●上杉謙信のマンガがきっかけで建築士へ


先日、講演先で知り合ったAさんという人におもしろい話を聞きました。


Aさんは、子どものころ、上杉謙信の歴史マンガを読んで、戦国時代の武将が好きになりました。


それで、歴史マンガを手当たり次第に読むようになり、やがてはマンガ以外の歴史の本も読むようになりました。


これで漢字をたくさん覚えたそうです。
そして、戦国武将100人くらいについて、名前と幼名、領国の名前、得意な戦法、有名なエピソードなどを覚えてしまったそうです。
 

親もAさんの好きなことを応援してくれて、各地の城跡や博物館に連れて行ってくれました。
城をたくさん見ているうちにその美しさにひかれ、城の本を読むようになりました。
それで、有名な城の名前、場所、特徴、領主の名前などをたくさん覚えました。

 
城の石垣にも興味を持ち石の積み方の研究も始めました。
日本の城だけでなく、中国の城、マヤ文明、インカ文明、エジプトのピラミッドなどの石の積み方も比べて面白かったそうです。

 
そのうちに粘土やブロックで城の模型を作るようになり、次に紙工作で作るようになり、やがては木材で作るようになりました。
 

そうしているうちに、建築一般に興味を持つようになり、ついには建築士になりました。


もともと、いわゆる勉強は好きでなかったようですが、建築士になりたいと思ったとき急にエンジンがかかり、どの教科もがんばって勉強するようになったそうです。

 


●勉強には体系的勉強と芋づる式勉強の2つがある
 

 この話は、「勉強」というものを考えるときにとても参考になる話だと思います。
一口に勉強と言ってもいろいろなやり方がありますが、大きく2つに分けることができます。


それは体系的勉強と芋づる式勉強の2つです。

 
前者は、いわゆる勉強であり、学問体系・教科体系に則って進める勉強です。


文部科学省が決めた学習指導要領に則って進められる学校の勉強やそれを補完する塾の勉強もそうです。


国語、算数(数学)、社会、理科、英語…、などの教科に分けられ、何年生で何を学ぶかを決めたカリキュラムに従って順序よく勉強します。
入学試験や入社試験は、この勉強がどの程度身についているかを調べるものです。

 
後者にはカリキュラムがありません。


Aさんのように自分の興味のおもむくままにその時々の関心に応じて進める勉強です。


芋のつるをたぐり寄せると、次々とたくさんの芋が連なって出てきます。
一本のつるが中心になっていて、そこに全ての芋がついています。


というわけで、自分の興味関心という一本のつるのもとに、戦国時代、城、石垣、建築というように勉強を進めてきたAさんのようなやり方を芋づる式勉強というのです。

 
そして、この芋づる式勉強の対象は、体系的勉強に直結していない趣味、芸術、スポーツなど、どんな分野でもいいのです。


勉強をもっと広い範疇で考えて、とにかく自分の好きなことややりたいことに熱中できるようにしてあげることが大事です。


そうすると、それに付随していろいろな能力が育ち地頭もよくなります。

 


●好きなことに熱中しているうちに地頭がよくなる

 
その効果については、このコラムの前々回で次の3つを挙げました。

1,自分に自信がついて自己肯定感が高まる

2、やりたいことを自分で見つけてやっていける自己実現力がつく

3,生活習慣が改善する

 
さらに、今回は学力という点でその効果を考えてみると、新たに2つの点を挙げることができます。


まず、一つめは地頭がよくなるということです。
 

Aさんは、大好きな戦国武将や城について調べたり本を読んだりしているときに、追究力、理解力、読解力、思考力がついたはずです。
また、戦国武将100人の諸々や城の諸々を覚えているときに記憶力がついたはずです。

 
このような追究力、理解力、読解力、思考力、記憶力などは、体系的勉強をする上でも大切な能力です。


好きなことだから一生懸命頭を使い、その時に地頭つまり頭の性能がよくなるのです。
頭がよくなったところに、体系的勉強をすればどんどん頭に入ります。


ですから、Aさんが建築士を目指して体系的勉強を始めたら、それがどんどん頭に入り見事に合格できたのです。

 


●一見ムダな部分が個性的な発想につながる
 

もう一つは裾野が広い富士山型の学力がつくということです。


実は、勉強法に2つの種類があるように学力にも2つの種類があり、それは富士山型の学力と高層ビル型の学力です。
 

富士山には広い裾野があります。
一見ムダに思えるくらいに広い裾野があり、それが富士山の高さと美しさを支えています。


芋づる式勉強法によって身につく学力は教科体系から見たらムダに見えるものがいっぱいあります。


戦国武将の名前なら入学試験に出るかも知れませんが、石の積み方などは出ません。
そういう意味ではムダですが、実はこのムダに見える部分が社会に出て仕事を始めてから大いに役立つのです。


それは、人が知らないことを知っていて引き出しが多いということだからです。


ですから、富士山型の学力が高い人は、仕事のアイデアやビジネスの企画でも、人が思いつかない斬新で個性的な発想で考えることができます。
 

これに対して高層ビルにはムダな裾野というものがなく、高さを求めて一直線に真上に伸びています。


体系的勉強にはこれと同じようにムダな部分がありません。


特に、小さいときから「受験、受験、受験」で勉強してきた人は、志望校の過去問体系に合わせてムダなく勉強してきています。


石の積み方など研究していたら合格できません。

 


●いわゆる勉強が苦手な子は芋づる式勉強を

 
高層ビル型の学力は大学受験や就職試験を突破する上で実に効果的です。


でも、社会に出て仕事を始めてからは、それだけでは不十分です。
みんなが知っていることはとてもよく知っているので、やるべきことは能率的にしっかりできます。
これはもちろん大事なことですが、斬新な発想で新しいビジネスの地平を切り開くという点は苦手です。

 

加えて、親にやれといわれる勉強をひたすらやってきたので、自分がやりたいことを自分で見つけて自分でやっていくという点で弱いのです。


つまり、自己実現力が足りないのです。


そこへいくと、芋づる式勉強で富士山型学力をつけて来た人は自己実現力が高いので、大人になってからも自分でやりたいことをばりばりやっていくガッツがあります。

 
子どもの頃からこの2つの勉強法を同時に実行できれば理想的です。


でも、体系的勉強が嫌いで苦手な子に対して、それを強要しても簡単にはできるようになりません。
そういう子には、芋づる式勉強の方が向いています。


ですから、何でもいいので自分が熱中できるものをやらせて応援してあげてください。
そうすれば、自信もつき自己実現力もつきます。
地頭もよくなるので、やがて体系的勉強もできるようになります。

初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2015年5月号』

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