●「ぼくだけじゃない。弟もやった」は大人の逆鱗に触れる言葉


私たち大人は、自分もかつては子どもだったという事実を忘れています。

当然、自分が子どもの頃にしていたことや感じていたことも忘れています。

 

大人たちがもっと想像力を働かせて、本当に子どもの立場になって考えるようにすれば、今まで見えていなかったものが見えてきます。

 

そして、子どもの変な行動やけしからん言葉にも、すべてそれなりの理由や真意があるということが分かってきます。

 

例えば、次のような場面を思い浮かべてみてください。

 

ある日、長男が玄関の壁に落書きをしているのを見つけて注意したら、謝りもしないで「ぼくだけじゃない。弟もやった」と言いました。

あなたは、このようなとき何と言いますか?

 

たいていの親は大いに腹を立てて、「言い訳するな!弟がやればお前もやるのか?人のせいにしないでちゃんと謝りなさい」などと叱るはずです。

 

この「自分だけじゃない。○○もやった」は、大人の逆鱗に触れる言葉です。大人はみんなこれが大嫌いです。

 

なぜなら、その子が自分のしたことを棚に上げて、人のせいにしていると感じるからです。

 

あるいは、自分が叱られないようにするために、人のことを告げ口するなどというのは、本当に卑怯な行いだと感じるからです。

 

ですから、親も先生も、子どもの口からこの言葉が出た途端に切れてしまうことがよくあるのです。

 

●「ぼくだけじゃない。弟もやった」の真意とは?

 

でも、切れる前にちょっと考えてみてください。

なぜ、この子はこういうことを言うのでしょうか?

それを、本当に子どもの立場に立って考えてみて欲しいのです。

 

ひとたび子どもの立場に立って考えてみると、この言葉の真意がわかり、それには正当な理由があることが分かってきます。

 

この長男の場合、「自分が叱られないように弟のせいにしよう」と考えているわけではありません。

 

そうではなく、「自分だけ叱られるのはいやだ。叱られるなら平等に叱られたい」と考えているのです。

 

というのも、「ぼくだけじゃない。弟もやった」と言わないでいると、自分だけ叱られるのが目に見えているからです。

 

これは人間として当然の気持ちです。

 

私たち大人でも、同じ失敗やミスをした別の人が叱られないで、自分だけ叱られるのは耐えられないことです。

 

どうせ叱られるなら平等に叱られたいと強く思うはずです。

そして、このままでは自分だけ叱られると思えば、「自分だけじゃない」と言うはずです。

 

ですから、子どもからこういう言葉が出た場合も、やたらに興奮して叱りつけるのではなく、まずは長男の言い分をよく聞いてあげることが必要です。

 

もちろん弟にも話を聞き、事実関係をよく確認しましょう。

 

その上で、何がいけないのか、どうしていけないのか、どうすればいいのか、子どもが納得するように話してあげましょう。

 

このように進めれば、子どもも素直に自分の行いを振り返って反省することができます。

興奮して感情的に叱りつける必要などまったくありません。

 

●「おばあちゃんは、いつ帰るの?」の真意とは?

 

今度は次のような場面を思い浮かべてみてください。

久しぶりにおばあちゃんが遊びに来てくれたので、年少の娘は大喜びで出迎えました。

 

ところが、おばあちゃんがくれたお菓子のお土産を食べ終わったら、「おばあちゃんは、いつ帰るの?」と聞きました。

あなたは、このようなとき何と言いますか?

 

大いに腹を立てて、「おばあちゃんに失礼でしょ。謝りなさい」などと叱る人が多いのではないでしょうか?

 

なぜなら、「この子はもうお菓子を食べちゃったから、おばあちゃんに早く帰ってもらいたいと思っているんだ」と感じるからです。

 

でも、本当はその反対です。

 

子どもは、「おばあちゃんがいてくれると楽しい。できるだけ長くいて欲しい。後どれくらいの時間をおばあちゃんと楽しく過ごせるのかな?それを知りたい」と思っているのです。

 

その真意がわかれば、「今日はゆっくりできるから、夕飯も一緒に食べられるよ」と言って、子どもを喜ばせてあげることもできるでしょう。

 

●同じ言葉を聞いても正反対の対応になる

 

これと少し似ていますが、大好きなおばあちゃんに面と向かって「おばあちゃんはいつ死ぬの?」と聞いた子もいます。

 

そこにいた大人たちはみんなギョッとしましたが、おばあちゃんは笑いながら「110歳くらいまで生きるから大丈夫よ」と答えてくれました。

 

おばあちゃんは、子どもの真意がわかったので安心させてくれたのです。

子どももうれしそうににっこり笑いました。

 

もちろん、この子が本当に言いたかったのは、「おばあちゃんに早く死んで欲しい」などということではなく、「大好きなおばあちゃんとずっと一緒にいたい。いつまでいられるのかな?それを知りたい」ということです。

 

その後、この子は母親にこっぴどく叱られて泣くことになりました。

でも、この子はなぜ叱られるのかわからなかったと思います。

 

同じ言葉を聞いたのに、おばあちゃんと母親では正反対の対応になりました。

子どもの言動の真意がわかるかどうかで、これほど違ってくるのです。

 

初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)20147月号』

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