作文の勉強というと、みなさんはどんなことを思い浮かべるでしょうか?
だいたいの方は、遠足や運動会の次の日に書かされた、いわゆる行事作文を思い浮かべるのではないでしょうか。
その次が、日記だと思います。
でも、現在の作文の勉強はもっと多種多様です。
それだけ文章表現の勉強に力点が置かれているのです。
ある会社の1年生から6年生までの国語の教科書に出てくるものだけでも、次のようなものがあります。
日記、行事作文、自己紹介、名刺作り、葉書、手紙、記録文、報告文、研究レポート、コラム、随筆、ポスター、新聞、パンフレット、図鑑作り、絵本作り、情報掲示板、発見ノート、創作ノート
他の会社の教科書からも探せば、その種類は数え切れないくらいたくさんになります。
依頼状、質問状、礼状、取材メモの取り方、意見文、ニュース番組の台本、読書感想文、自分のクラスを紹介する文章、ファックスで用件を伝える文章、スピーチメモと原稿、ブックガイド、本の帯、プレゼンテーションの台本
このようないろいろな形で文章表現の勉強をするのです。
20年前は、国語の授業といえば、物語文や説明文などを読んで理解する読解の授業にほとんどの時間が向けられていました。
その頃と比べて、隔世の感があります。
小学校では、新1年生に入学してひらがなを習い始め、一通り全部習い終わると、「すいか」「にんぎょひめ」などの単語を書く練習をします。
その後、「○○は」「○○へ」「○○を」のような特別な助詞の書き方を習ったら、すぐに作文の初歩が始まります。
その時期は7月くらいですから、進み方はかなりの速さです。
小学校で初めてひらがなを習い始めた子にとっては、かなりの負担と言わざるを得ません。
初めての作文の勉強の進め方は、教科書によっていろいろです。
丁寧な教科書では、次のような手順を踏んでいます。
1,子どもに昨日のことを話させます。
例えば、「ぼくは、昨日お父さんと縄跳びをしました。後ろ跳びを教えてもらって、うれしかったです」のような感じです。
2,それを先生が黒板に書きます。
3,子どもたちはそれをノートに写します。
4,あらたに先生に話したいことを考えて、自分でノートに書きます。
ところで、なぜ、4に入る前に1,2,3のようなことが必要なのでしょうか?
それは、文章を書くことは話をするのと同じようなものだと分からせるためです。
つまり、話すという行為は自分の中にある思いや考えを表すことであり、文章を書くという行為も自分の中にある思いや考えを表せばいいのだと分からせるためなのです。
それまでの授業で、どの子も単語は書いています。
また、助詞の練習のために「ぼくはえきへいきます」のような文を書き写したこともあります。
でも、たとえ短いものにせよ、自分自身でひとまとまりの文章を書くのはこれが初めてなのです。
そうでない子もたくさんいますが、建前上はそうです。
ですから、このようなステップを踏まないと、何を書けばいいのか分からない子が出てくる可能性があるのです。
このステップがあれば、「自分が話したいことを、話すように書けばいい」ということを分からせることができます。
みなさんは、ここまで丁寧にする必要があるのかと思うかもしれません。
でも、実際に1年生を教えていると、いきなり4のように「先生に話したいことをノートに書いてごらん」と言っても、なかなか書けない子はけっこういるものなのです。
ところで、この指導のステップをここで説明したのは、子どもに作文を書かせるときのポイントの1つがここに表れていると思うからです。
つまり、子どもが日記や作文に「書くことがない」と言うときは、まずおしゃべりをさせるといいのです。
例えば今日やったことを話させれば、ほとんどの子が話せます。
話すことがあるということは書くことがあるということです。
だから、まずおしゃべりさせてから書かせれば、日記でも作文でも書けるのです。
では、なぜ、書くことはないと言っていたのにおしゃべりならできるのでしょうか?
それは、おしゃべりなら誰でも日常的にしているからです。
書くということは日常的にはしていないので、その分抵抗が大きいのです。
ただ、それだけの違いなのです。
それは、つまり、日常的に書くことを増やせば作文もどんどん書けるようになるということでもあるのです。
これも、作文のポイントの1つです。
これについては、後でもう一度詳しく触れたいと思います。
さて、このようにして始まる作文の勉強ですが、この後も、いろいろなポイントが少しずつ身に付くように作文の単元は計画的に配列されています。
「読んでもらう相手を意識して書く」というのも大事なポイントです。
そのために、最初の、書き出しを「せんせい、あのね」とか「おかあさん、あのね」という形で書かせることがあります。
低学年の子や作文の苦手な子にとって、このような書き出しはとても効果的です。
頭で考えていただけでは何も書き始められなかった子が、「せんせい、あのね」と書いた瞬間、書きたいことが浮かんできてすらすら書き始めるということも実際にあるのです。
家で書くときも、子どもがなかなか書けないときは、まずこの書き出しだけでも書かせてみるといいと思います。
「目的を意識して書く」というのも大事なポイントです。
それを意識させるために、友達作りゲームで使う名刺に自己紹介の文を書かせたり、お世話になった人へのお礼文を書かせたりと、いろいろな作文を経験させるのです。
「詳しく書きたいことを選んで書く」というのも大事なポイントです。
運動会の作文でも、最初から最後まで一様に書くのではなく、例えば徒競走を中心に書くというような取捨選択が大切なのです。
そのために、まず思いつくことを作文メモに書いて、その中から中心を決めて、さらにそれについてのメモを増やし、それを元に作文を書くということもやります。
「様子や気持ちが分かるように書く」というのも大事なポイントです。
そのために、私はよく黒板に「したこと、見たこと、聞いたこと、話したこと、思ったこと」と書いておいたものです。
子どもたちは、それをちらちら見ながら書くのです。
家で書くときも、子どもがなかなか書けないときは、これらのポイントを書いた紙を横に置いておくといいと思います。
「情報を集めて整理して書く」というのも大事なポイントです。
そのために、公園で見つけたいろいろな虫のことを発見カードにメモして、さらに図鑑で調べたことをカードに付けたし、それらを元に研究レポートを書くということもやります。
中学年以降は、「段落構成を意識して書く」ということも大事なポイントです。
作文メモで内容を一固まりごとに区切っておき、作文を書くときにその区切りで一文字分下げるという指導がよく行われます。
このように、国語の授業では、いろいろなポイントが身に付くように、いろいろな形で書く機会を設けているのです。
また、国語以外の教科や道徳や特別活動などにおいても、できるだけ多くの書く機会を設けることが求められています。
では、なぜ、このようなことが求められているのでしょうか?
