●受験生が愚痴をこぼしたときは、どうすれば?
子どもの話を共感的に聞くことの大切さについてはたびたび書いていますが、最近とても参考になる話を聞いたので紹介したいと思います。
話してくれたのは、中学3年生の娘さんを持つお母さんで、私のメールマガジンの読者の方です。
その人の娘さんが高校の入学試験の1週間前にこうこぼしました。
「ああ、もうすぐ試験だけど、私ダメだ。よく眠れないし。私、無理。絶対落ちる。ああ、試験なんてイヤだ。もう落ちてもいいから早く終わって欲しい」。
その娘さんは、日ごろはあまりそういう愚痴のようなことは言わないタイプだそうです。
それが急にそういうことを言い出したので、お母さんはびっくりしてしまいました。
それでも、「そんなこと言ってないで、がんばって勉強しなきゃダメでしょ」などと叱るのは逆効果だと思ったので、「心配要らないよ。実力は十分あるんだから。今までがんばってきたんだから、あと1週間がんばれば絶対受かるよ」と励ましました。
それから、「会場に行ったら、まず深呼吸をするといいよ。それから、周りにいる人をじっくり観察していると落ち着くよ」とアドバイスもしました。
●励ましとアドバイスが逆効果に
ところが、娘さんは「お母さんて、私の気持ち全然わかってくれないね。言って損した!」と言いながら、自分の部屋に行ってしまいました。
お母さんはびっくりしました。
叱ったわけではなく励ましてアドバイスをしたのに、なぜ不機嫌になるのかわかりませんでした。
でも、次の瞬間「あ、しまった。共感するのを忘れてた」と気がつきました。
そのお母さんはよく私の本を読んでくれている人で、日ごろから「まず共感」と心がけていたのですが、そのときはついうっかり忘れてしまったそうです。
次の朝起きてきてからも、娘さんは不機嫌そうで、何も言わないままうつむいて朝食を食べ始めました。
そこで、お母さんは、「試験の前ってイヤだよね。受験生って苦しいね。落ち着かないよね」と言ってみました。
すると、娘さんが顔を上げて「そうだよ。本当にそうだよ。もうイヤになっちゃう。試験なんてなんであるのかな。なんでもいいから早く終わって欲しい」と一気にまくし立てました。
●共感したらもっと話し始めた
それで、お母さんが「本当にイヤになっちゃうよね。早く終わって欲しいね」と答えると、今度は「いろいろ考えちゃうと夜も目が覚めちゃうんだよね。あと1週間もこんな感じが続くのかな。私こんなに気が弱くて心配性だったかな」と言いました。
それで、お母さんはまた「眠れないってのは辛いねえ。いろいろ考えちゃうんだよね」と共感的に答えました。
その後も娘さんは話し続けてたっぷり愚痴をこぼしました。
お母さんもたっぷり共感的に聞きました。
話し終わったときは、娘さんの表情がかなり明るくなっていたそうです。
その甲斐もあってか、結局娘さんの受験はうまくいき、希望の高校に入学できたとのことです。
さて、最後に、お母さんと私は次のような会話をしました。
●親の対応で子どものストレスが倍増
お母さん「娘はよっぽどストレスを溜め込んでいたんでしょうね。話し終わった後は、見違えるように明るい表情になっていました。それで私は本当に共感て大事だなと、改めて思いました」。
私「改めて実感したんですね」。
お母さん「もし、あのとき共感というキーワードを思い出さなかったら、全然違うことを言っていたと思います」。私「例えばどんなことですか?」。
お母さん「たぶん……。『そんなことじゃ後1週間もたないよ。夜はちゃんと寝て体調を整えておかないと本番で実力発揮できないでしょ。眠れなくても目をつむって横になってなきゃダメよ』などと叱っていたかも知れません」。
私「なるほど、親としては言いたくなりますよね」。
お母さん「それとか、『愚痴なんか言っている暇があったら、最後の仕上げの勉強しなきゃダメでしょ。他の人はみんながんばってるよ。今まで間違えたところをもう一度やってみるとか、大事なところを再確認したりとか、やるべきことはいっぱいあるでしょ』などと叱っていたかも知れません」。私「なるほど。言いたくなりますよね」。
お母さん「でも、もしそんなこと言ってたら、娘は私にもう何も言わなくなっていたでしょう。ただでさえストレスいっぱいなのに、よけいにストレスが増えてしまったと思います」。
●「まず叱る」×。「まず励ましとアドバイス」△。「まず共感」◎
このお母さんは、途中で「共感」というキーワードを思い出すことができて、本当によかったと思います。
こういうとき、親がやりがちなのがまず最初に叱ってしまうことですが、これは一番まずい対応です。
またこのお母さんの1回目の対応のように、まず最初に励ましとアドバイスをしてしまう親も多いです。
これは、もちろん叱るよりははるかにマシです。
でも、親は励ましとアドバイスのつもりでも、最初に共感がないままそれを言われると、子どもにはお説教に聞こえてしまうのです。
そして、「自分がどれくらい辛いかわかってもらえない」と感じてしまいます。
一番いいのは、まず共感的にたっぷり聞いてあげることです。
すると、子どもは「自分がどれくらい辛いかわかってもらえた」と感じて、気持ちが安らぎます。
同時に、わかってくれた親に対する信頼の気持ちが大いに高まります。
もしアドバイスや励ましをするとしたら、たっぷり共感した後にしましょう。
そのときなら、子どもも素直に耳を傾けることができます。
初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2014年8月号』
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