●「子どものうちなら直る」は嘘だった
親はつねに我が子の短所を嘆きます。
うちの子はだらしがなくて困る。
マイペースで何をやるにも遅い。
やりたいことはやるけど嫌なことは後回しだ。
片づけが苦手で整理整頓ができない。
引っ込み思案であいさつもできない。
同時に、次のようにも思います。
大人になってからでは直らない。
子どものうちに直さなければ。
子どのうちなら苦手なことも直るだろう。
はるか昔から世界中の親や先生たちが、このように「子どものうちなら直る」と思ってきました。
でも、これは人類の大人たちの長年にわたる勝手な思い込みであり、集団的な勘違いだったのです。
実は、子どもは自分の苦手を直すのが苦手です!
はっきり言うと、子どもは自分を変えること、つまり自己改造ということがほとんどできません。
●子どもは新しいものを吸収するのは得意だが…
なぜ人類はそう思い込んでしまったのでしょうか?
それは次のような理由からです。
例えば、子どもが囲碁を習えば、どんどん覚えてめきめき強くなります。
一輪車の練習をすればけっこうはやく乗れるようになります。
ソロバンの習得もはやいし、九九もあっという間に言えるようになります。
親子でどこか外国に行って住むようになれば、その国の言葉をどんどん覚えます。
こういったことは、子どもはすごくはやいです。
大人が逆立ちしても敵わない、まさに驚異的な能力を発揮します。
なぜなら、子どもの脳は乾いたスポンジのようなもので、吸収力が抜群だからです。
新しいものを入れればどんどん入るのです。
大人たちは、そのような子どもの姿を目の当たりにして、「だから、子どものうちなら苦手なことも直るだろう」と思い込んでしまったのです。
でも、本当はこの2つは全く別の事柄だったのです。
苦手なことを直すというのは、新しいものを吸収することではありません。
もうすでに別のものが入っているのです。
つまり、もって生まれた資質というものがあるのです。
ですから、これはもって生まれた資質をつくりかえるということであり、自己改造するということなのです。
単純に新しいものを吸収するということとはわけが違います。
●もって生まれた資質をつくりかえるのは簡単ではない
資質とは才能と性格のことです。
才能としては、例えば生まれつき運動神経がいい、リズム感がある、数学的能力が高い、言語表現が巧みである、絵の才能があるなどです。
性格としては、例えば…。
いつもせわしなく慌ただしい人もいれば、のんびりゆったりマイペースな人もいます。
やるべきことを先にやらないと気が済まないという律儀な人もいれば、先にやりたいことをやって嫌なことは後回し、土壇場力でなんとかするという図太い人もいます。
いつも友達と一緒にわいわいやっているのが楽しくて幸せという社交的な人もいれば、できたら自分一人で気楽にしている方が落ち着いて幸せという内向的な人もいます。
常に掃除や片づけや整理整頓をしている人もいれば、出せば出しっぱなしで一向に片付けない人もいます。
このように、誰にももって生まれた資質というものがあります。
それをつくりかえるということなのです。
どうですか?
簡単な話ではありませんよね。
これをやり遂げるためには、強烈なモチベーション、強い意志力、極めて高い人間としての総合的な能力が必要です。
でも、子どもにはこういうものはありません。
吸収力しかないのです。
●子どもには強いモチベーションがない
ですから、苦手なことを直す、つまり自己改造というものは、子どもよりもかえって大人の方が可能性があります。
もちろん、大人にとっても簡単なことではありません。
でも、子どもよりははるかに可能性が高いのです。
大人なら、何か失敗したときに「このままでは将来もっと困る。今のうちにこれを直さなければ。今のうちにこれをできるようにしなければ」と考えたり、または将来への夢を真剣に考えたりすることで、自己改造への強いモチベーションを持てるようになることがあります。
そして、それに基づく強い意志力も発揮できます。
でも、子どもは”今・ここ”に生きる存在であり、将来のことを真剣に考えることが本質的に苦手です。
ですから、自己改造への強いモチベーションも持てないし、意志力も続かないのです。
また、大人なら「これを直すぞ」と思ったとき、本を読んだり、ネットで情報を取ったり、カルチャーセンターで学んだりして、ノウハウを得ることができます。
自分で工夫したり必要なものを買ってきたりすることもできます。
大人には情報もあり、知恵もお金も行動力もあり、行動の自由もあります。
つまり、人間としての総合的な能力が高いのです。
子どもにはこういうものもまるでありません。
●子どもは苦手なことを直すのが苦手
このようなわけで、子どもは苦手なことを直すのが苦手なのです。
人類がずっと思い込んできた「子どものうちなら直る」というのは、まったくの勘違いであり、はっきり言うと真っ赤な嘘だったのです。
大人たちは「子どものうちなら直る」と思ってきたので、子どもたちを否定的に叱り続けてきました。
その結果、自己否定感と他者不信感でいっぱいになりました。
私は、人類の歴史が争いや戦争の連続だったのはここに原因があるのではないかとすら思います。
私は、大人たちが「子どもは苦手なことを直すのが苦手だ」という真実を理解することが大切だと思います。
そうすれば、それに応じた適切な対応ができるようになるからです。
初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2014年1月号』
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