それは、当然のことながら現代社会がそのような能力を求めているからです。
情報化社会の進展、中でもインターネットの急激な発展と普及が私たちの生活や仕事を大きく変えつつある、という背景があるのです。
例えば、生活でも仕事でも、メールという文章によるコミュニケーションの役割が年々大きくなってきています。
ブログやメールマガジンで文章による情報発信をする個人も急増しています。
インターネットで物を売るネットショップのサイトでも、決めては映像よりも文字情報だと言われています。
このように、インターネット上にある情報の大半が文章表現によるものです。
情報化社会とかインターネット社会とか言われるものの中身とは、実は文章表現社会のことなのです。
また、インターネット以外でも、文章表現の果たす役割には大きなものがあります。
ビジネスの場においても、実際の業務のかなりの部分が文書作成です。
一組織内においても世の中全体においても、それが発展し複雑になればなるほど、文書の役割は大きくなっていくのです。
このような背景があるので、文章表現力を鍛える作文の授業が重視されているのです。
そして、さきほど挙げた教科書で取り上げているポイントもこのような背景のもとで求められるポイントでもあるのです。
さらに、私はこれらの他にも絶対忘れてはいけない大事なポイントが3つあると思います。
教科書では正面切って取り上げられることが少ないのですが、実は、非常に大事なものばかりです。
まず、1つ目として、達意の文章を書けるようにするということです。
達意の文章とは、伝えるべき内容や意味が相手に的確に伝わる文章のことです。
現代の社会で求められている文章のほとんどは、物語文のような文学的なものではなく説明文のような実用的な文章です。
つまり、美しい文章でなくてもいいので、相手に的確に内容が伝わることが大切なのです。
そのコツは、主語、述語、目的語の関係がはっきりしていることと一文が長すぎないことの2つです。
2つ目は、文章の中に自分らしさを出せるようにすることです。
実用的な文章の中であっても、ほんの少しでもオリジナリティが感じられたり、キラリとした輝きがあることはとても大切です。
例えば、仕事で実用的なメールのやり取りをしている中でも、相手のメールの中にこれが感じられることがあります。
それは、何かに関するほんのちょっとした感想や見解にも表れます。
そして、それは、その人の人間性の豊かさを物語ってくれるものでもあるのです。
3つ目は、書くことが好きになることです。
これが、全てのポイントの中で一番大切なことです。
つまり、書くことが好きで、書くことに自信が持てて、どんどん書くことができるようにしてやることです。
「好きこそものの上手なれ」ということわざの通り、これが上達の一番の近道なのです。
そのためには、やはり子どもが書いたものをほめることです。
親は子どもの書いたものを見ると、すぐに字が雑だとか漢字が使ってないとか言いがちです。
でも、それでは書くことを好きにしてやることは絶対にできません。
それは親としては大変まずいやり方です。
そういう細かいことには目をつむって、ほめる部分を探すことです。
例えば、次のように言ってやるといいのです。
「とても分かりやすく書けていていいね」「自分らしい感想が出ているね」「○○の作文はいつも面白いよ。文章を書くのが上手だね」「読んでいて楽しくなったよ」「徒競走のところを選んで詳しく書いたのがよかったね」「そのときの気持ちがよく出ているよ」「様子が目に浮かぶようだね」「会話のところが生き生きしているよ」
書くことを好きにしてやるためには、ほめることと並んで、毎日の生活の中で楽しみながら書く機会をたくさん作ってやることも大切です。
そこで、おすすめなのが、拙著『「楽勉力」で子どもは活きる!』の中で紹介した親子日記です。
これは親子が交代で書く交換日記で、親子のコミュニケーションを楽しみながら書けるので、子どもは書くことが大好きになります。
そして、当然、ほめる機会も増えます。
また、家庭内で簡単なメモ程度の手紙やカードのやり取りを習慣にしておくのも効果的です。
次のようなことをやっている家庭もあります。
・お父さんのお弁当に母と子で簡単な手紙を添える
・お母さんの誕生日に父と子でカードを書く
・子どもの音楽を見に行った感想を親が書いて渡し、その返事を子どもが書く
・家族間の連絡事項をホワイトボードに書く
このようにして、とにかく子どもの書いたものをほめたり、日常的に楽しみながら書く機会を増やしたりすることが大切です。
それに心がけていれば、その他のいろいろなポイントも自然に身に付いていくのです。
子どもたちが生きる未来の社会では、今よりもなおいっそう作文力が求められるようになるはずです。
ですから、子どものときから書くことを好きにさせてやることが一番のポイントなのです。
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