今回も、まず、みなさんに問題を出します。


小学1年生の算数に関する問題ですが、侮ってはいけませんよ。
 


問題


次の6つの問題は、小学1年生の1学期に勉強する引き算の問題です。
同じ種類の引き算を見つけて、2つずつ3つの仲間に分けてください。

 
1,いちごが7こあります。5こ食べました。後何こありますか?

2,子どもが9人います。男の子が4人なら、女の子は何人ですか?

3,男の子が6人、女の子が8人います。どちらが何人多いですか?

4,お皿が5枚あります。ケーキが3こあります。お皿は何枚あまりますか?

5,くじ引きの棒が9本あって、3本が当たりです。はずれは何本ですか?

6,鳥が8羽いました。3羽飛んでいきました。残りは何羽ですか?



 

では、ヒントです。
「求残」「求差」「求補(部分集合を求める)」の3種類に分けてください。

 


はい、それでは、正解を書きます。


1と6、2と5、3と4がそれぞれ仲間になります。
1と6は、残りを求めるので「求残」です。


2と5は、全体の数と部分の数が分かっていて、残りの部分の数を求めます。
ですから、「求補(部分集合を求める)」です。


3と4は、2つの数の違いや差を求めるので「求差」です。


 

このように引き算と一口に言っても、種類があるのです。
もちろん、子どもたちに教えるときにはこのような難しい言葉で言う必要はありません。


全ての教科書で、1と6の「求残」は「残りを求める」問題、3と4の「求差」は「違いを求める」問題と言って教えています。


でも、ここで少し困るのは2と5の「求補(部分集合を求める)」を表すいい言葉がないことです。


本当は「部分を求める」問題と言えばいいのですが、この言い方ではよけい分かりにくくなってしまいます。

 
つまり、2の問題で「女の子の部分」と言ったり5の問題で「はずれの部分」と言っても、子どもによく分からないのです。


ですから、この問題についても全ての教科書で「残りを求める」問題と言っています。
というのも、「部分を求める」問題は「残りを求める」問題に似ているからです。


つまり、全部から男の子の6人が減ったというように考えれば、「残りを求める」問題と同じになるのです。

 
でも、教師や親は、教科書では同じように「残りを求める」問題になっていても、「求残」と「求補(部分集合を求める)」という2種類の問題には質の違いがあることを理解しておくべきです。
というのも、子どもの中には、最初の「求残」は難なくできたのに「求補(部分集合を求める)」でつまずく子もいるからです。

 
「求残」では、例えば「1,いちごが7こあります。5こ食べました。後何こありますか?」のように、何かがはっきり減るので引き算だとすぐに分かるのです。

 
でも、「求補(部分集合を求める)」問題では、例えば「2,子どもが9人います。男の子が4人なら、女の子は何人ですか?」のように、何かがはっきり減るわけではないのです。
ですから、これが引き算だと分からない子もいるのです。

 
そのとき、教師や親が2種類の問題に質の違いがあることを理解していれば、その子のつまずきに応じた指導ができます。
つまり、「求補(部分集合を求める)」について理解できるように、積み木や図などを使ってピンポイントの指導ができるのです。

 
でも、教師や親が2種類の問題に質の違いがあることを理解していないと、「求残」はできるけど「求補(部分集合を求める)」でつまずいているということに気が付きません。
「引き算が分かっていない」という漠然とした判断のもとに、「求残」の問題をたくさんやらせることになりかねません。

 
さて、もう1つの「求差」、つまり「違いを求める」問題は、3種類の中で子どもにとって一番難しい問題です。
その理由も、先ほどと同じで、何かがはっきり減るわけではないからです。
 

例えば、「3,男の子が6人、女の子が8人います。どちらが何人多いですか?」でも「4,お皿が5枚あります。ケーキが3こあります。お皿は何枚あまりますか?」でも、何かがはっきり減るわけではありません。


ですから、これが引き算だと分からない子はけっこういるのです。

 
そういう子に効果があるのは、積み木や図を使って考えさせることです
特に、積み木を使って考えさせるとよく分かるようになります。
例えば、男の子6人の代わりに黄色い積み木を6個、女の子8人の代わりに赤い積み木を8個使うのです。
 

そして、黄色い積み木と赤い積み木をすぐ横に並べて「男の子と女の子が手をつなぎます」と言います。
そして、「手をつなげた子を『減らし』ていくよ」と言いながら6ペアを隅の方へ移動します。
そうすると、赤い積み木が2個「残り」ます。


