●漢字が読めると学力が上がる


ある日の講演会で、私の話が終わってから質疑応答の時間がありました。

そこでいくつか質問に答えたのですが、終了の間際に司会者が「残り時間は1分です。最後にどなたか質問ありますでしょうか?」と聞きました。

 

すると、ある人が手を上げて指名され、「どうしたら子どもを伸ばすことができるでしょうか?」と質問しました。

  残り時間は30秒もありません。

そこで、私はとっさに「1つは子どもが好きなこと・やりたがることを応援して深めさせてあげること。もう1つは読書です」と答えました。

  瞬間的に答えたのですが、後で振り返ってみてもこの2つを選んだのはけっこう的を射ていたのではないかと思います。

この2つのうち、前者については前回書きましたので、今回は読書について書きたいと思います。

 

読書は間違いなく子どもを伸ばします。

まず言えることは、本を読んでいると漢字が読めるようになるということです。

大人はたいていの漢字が読めるのでそれほどに思わないかもしれませんが、実は子ども時代において、読める漢字の量が多いか少ないかということは学力に決定的な差をもたらします。

 

読める漢字が少ない子は、本やその他の文章を手にしても読めない漢字がたくさん出てきます。

すると、当然ながら内容がよくわからないことになります。

しかも、難しい漢字ほど大事な内容を含んでいることが多いのです。

 

高学年で漢字が読めない子は、教科書もろくに読めません。

逆に読める漢字が多い子は、教科書はもちろんその他の本も、ときには大人の本もどんどん読んでいくことができます。

 

●語彙が増え、読解力、表現力、思考力が伸びる

 

また、本を読んでいると言葉をたくさん覚えます。

言い換えると語彙が豊富になるということです。

すると当然本に書いてある内容を読み取る力、つまり読解力が伸びます。

 

そして、文章を書くときもいろいろな言葉を使えるので、自分が話したいことや書きたいことを的確に表現できるようになります。

つまり、表現力が伸びるのです。

 

また、言葉をたくさん知っているということは概念をたくさん知っているということでもあります。

これによって、思考力が伸びます。

というのも、人間が何かを考えるときは、必ず言葉・概念をつかって考えるからです。

つまり、言葉・概念は思考の乗り物なのです。

 

また、本を読んでいると情報や知識が増え、これもまた思考力を伸ばす要因になります。

というのも、情報や知識が考える材料を提供してくれるからです。

 

また、本を読んでいると様々な書き手の多種多様な価値観や考え方に触れることもできます。

すると、自分の価値観や考え方を相対化して客観的に見られるようになりますし、多種多様な価値観や考え方で自分の問題について考えることもできるようになります。

こういったことも、思考力を伸ばす要因になります。

 

また、情報や知識が増え、多種多様な価値観や考え方を身につけると、物事を本質的な部分から考え直すことができるようになります。

周囲のみんなが当たり前と思って思考停止になっていることについても、「本当にそうなのか?」と根底に立ち返り本質的な部分から考え直す力がつきます。

 

このように何事においても自分の頭で考える力がつくと、周囲に流されない自分というものができます。

すると、自分に自信を持てるようになりますし、主体的に生きられるようになります。

 

●本を読むと自分の世界を深められる

 

さらに、本をよく読む子は自分の好きな世界をどんどん深めていくことができます。

例えば、サッカーに夢中だとか、釣りが大好きだとか、習字に熱中しているなどという場合、その子が本を読むか否かによって伸び方が違ってくるということがあるのです。

 

サッカーが好きで本もよく読む子なら、サッカーの本も読みます。

サッカーのノウハウを書いた本を読めば、自分で工夫して練習するようになります。

一流のサッカー選手の自伝や伝記を読めば、モチベーションも上がります。

 

釣り好きな子が釣りのノウハウ本を読めばいろいろな技術が身につきますし、魚の本を読めば魚についての知識が増えます。

書道が好きで本もよく読む子なら、書道の歴史、著名な書家の伝記、漢字の成り立ちなどを読み、それらが全て栄養になります。

 

どんな分野にしても、本を読むことで自分の世界をどんどん深めていくことができます。

本を読まないと、指導者に言われたことをそのままやるとか、自分の狭い発想の中で工夫するなどで終わってしまいます。

 

これは、また、大人になって仕事を始めたときにも言えることです。

どんな仕事に就いたとしても本を読むことでその仕事を深めていくことができるからです。

 

例えば、先生になった場合、授業のノウハウ本、算数の教え方の本、子どもとのコミュニケーションの取り方を書いた本、保護者とよい関係をつくる本などを読めば力がつきます。

そもそも教育とは何かを考える教育哲学の本を読めば、教育について根本から考えることができます。

 

●一生涯にわたって成長できる

 

さて、ここで私は小学4年生で受けもった教え子のK君を思い出しました。

彼は勉強の成績はそれほど芳しくなく、はっきり言えばできない方でした。

でも、本だけはよく読んでいました。

 

K君は、その後5、6年生になってもそれほど成績は上がりませんでした。

ところが、中学に入ってからだんだん伸びてきて、中学3年生では学年のトップになり、結局は地域一番の進学高に合格しました。

 

その報告を聞いて、小学生の頃の彼を知っている人たちはみんな驚きました。

私も驚きましたが、同時に「やっぱり!」という気持ちもありました。

 

そして、暇さえあれば本を読んでいた彼の姿を懐かしく思い出しました。

その時点に至るまでに、彼が読んだ本は膨大な量になっていたはずです。

それほどの知識の蓄えと思考の積み重ねが学力に反映されないはずがありません。

 

そして、このK君のような例は珍しいことではありません。

教師ならみんなこのような教え子がいるはずです。小さいとき勉強ができなくても、成績がパッとしなくても、読書の習慣がある子は尻上がりに伸びていくのです。

 

大人でもそうです。

仕事を始めた新人のころはパッとしなくても、読書の習慣がある人は尻上がりに伸びていきます。

三十代で追いつき、四十代でブレークする人もいます。

 

仕事の面だけではありません。

本を読み続ける人は、プライベートでも自分の好きな分野を深めていくことができ、一生涯自分で成長を続けていくことができます。

それほどまでに読書というものはよいものなのです。

 

初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)20156月号』

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