漢字は計算と並ぶ勉強の代表選手と言っていいと思います。
「うちの子、漢字が書けなくて・・・」「習った漢字を全然覚えていない」「日記を見たら平仮名ばかり」などという悩みは、本当によく耳にします。
でも、そういう悩みを口にする親の中で、具体的な解決方法を工夫する人はほとんどいません。
「どうしたら漢字が得意になるのか?」と真剣に考えたり、実際にいろいろ工夫したりする親はとても少ない、というのが私の実感です。
ほとんどの場合、「これじゃあ、困るでしょ」「なんでこんなに漢字が書けないの!」「漢字をもっとがんばりなさい」と口で言うだけです。
でも、口で言うだけでは何一つ解決しません。
いろいろ具体的な工夫がなされて初めて向上があるのです。
そこで、今回は漢字が得意になるための具体的な方法を、できるだけたくさん紹介していきたいと思います。
1つ目は、漢字の勉強で絶対に欠かせない書き取りです。
書き取りなしで漢字を得意にすることはできません。
ただし、ただ漠然と書き取りをやっていても漢字を覚えることはできません。
機械的に書いているだけでは、何十ページ書いても頭に残らないのです。
効果を上げるためには、こうします。
まず、書き取りをする前に、「今日はこの5つの漢字を覚えよう。書き取りの後でミニテストをするよ。1問20点で100点満点だよ」と言っておくのです。
こうすると、目当てができるのでただ漠然と書くことはなくなります。
ただ機械的に書くのと、「覚えよう」という気持ちで書くのとでは、同じ量を書いても効果は全く違ってきます。
そして、書き取りが終わったらすぐミニテストをして、その後すぐ丸付けをしてやります。
このとき、親の予想として満点が取れるかどうか不安なら、ミニテストをやる前に指書きで書かせてみてください。
それで間違えるようだったら、指書きでいいので覚えるまで書かせてください。
そして、100点満点が取れそうになったところで、ミニテストをやるようにしてください。
なぜそうするかというと、100点満点を毎日取れるようにしてやることが大事だからです。
毎日100点が取れる、少なくとも80点が取れる、という形で進めていくことが大事なのです。
毎日40点とか60点では、子どもの意欲が高まりませんし自信も持てません。
「今日100点満点取れば、連続100点満点が5日目だ!これって新記録だ」というようになると、子どもも楽しくなり前向きに取り組めるようになるのです。
2つ目は、漢字の問題集へのチャレンジです。
書き取りはもちろん大事ですが、いつも書き取りでは飽きてしまうということもあります。
そこで、少し目先を変えて、漢字の問題集にチャレンジさせるのもいいと思います。
その際は、とにかく1冊やり遂げることを最優先にして問題集を選ぶことが大事です。
例えば、次のようなものがいいと思います。
・問題数が少ない
・ページ数が少なくて、全体が薄い
・活字が大きくて字を書く枠も大きい
・イラストやキャラクターなどがあって楽しい感じがする
1冊やり遂げることで、子どもは大いに達成感を味わうことができます。
それで漢字や勉強一般に対する自信を持つことができ、さらに挑戦してみたいという気持ちになることもできるのです。
ところが、親はこの反対のことをしてしまうことが多いのです。
つまり、たくさん勉強させたいという気持ちから、ついつい問題数もページ数も多くて分厚い問題集をやらせてしまうのです。
それで、子どもがやり遂げられなくて、結局は叱って漢字を嫌いにさせ自信をなくさせてお終い、ということになりがちなのです。
これでは、最初から問題集などやらせない方がよかったということになってしまいます。
ですから、コツは、欲をかかないということです。
3つ目は、先ほどの問題集に似ているものとして、漢字検定に挑戦するという方法を紹介します。
漢字検定とは、日本漢字能力検定協会が実施しているもので、「漢検」とも呼ばれています。
小学1年生修了程度が10級、2年生修了程度が9級・・・というように段階的に進んで、6年生修了程度が5級になります。
受験の申し込みは、インターネット、コンビニ、書店などでできます。
勉強の教材としては、漢字検定専用の問題集や参考書があります。
学校の勉強と少し離れたところで、漢字検定合格という目当てを持って勉強するのは、子どもたちにとっても新鮮なものです。
実際、これで漢字が好きになり得意になったという子もたくさんいるのです。
4つ目は、「漢字指書き、1日1分」という方法です。
指書きとは、先ほど少し触れましたが、鉛筆を使わず指で字を書くことです。
この指書きで、その日か前日の漢字ミニテストで出した漢字を、再度書かせてみるのです。
もちろん、1週間前の漢字でも覚えにくい漢字でもいいのです。
夕食の「いただきます」の前の1分、お風呂から出たときの1分、寝る前の1分など、やる時を決めておくといいでしょう。
そして、毎日1回は必ずやるようにするのです。
