生きていく上で役立つ知恵の缶詰のようなものです。
子育てや教育においても、ことわざはいろいろなことを教えてくれます。
 

そこで、今回は、子育て中の方々の参考になりそうなことわざをいくつか選び、その意味と私の解釈を紹介いたします。




●角を矯めて牛を殺す


「牛の曲がった角を無理にまっすぐに直そうとすると、かえって牛を死なせてしまうことになる。小さな欠点を無理に直そうとすると、かえって全体をだめにしてしまう」
 

これは親が非常によくやりがちなことです。
例えば、子どもが楽しかった遠足のことを勢いよく日記に書いているとき、「字を丁寧に書きなさい。習った漢字を使いなさい」などと言ってしまいます。
 

ブロックや粘土や紙などで夢中になって創造的な遊びをしているときに、「散らかさないで。ちゃんと片づけて」などと言ってしまいます。

 
このように、多くの親はしつけ主義に走って細かいことで叱り続け、子どもをこぢんまりとした盆栽のようにしてしまいます。
本当は大木になれたはずなのに…。
 



●親しき仲にも礼儀あり


「どんなに親密な関係であっても、守るべき礼儀がある。それを疎かにすると人間関係が崩れる」
 

親はみんなわが子に対してやりたい放題で、礼儀などいらないと思っています。
大人同士ではとても言えないようなひどい言葉や、よその子には絶対言えないような罵詈雑言も、わが子には平気でぶつけています。
 

なぜそうなってしまうかというと、「自分は親だ。自分の子どもに何の遠慮がいるのか?これはこの子のためなんだ。しつけのためなんだ」という思い込みがあるからです。
 

そして、親という立場に甘えて、自分の圧倒的な権力に溺れた結果、わが子との関係が他人以上に冷え切ったものになってしまうことがよくあります。
 

親子といえども人間関係のひとつであることにかわりはありません。
他人行儀になる必要はありませんが、一人の人間同士としてお互いをリスペクトし合うことが大切です。

親が子どもをリスペクトすれば、子どもからもまったく同じものが返ってきます。



 
●十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人


「子どものときは非常に優れていたが、成長するにつれて伸び悩み、大人になったときには平凡だったことのたとえ」
 

今の日本の子育てではこのような例が多いようです。
親たちの中には、とにかく子どもが小さいときから優秀であることを願っている人たちがたくさんいます。
 

そして、小さいときから立派にしつけようと、細かいことでガミガミ言い続けます。
親に言われたことは何でもできて、片づけもできて、習い事もイヤと言わず、やるべき勉強もどんどんする…。
そういう子にしたいのです。
 

あるいは、幼稚園受験、小学受験、中学受験と突き進み、とにかく早い段階で勝ち組路線に乗せようとします。
子どもたちは、遊びも含めて自分がやりたいと思ったことは抑え、ひたすら親が喜ぶことをがんばり続けます。

 
こういったことの結果として、燃え尽き症候群になってしまったり、万事受け身な性格になってしまう子どもがたくさん出ます。
そういう子は、大人になってからも自分でやりたいことを見つけてどんどんやっていくということができなくなります。
 

促成栽培よりも大器晩成、と思ってじっくり構えていれば焦らなくて済みます。
小さいときは冴えなかったけど尻上がりに伸びていくという人たちはたくさんいます。
 

ちなみに、英語にもこれと似たことわざがあります。
A man at five may be a fool at fifteen.(五歳のとき大人のような子は十五歳で馬鹿になる)



 
●人の振り見て我が振り直せ


「人の行動を見て自分の行動を改めよう」

 
このことわざの「人」という部分を「わが子」にかえて読んでみると、「わが子の行動を見て自分の行動を改めよう」となります。
 

子どもというものは、親の言葉と行動を実によく見てまねしています。
ですから、わが子の行動は親自身の日頃の行動そのものを映し出しているのです。


例えば、親が「片づけしないとおやつ抜きだよ」などの罰則型の言葉が多いと、子どもも兄弟や友達に「○○しないと遊んであげないよ」などと言うようになります。
親がゴミをポイ捨てするような人だと子どももそうなります。

 
このように、わが子の行動でこれはまずいというものがあれば、まず親自身がそれを改める必要があります。

 
「親の言うことは聞かないけど、することはまねる」という言葉もあります。
まさにその通りだと思います。



 
●遠くの親戚より近くの他人


「いざというとき、遠くにいる親戚よりも近くにいる他人の方が頼りになる」

 
これは子育てについても同じことが言えますね。
子どもが熱を出した、急病になった、事故に遭ったなど、急に助けが必要になったとき遠くにいる親戚では間に合いません。
 

そういうときは、身近な友人はもちろんですが、隣に住んでいる人、近所の人、職場の同僚、ママ友だち、パパ友だちなど、とにかく物理的に近くにいる人たちが助けになります。
 

とはいっても、日ごろ何も関わりがないという状態だと、いざというときに頼みにくいのも事実です。
そこで大事になるのが、日ごろから挨拶したり声をかけたりなどして、よい関係をつくっておくことです。



 
●千里の馬は常に有れども伯楽は常には有らず


「才能がある者はいくらでもいるが、よい指導者がいなければ力を発揮することはできない。よい指導者は非常に少ない」
 

子どもたちはみんな何らかの才能や美点を秘めていて、何らかの分野において天才なのです。
でも、それを見つけ出し上手に伸ばしてくれる親は少ないです。

 
わが子の向き不向きをよく見抜いて、その子の才能やニーズに応じて導くことが大切なのですが、多くの親は自分の価値観を優先してしまいます。


例えば習い事でも、自分がやりたかったことを子どもにやらせる、世間で流行っているからやらせる、などといったことになりがちです。
これでは、子どもの天才を引き出すことはできません。

 
親がやらせたいことではなく、本人がやりたがることをやらせてあげてください。
そういうものが特にない場合は、いろいろとお試しでやらせてあげるといいでしょう。
一度始めたら一定期間は続けなくては、などと思う必要はありません。
やってみて合わなければさっさとやめて、他のものを試させてあげてください。
 
初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2015年11月号』

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