●親が必ずかかる「比べる病」
親はいつの間にか子どもを比べています。
近所の子と比べ、クラスの子と比べ、兄弟と比べています。
ときには、自分が子どもの頃と比べてしまうこともあります。
あるいは、本や雑誌に出ている「○才までに○○を」とか「○年生では○○ができるように」などという情報と比べてしまうこともあります。
もしかしたら、「私は比べていない」という人がいるかも知れません。
でも、それは本人が気づいていないだけだと思います。
本当は無意識のうちに比べていて、比べていることにすら気づいていないというのが一番心配です。
この比べるという行為は、すべての親が必ずかかる一種の病気のようなもので、「比べ
る病」と呼ぶべきものです。
そして、比べるとどうしてもよそはよくみえ、わが子はみすぼらしく見えます。
なぜなら、隣の芝生は常に青く見えるものだからです。
身体が小さい、いつまでも乳離れしない、なかなか立ち上がらない、などから始まって、言葉が遅い、あいさつができない、運動が苦手だ、勉強ができない、などなど、いつまでたっても続きます。
●兄弟で比べるのは絶対NG
中でも一番よくないのは兄弟で比べることです。
例えば、「妹はできるのに、お兄ちゃんのあなたがなぜできないの?」「お姉ちゃんはちゃんとできてるよ。あなたもがんばらなきゃダメでしょ」などの言い方です。
子どもにとってこういう言葉ほど苦痛なものはありません。
親は子どもを発憤させようとして言うのでしょうが、すべて逆効果です。
これでやる気が出る子などいません。
それどころか、「どうせぼくなんかダメだよ」と感じてしまい、ますますやる気がなくなってしまうのがオチです。
さらには、「ぼくは妹みたいによく思われていないようだ。
お母さんはぼくのことが嫌いなのかも」と感じて、親の愛情を疑うようになります。
すると、ますます素直にがんばる気持ちがなくなってしまいます。
さらには、兄弟仲が悪くなるということもあり得ます。
親の不公平な態度が、兄弟仲を悪くさせてしまうことはよくあることです。
●促成栽培より大器晩成
子どもはみんな十人十色で百人百様です。
どの子にも、生まれ持ったオリジナルな成長ペースというものがあるのです。
これは兄弟でもまったく違います。
ですから、子どもを比べて「早い」とか「遅い」などと、一喜一憂する必要はないのです。
今の日本の子育てや教育では促成栽培が流行りすぎています。
子どもたちは、小さいときから優秀であることを求められています。
でも、何でも早ければいいというものではありません。
小さいころはなんでも早くできて目立ったけど、だんだんそれほどでもなくなってきた。
やがては普通になり、結局は意外と伸びなかった。
このよううなこともよくあるからです。
また、次のようなこともあります。
初めのうちは大したことがなかった。
それどころか人に後れを取るほどだった。
だが、自分のペースでじっくり着実に成長し、年を追うごとに伸びていき、やがては大きく花開いた。
あるいは、何か一つのことをきっかけに一気にやる気が出て爆発的に伸びた。
こういう大器晩成の例が世の中にはたくさんあります。
例えば、アインシュタインは子どものころ言葉がうまく話せなかったそうです。
それで、うまく自己表現ができずに、鬱屈した日々を送っていました。
また、読むのも書くのも苦手で、おまけに算数の計算問題も苦手だったそうです。
でも、大人になってからは相対性理論を打ち立て、歴史に名を残す大科学者になりました。
後に発明王といわれたエジソンが、子ども時代には学校にうまく適応できなかったことは誰でも知っているところです。
また、進化論を打ち立てたダーウィンは、子どものころ昆虫採集や狩猟に夢中になり、勉強をまったくしないので、学校の成績はひどかったそうです。
それで「ダーウイン家の恥」と言われていたそうです。
●目先のことにとらわれずに、子どもを長い目で見る
こういう例は歴史的な有名人だけではありません。
私たちのごく身近にも、小さいときはそれほどでなかったけど後で伸びたという人はたくさんいます。
私の小・中学校の同級生でも、子どものころ勉強ができなかったけど、今は会社を5つ経営しているというすごい人がいます。
私の教え子でもいます。
その人も子どものころ勉強はイマイチでした。
大人になって仕事についてからもさほどパッとせず、何度か転職しました。
でも、30代の半ばに自分にぴったりの仕事に出会い、それから大活躍が始まりました。
30代後半になった今では指導的な位置につき、収入的にもかなり安定しています。
本人も自信を持って、毎日生き生きがんばっています。
このように、後でだんだん伸びてくるということが実際によくあるのです。
ですから、子育て中の親としては、目先のことばかりにとらわれないで、子どもを長い目で見ることが大切です。
目先のことにとらわれすぎて、できないことを否定的に叱ってばかりいると、子どもは自分に自信を持てなくなります。
そうすると、自己肯定感が持てなくなり「自分はどうせダメだ。何をやってもムダだ。自分にはできるはずがない」と思い込むようになってしまいます。
これだと、後で伸びるための芽を摘んでしまうことになります。
後でやる気スイッチが入りそうな機会いろいろやってきても、「どうせダメ」ということで、スイッチを押せなくなってしまうからです。
初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2014年3月号』
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