1つ書くのに10秒かかるとして、1分で5,6個の漢字をおさらいすることができます。
このようなこまめなおさらいこそ、記憶の定着のために最も理に適った方法です。
少し欲をかいて、「漢字指書き、1日5分」にすることもできます。
これなら、毎日かなりたくさんの漢字をおさらいすることができます。
でも、何といっても一番大事なのは、1分でもいいから毎日必ずやることです。
3ヶ月間続けることができれば、かなり漢字力をつけることができます。
続けるのに大事なのは親の意志力と工夫です。
ぜひ忘れないための工夫をしてください。
それを子どもに求めないことです。
親が忘れない工夫をして、これを続けることができれば、子どもの漢字力は間違いなく向上します。
5つ目は、習った漢字を実際に使わせて身につけさせる方法です。
せっかく漢字を習っても、日記、作文、その他の文章を書くときに使わないでいては、本当に自分のものにすることはできません。
実際の文章の中でどんどん漢字を使うことで、本当の漢字力が付くのです。
でも、そのために「なんで平仮名ばかりなの?習った漢字に書き直しなさい」というように、叱るところから入るのはやめた方がいいでしょう。
それが多いと、文章を書くこと自体が嫌いになってしまいます。
そうではなく、プラス思考で加点主義で進めることが大事です。
例えば、次のような方法があります。
・漢字に丸を付けて、漢字を使ったことをほめてやる。
・使った漢字の数を数えて点数を付けてやる。
例えば、45個あったら、1個あたり2点として「漢字90点」と書いてやる。
学年や書いた字の分量によって1個あたりの点を調節して、あまり低い点数にならないようにしてやる。
もちろん、100点以上になってもいい。
・これを表やグラフに記録していく。
「今日は漢字120点を目指そう」というように、漢字を増やそうという意識を持った上で書き始めることができる。
・「この漢字うまいね」「この漢字の左払いがきれいだね」「この漢字の形がきれいだね」この漢字の縦画がまっすぐできれいだね」「漢字がたくさん使えるようになってきたね」「漢字が得意じゃん」など、加点主義の声掛けをする。
6つ目は、漢字にルビのある読み物をたくさん読ませる方法です。
例えば、小学生新聞、学習漫画、児童文学などです。
それによって、まだ習っていない漢字でも読めるようになります。
そう言うと、「読める字だけ増やしても意味がないのではないか」と考える人もいるかもしれません。
でも、決してそうではないのです。
授業で新しい漢字を勉強するとき、今まで一度も見たことのない漢字や読み方も知らなかった漢字の書き方を覚えるのはとても難しいのです。
それに比べて、何度も見たことのある漢字や読み方を知っている漢字は、書き方を覚えるのも楽なのです。
最近になって、教育関係者の間でこの事実がはっきり認識されるようになりました。
それで、このごろは、まず先に読み方を覚える「読み先習」という考え方が強調されています。
そこで、私は1つ提案したいことがあります。
それは、各学年の教科書に、この「読み先習」の考えを実際に取り入れるということです。
例えば4年生の教科書を例にするとこういうことです。
今の4年生の教科書には、5年生以降で習う漢字は載っていません。
それを、4年生の教科書に5年生以降で習う漢字もルビ付きで載せるようにするのです。
あまり多すぎると負担が大きくなりますが、少なくとも5年生、または、5,6年生、または中学3年生までに習う漢字は載せるというようにするといいと思います。
ぜひ、教科書会社にはチャレンジしていただきたいところです。
7つ目は、漢字の楽勉です。
生活や遊びの中で、または楽勉グッズを使って、あの手この手で漢字に親しませるのです。
例えば、漢字カルタは、カルタを楽しみながら漢字を覚えることができる優れものです。
子どもはカルタに勝ちたいので一生懸命覚えます。
私も現役教師のときいろいろな漢字カルタを作りましたが、子どもたちはいつも嬉々としてやってくれました。
例えば、部首カルタ、同音異義語カルタ、同訓異義語カルタ、漢字誤字カルタ、二字熟語カルタ、三字熟語カルタ、四字熟語カルタなどです。
今は、市販の漢字カルタもたくさん出回っていますので、ぜひ親子や家族で楽しんでみてください。
もちろん、親が手作りしてもいいのです。
漢字を扱った学習漫画も、ぜひ読ませてやるといいと思います。
漢字の学習漫画は、漢字の由来と歴史、部首の意味、書き順の秘密、間違いやすい漢字の覚え方、漢字クイズ、漢字の雑学など、いろいろな方面から漢字への興味が持てるように作られています。
しかも、漫画を楽しみながら学べるのですから、子どもにも入りやすいのです。
そして、入りやすい割には奥が深いので、大人が読んでも勉強になるくらいです。
少し変わったところでは、粘土で漢字を作るというのも楽しいです。
どうするかというと、まず粘土を細長くして紐のようにします。