ここで大事なのは、「減らす」と「残る」という言葉に結びつけることです。
子どもが、「『違いを求める』問題も、結局は減らして残った分を求めればいいのだ」と分かるようにしてやればいいのです。

 
このような操作活動をしながら理解させることは、とても大事です。
それでないと、「8ー6といっても、なぜ女の子から男の子が引けるのか?」と密かに不思議に思う子も出てきます。



 
いかがでしょうか?
たかが1年生の引き算でもけっこう奥が深いと思いませんか?
大人にとって引き算などは簡単なものかもしれませんが、1年生にとっては必ずしもそうではないのです。

 
実際、引き算でつまずく子はけっこういるのです。
そして、そのほとんどは、「求補(部分集合を求める)」と「求差」の問題でつまずくのです。

 
たとえ引き算の勉強が終わったときの単元テストで、3種類の問題が全てできていたとしても、安心はできないのです。


なぜかというと、引き算の単元テストで出る文章問題は、どれも引き算の式を作ればいいものばかりだからです。
子どもは、機械的に大きい方の数字から小さい方の数字を引く式を書いて、計算すればいいだけなのです。
 

私は、はっきり言って、現在広く使われている単元テストの作り方に工夫が足りないと思います。
これでは、子どもが本当に分かっているか調べるという目的を果たすことはできません。
 

ですから、「求補(部分集合を求める)」と「求差」の問題がよく分かっていない子でも、単元テストでは100点が取れるのです。
でも、そういう子は、実力テストになると大きく点数を減らしてしまいます。

 
実力テストで出る文章問題には、足し算と引き算が混ざっています。
問題が混ざっている実力テストでも、「求残」の問題はほとんどの子が正解します。
でも、「求補(部分集合を求める)」と「求差」の問題は、多くの子が間違えます。
その子たちは、実はまだその2種類の問題の意味がよく分かっていないのです。
3,4年生でも、そういう子はけっこういます。

 
先ほどのような積み木を使った操作活動をしながら、本当にその意味が分かるようにしてやることが大事だったのですが、その辺が不十分だったのです。
その理由は、単元テストができたから引き算が分かっていると思ってしまったからなのです。




さて、ここまでの大事なポイントをまとめると、次のようになります。


まず、教える側が、引き算には質の違う3種類の問題があるということを意識して教えることが大事です。


そして、積み木などを使った操作活動を十分やらせて、意味をよく理解させることです。


さらに、子どもがつまずいているときには、3つの種類の問題のどこが分からないのかを見極めて、それに即したピンポイントの指導をすることです。



 

では、次に、繰り下がり引き算の計算方法について考えてみましょう。


みなさんは、「15-8」を、次のどちらで計算していますか?


 
A(1)15を10と5に分ける

 (2)10から8を引いて2・・・減法

 (3)5と2を足して7・・・加法

 

B(1)8を5と3に分ける

 (2)15から5を引いて10・・・減法(あるいは8から5を引いて3)

 (3)10から3を引いて7・・・減法


 

Aは減法の後で加法をするので減加法と呼ばれ、Bは減法が2回なので減減法と呼ばれています。
6つの教科書のうち両方載せているものが4つで、減加法だけ載せているものが2つです。
減減法だけ載せているものはありません。

 

両方載せているものでもメインは減加法になっています。
実際に教室で教えるときも、減加法が中心になることが多いですし、私も減加法で教えました。
その理由については、後で詳しく書きます。

 
では、なぜ、教科書によって両方載せてあるものと1つしか載せてないものがあるのでしょうか?
 

両方載せてある教科書は、子どもたちの数学的な思考力を大切にしようという考えが強いのです。
片方しか載せてない教科書は、まず確実に計算ができるようにすることが大切だという考えが強いのです。


実は、これは、教育界における算数の指導法についての相対立する2つの考え方を、そのまま反映しているのです。

 
前者では、数学的な思考力を育てるために、子どもたちにいろいろな解き方を考えさせたり話し合ったりすることに時間をかけます。
その分、どうしても反復練習の時間が少なくなりがちですし、算数の苦手な子が付いていけないということにもなりがちです。

