●親の言葉で親子関係が決まる
夏休みなどの長い休みには、地域や企業が主催するいろいろな親子イベントが開かれます。
そこには、実にいろいろな親子がやってきて、親子の見本市のような感じになります。
そこで親子の様子を2,3分見ていると、その親子関係が将来どうなるかがわかるような気がしてきます。
なんといっても、一番大事なのは親の言葉であり、これで全てが決まると言っていいほどです。
あるとき、夏休みの工作を親子で一緒につくるイベントがありました。
そこで見た光景を紹介します。
あるお父さんと男の子が、木でロボットをつくっていました。
そのお父さんの言葉は、「それじゃ、ダメダメ。もっと釘をよく見て打たなきゃダメじゃん。ほ~ら、曲がっちゃった」「ちゃんと押さえてないからボンドがつかないじゃん。もっと力を入れなきゃくっつかないよ」という感じです。
すぐ近くで、別のお父さんと男の子が木で飛行機をつくっていました。
そのお父さんの言葉は、「おお。いいじゃん。うまいうまい、いい感じ」「「うまく削れたねえ。いいぞ、いいぞ。ここをもう少し細くするとぴったりはまるよ」という感じです。
●否定的な言い方が口癖になっている
一人めのお父さんは、口にする言葉が全て否定的です。
それに比べて二人めのお父さんはかなり肯定的です。
否定的な言葉で言われると、誰でも不愉快な気持ちになります。
自分がとがめられて、否定されているように感じるからです。
すると、素直な気持ちで受け入れることができなくなります。
さらには、自分は相手によく思われていないと感じるようになります。
親子の場合は、「自分はあまり大切にされていないのではないか?愛されていないのかも?」という疑いが出てきます。
すると、さらに反発する気持ちが高まり、わざと反対のことをしたくなります。
これが親子関係の崩壊につながっていきます。
先ほどの二組めの親子は安心ですが、一組めの親子は先々ちょっと心配です。
そして、このお父さんに限らず、ほとんどの親は自分の言葉に無自覚で、毎日わが子に否定的な言葉をぶつけてとがめています。
これは非常にまずいことです。
なぜなら、親子関係も含めてすべての人間関係は言葉によって決まるからです。
ですから、否定的にとがめる言葉が出そうになったとき、それをそのまま口にするのではなく言い換えることが大事です。
でも、中には、否定的な言い方が口癖になっている人がたくさんいます。
そういう人は、「がんばろうね」と言えばいいところを「がんばらなきゃダメだよ」と言ってしまいます。
「しっかり噛もう」でいいところを「しっかり噛まなきゃダメだよ」と言い、「お行儀よくしようね」でいいところを「お行儀よくしなきゃダメだよ」と言ってしまいます。
このような否定的な口癖を直すには、日ごろから心がけていることが大事です。
そして、心がけていれば、だんだんできるようになります。
私も若いころ読んだ本によってこのことを教えられ、それから気をつけるようにしていたらだんだんできるようになりました。
●明るい結果がイメージできるように
いくつか言い換えの実例を紹介したいと思います。
一番いいのは、「○○すると□□のいいことがある」というように、明るい結果がイメージできる言い方です。
一人めのお父さんの「ここをもう少し細くするとぴったりはまるよ」もそうなっています。
「勉強しなきゃ試験に受からないよ」→「がんばって勉強すれば試験に受かるよ」。
「靴は靴箱に入れなきゃダメでしょ」→「靴箱に入れると玄関がすっきりするね」。
「今から用意しておかないと、明日の朝間に合わないよ」→「今から用意しておけば、明日の朝は余裕だね」。
「どんどん宿題やらなきゃ遊ぶ時間がなくなるよ」→「先に宿題をやっておくと後でたっぷり遊べるよ」。
このように言われれば、子どもは気持ちが明るくなってやる気になります。
また、日ごろからこのような言い方に心がけていると、ものの見方そのものが肯定的なプラス思考になっていくといきます。
さらには、子どもは親の言葉を真似しますので
●単純に促す
このような肯定的な言い方が一番いいのですが、いつもというわけにはいかないと思います。
そういうときは「単純に促す」がオススメです。
つまり、「急がなきゃバスに乗れないよ」ではなく「急いで」「急ごう」「急ぐよ」などのように単純に促します。
とにかく、否定的にとがめなければいいのです。
「お皿を洗わなきゃダメじゃん」→「お皿を洗って」「お皿を洗おう」「お皿を洗うよ」。
「おもちゃをしまわなきゃ、勉強できないでしょ」→「おもちゃしまって」。
「もっと集中しなきゃ終わらないよ」→「集中、集中、がんばろう」。
ただし、いくら単純に言っているつもりでも語調が怒った感じではとがめていることになりますので、明るく柔らかな語調で言ってください。
●さらにひと工夫して促す
「単純に促す」にひと工夫するとさらに効果的です。
いくつかありますが、一つめは「ハードルを下げて促す」です。
「宿題、今のうちに半分だけやっておこう」「手伝ってあげるから、一緒にやろう」のように言えば、取りかかりやすくなります。
二つめは「ユーモアで楽しく促す」です。
「二倍速のはや回しで着替えよう」「いつまでも寝てるとパパがくすぐり妖怪になってくすぐるよ」のように言えば、楽しい気持ちで素直にやれます。
三つめは「選ばせて促す」です。
「食べてから勉強する?勉強してから食べる?」のように聞いて子どもに選ばせると、自分で選んだという責任が生じて、それが実行につながります。
四つめは「時間を示して促す」です。
「はやく着替えなきゃダメでしょ」では漠然としていますが、「8時15分に着替え終わるよ」と明確に示せば時間を意識して動けるようになります。
五つめは「ゲーム化して促す」です。
「はやく歩きなさい」ではなく「駐車場まで競走だ」と言えば、大いにその気になります。
「はやく上手にたためるのはどっちかな?ママと競争」「片づけっこ競争、用意、ドン」「何分で着替えられるかな?時間計るよ。用意、ドン」なども使ってみましょう。
最後に付けくわえます。親の言葉は子どもにうつりますので、親が静岡弁なら子どもも静岡弁になります。
親が否定語弁なら子どもも否定語弁になり、親が肯定語弁なら子どもも肯定語弁になります。
ですから、親の言葉を変える努力は待ったなしでお願いします。
初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2014年10月号』
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