それを使って粘土で漢字を作るのです。
大人からはくだらなく思えるかもしれませんが、実際やってみるとけっこう楽しいのです。
子どもたちにやらせると、2時間くらいは没頭します。
この粘土漢字をやった後、家でクッキー漢字を作って持ってきた子もいました。
この応用で、紙粘土で漢字を作って、乾いたら色を塗るというのもあります。
「友情」「一生懸命」など、好きな漢字熟語を紙粘土で作って好きな色で塗るのも楽しいです。
クレヨン、絵の具、色鉛筆などでカラフルな漢字を書くのも、楽しいです。
私は、「カラフル漢字」とか「お絵かき漢字」などと呼んでいます。
一画ずつ色を変えて書く(画く)のも楽しいですし、大変なら一字ずつ色を変えるのでもいいのです。
とにかく、一枚の紙の中にカラフルな漢字をたくさん散らばらせて、全体をきれいなデザインや抽象画のようにするのです。
ですから、書き取りのように同じ大きさで縦にそろえて順番にかくのではありません。
大きい字があったり小さい字があったり、斜めの字があったり逆立ちしている字があったりしていいのです。
中には、額に入れて飾りたいほどすばらしい作品を作る子もいました。
低学年の子や幼児には、「塗り絵漢字」もおすすめです。
これは、いろいろな漢字の形の外枠だけを線で書いたものを子どもに与えて、枠の中を好きな色で塗るというものです。
基本的には好きな色で塗っていいのです。
でも、子どもたちに「水」は「みず」という漢字だと教えると、自然に青で塗りたがります。
「花」だと、みんなできるだけきれいな色で塗ろうとします。
このようなことをして何になるのか、と感じる人もいるかもしれません。
でも、実は大きな価値があるのです。
つまり、勉強として漢字を習う前に、このような楽しい活動で漢字に親しんでおくことが大事なのです。
それによって、「漢字っておもしろい。漢字って楽しい」という意識を持つことができます。
このようにして漢字を「快の体験」と結びつけてやると、漢字学習に対する意欲が高まります。
その反対に、漢字が「不快な体験」と結びつけられていると、意欲が高まりにくくなります。
「いきなりたくさん覚えさせられて、なかなか覚えられずに叱られた」などという「不快な体験」と結びつけられてしまうと、漢字への苦手意識を持ってしまうのです。
この点で、塗り絵漢字だけでなく、漢字カルタ、粘土漢字、クッキー漢字、カラフル漢字、お絵かき漢字なども、全て「快の体験」に結びつけるために活用することができるわけです。
楽勉の最後に、もう1つ付け加えておきます。
ぜひ、博物館で甲骨文字の刻まれた亀の甲羅を実際に見る機会を作ってやるといいと思います。
教科書や漢字ドリルなどで甲骨文字の写真を見たことはあると思いますが、実物を見たことのある子は少ないはずです。
私も06年2月に東京国立博物館で開催された「書の至宝展」で、本物を見ました。
やはり、本物はインパクトが全く違います。
何千年も前の人の手になる漢字を間近に見て、書いた人(刻んだ人)の息づかいが感じられるような気がしました。
普段何気なく使っている漢字ですが、1字1字に先人の苦心があり、1字1字に歴史があるということを改めて感じさせられました。
いろいろ提案してきましたが、とにかく大事なのは、「漢字をもっとがんばりなさい」と口だけで言うのではなく、具体的かつ合理的な方法を工夫して実行することです。
そうすれば、楽しみながら漢字を好きにしていくことができるのです。
最後に1つ、頭に入れておいて欲しいことがあります。
それは、親が上記のような工夫をいろいろしても、なかなか成果が目に見えない場合もあるということです。
誰にも得手不得手があるわけで、なかなか漢字を覚えられないという子は実際にいるのです。
新しい漢字を3,4回書けば覚えてしまう子もいれば、10回くらい書かないと覚えられない子もいます。
一度覚えたらなかなか忘れない子もいれば、覚えたと思ってもすぐ忘れてしまう子もいます。
なかなか覚えられない子を叱っても意味のないことですし、それどころか全くの逆効果です。
親は自分が工夫し努力していると、「こんなにやっているのに、なんでできないの?」と思ってしまうものです。
でもそれを子どもにぶつけても仕方がないのです。
そんなことをすれば、自分が今までやってきたことを自分で壊してしまうことになります。
自分で積んだ積み木を自分で壊してしまうことになるのです。
ですから、親は自分にできることをやりつつも、成果を望まないでいることが大事です。
成果を望まず、その過程自体を親子で楽しんでください。
これは、漢字のことだけでなく、全ての勉強や全てのしつけにおいて同じことが言えます。
そのこと自体を楽しむ、その過程自体を楽しむ、それが大事です。
それが子育ての楽しい時間であり、人生の楽しい時間なのです。
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