 
後者では、確実に計算ができようにするために、やり方はどんどん教えて反復練習に時間をかけます。
その分、思考力を育てる面では手薄になりがちですし、算数が得意な子には物足りないということにもなりがちです。

 
一言で言えば一長一短です。
ですから、本当はこの両者は相対立するものではなく、相補うものなのです。
どちらかに偏りすぎることなく、バランスを取ることが大事だと思います。
でも、現状では、反復練習の時間が少なすぎると思います。

 
この1年生の繰り下がり引き算でも、反復練習の時間をたくさん取って、瞬時にできるようにしてやることがとにかく大事なのです。
これが瞬時にできないようでは、この後の算数で大苦労することになるのですから。

 


ところで、先ほど少し触れた減加法と減減法の比較について、もう少し詳しく見てみましょう。


実際に家で教えるときに、迷う人もいると思いますので。

「15-8の2つのやり方」(再掲)

A減加法(1)15を10と5に分ける

    (2)10から8を引いて2・・・減法

    (3)5と2を足して7・・・加法

 

B減減法(1)8を5と3に分ける

    (2)15から5を引いて10・・・減法(あるいは8から5を引いて3)

    (3)10から3を引いて7・・・減法
 

子どもにとっての最初の分かりやすさということで言えば、減加法の方が上です。
というのも、減減法はBの(2)のところが少し分かりにくいからです。


つまり、15から5を引くときの5というのは、8を5と3に分解しての5なのですが、この辺の意味がよく分からない子が必ず出てくるのです。

 
ですから、学校でも減加法を中心に教えるのです。
1年生の最初では、まず確実に減加法でできるようにしてやることが大切です。
定着しないうちに別のものを教えると、子どもたちは大いに混乱します。

 
もちろん、減減法もやれればいいとは思います。
でも、そのために減加法の練習時間が減ったり無用の混乱が引き起こされたりでは困ります。

 
でも、ひとたびその意味が飲み込めて慣れてくれば、計算のやりやすさ自体には実は差はないのです。


具体的にそれを見てみましょう。
細かい話になりますが、繰り下がりの引き算は次のように全部で36個あります。


 
ア11-2 12-3 13-4 14-5 15-6 16-7 17-8 18-9

イ11-3 12-4 13-5 14-6 15-7 16-8  17-9

ウ11-4 12-5 13-6 14-7 15-8 16-9

エ11-5 12-6 13-7 14-8 15-9 

オ11-6 12-7 13-8 14-9

カ11-7 12-8 13-9

キ11-8 12-9

ク11-9

 

ア列とイ列のように、「引かれる数の1の位の数字」が「引く数の数字」と近接している場合は、減減法がやりやすくなります。
特に、ア列の8つのうち最初の6つと、イ列の最初の5つはそうです。

 
オ列からク列のように、「引かれる数の1の位の数字」が「引く数の数字」と近接していない場合は、減加法がやりやすくなります。

 
もちろん、人によって個人差があります。
特に、大人の場合は、いつもやっている方法がやりやすいに決まっています。
ですから、今私が書いたことに納得できないものもあるかもしれません。
でも、客観的に見れば、減加法と減減法では計算のやりやすさ自体に大差はないのです。

 
というわけで、みなさんの中にはこの両方を併用している人もいるはずです。
つまり、問題によってやりやすい方でやるというわけです。
そして、当然、子どもでもそういう子はいます。
算数の得意な子ほど、使い分けているのだと思います。

 
実は、このことで以前ある親から質問を受けたことがあります。
「3年生の長男が問題によってやり方を変えているようだけど、どちらかに揃えた方が良いでしょうか?」という質問です。

 
私はその親の観察力に驚いたので、「よく気が付きましたね」と言いました。
そしたら、3年生の長男が幼稚園の弟に引き算を教えるのを見ていて気が付いたそうです。
問題によってやり方を変えるので、教わる弟の方は混乱していたそうです。
でも、教えている本人は難なく使い分けていたのです。

 

私はその質問にこう答えました。


「今さらどちらかに揃える必要はありません。問題にあったやり方を瞬時に使い分けているのですから、すごい能力です。それで、結果的には計算も速くなっているのです。実はこれが理想なのです」

 
でも、念のために再度言っておきますが、1年生で一番最初に教えるときは、まず減加法でできるようにしてやってください。
算数がかなり得意な子以外は、まず、1つの方法で速く確実にできるようにしてやることが大切なのです。