以下は、私が40歳くらいのころ、小学4年生を受け持っていたときの文章です。


やる気満々!「ハムスター命」の子どもたち
                                                                                             
「先生、お願いがあるんだけど…」A子とB子がにこにこしながら私のところにやってきたのは、二学期の中頃のことだった。
妙ににこにこしているのが、どうも怪しい。

私は、これは改まったお願いに違いないと直感した。

「先生、教室でハムスターを飼っていい?お願い、お願い」
「ううん…」(これは面倒なことを言い出したな)

「絶対しっかりお世話するから。ちゃんと毎日餌と水をやって、お掃除もするから」
「ううん…」(六年前にクラスで飼ったときも、いろいろあったな。教室が汚れたり、ハムスター病院に連れていったり…)

「先生やみんなに迷惑をかけないから」
「ううん…」(最初はそう言うんだよね、みんな)

「飼いたいなら家で飼いなさい」
「家の人がダメって言うもん」
「うちもダメだって言われた」

「ううん…でもあなたたちは張り切ってても、そんな世話より遊びたいっていう人には迷惑でしょう?」
「そうじゃなくて、私たちだけで飼うの」

「え?教室でみんなで飼うんじゃないの?」
「私たちとC子とD子の四人だよ」(それもまた難しいな。グループ化したり、他の子が触らせてもらえたりもらえなっかったり、いろいろなトラブルの元になりそうな話じゃないか)

「うううううんんん……」
「お願い、お願い」

「一日考えさせてください」
「お願いね、お願いね」

私は考えた。
せっかくやる気になっている芽を伸ばさずして、何が教育か?

子どもに自主性を育てようと言いながら、いつも大人は自分たちにとって都合の良い「自主性」しか認めていないのではないか?
それでは、本当の自主性は育つはずがない。

いろいろ気になることはあるが、トラブルを通して身に付くものもある。
それが、子どもたちの生きる力にもなるはずだ。

次の朝、私は四人に言った。
「飼っていいです」
「やったあ」
「た・だ・し…」
「ただし?」

「全部自分たちでやって、先生に頼らないこと。みんなに迷惑をかけないこと。途中で投げ出さないこと。使ったお金はしっかり計算して、平等にだすこと」
「はい」

それから、様々なことがあった。
まず、飼い始め当初の物珍しさから多くの子がハムスターに触りたがり、自分は全然触らせてもらえないという苦情が続出した。

差別されたという訴えがあって、双方の話を聞いたり話し合ったりしたこともあった。
ハムスター責任者の子どもたちも、みんなに平等に触らせてあげるように意識したり、断る時には言い方に気をつけるようになったりした。

次に、夜中にハムスターが籠から抜け出し、翌朝便器の中で溺れているのが発見されるという、子供たちにとっては大変衝撃的な出来事もあった。
子どもたちは墓を作って埋葬し、時々花を備えている。
また、ハムスターが篭から抜け出すのを防ぐための用具も用意した。

しばらくすると、ハムスター責任者に入れてもらう子が増え、総勢九人になった。
しかし、九人だと多すぎてお互い思うようにいかなかったのだろうか、後で入った子たちが独立して別の篭で別の二匹を飼うことになった。

この独立の時に、双方の間で幾らかの心理的な葛藤があった。
一言で言うと、「せっかく入れてあげたのに…」「でも、わたしたちももっと可愛がりたいの。」というところだと思う。

そこで、私のアドバイスで独立組から今までのお礼と独立の決意を書いた手紙を渡すことになった。
その後、今でもこの二つのグループは、協力し合ったり落ちているゴミをお互いのせいにし合ったりしながらも、良きライバルとして競い合っている。

ところで、ある日私は掲示物を張り替えているときに、ハムスターの籠を一つロッカーの上から床に落としてしまった。

餌箱に入っていた餌や敷き詰めてあったテッシュやらが散乱してしまい、後かたづけはかなり大変だった。

考えてみれば、子どもたちはハムスターが遊び回って乱雑になった篭の中を、毎日きれいに整えているのであるから立派なものである。

これは思っていたよりも大変なことだと、私は初めて気が付き、改めて感心させられた。

正直に言えば、私は子どもたちがこれほど一生懸命にやるとは、しかも飽きもせずにこれほど長い間頑張るとは思っていなかった。

その思いが本当に強い時、それが本物の自主性であるとき、子どもたちは素晴らしい力を発揮する。
そして、それが未来を開く力になっていくのである。

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