●教師生活の結論

私は小学校の教師として23年間務め、その間ずっと学級担任をしてきました。
1年生から6年生まで、どの学年もほぼ万遍なく受け持つことができ、担任として受け持った子どもの数は600人以上になります。

その経験を通して、私は一つの結論に達しました。
それは、子どもを伸ばすにはほめるのが一番だということです。

ほめる親や先生だけが、子どもを伸ばすことができるのです。
ほめるのが下手な親や先生は決して子どもを伸ばすことはできません。

●ほめられると自信がつく

ほめることによってもたらされるよい効果はたくさんあります。
まず1つめとして、 子どもは何か一つのことでほめられると、自分に自信がつきます。

つまり、自己肯定感が持てるようになるのです。
すると、他のことでもできそうな気がしてきます。

つまり、遊びでも勉強でも、その他の何でも、「できるはずだ。やってみよう」「チャレンジしてみよう」という意欲が出てくるのです。

また、実際にやってみたとき、ちょっとした壁があっても「できるはずだ」と思えるので、がんばって乗り越えることができます。

このようなチャレンジ精神、向上心、努力、根性など、人間が伸びていく上で大切なすべてのよいものは、自分を信じる気持ち、つまり自己肯定感がもとになって生まれてきます。

この反対に、自己肯定感がない子は、まず、何かにつけ「やれそう」と思えません。
「どうせ自分にはできない」「自分には無理」という気持ちが先にきてしまうので、チャレンジもしなくなります。

たとえ取り組んだとしても、ちょっと壁に当たると「やっぱりダメだった」となってやめてしまいがちです。

まさに、自己肯定感こそが成長のための必要不可欠の要素なのです。
そして、それを育てるのに一番いいのがほめることなのです。

●親の愛情が実感できる

次は、ほめることの効果の2つめです。
子どもはほめてくれる相手に対して、必ずよい感情を持ちます。

「お母さんはぼくのことを認めてくれている」「お父さんは私のことをよく思ってくれている」「自分のことを大切に思ってくれている。愛してくれている」。このように思えるようになるのです。

つまり、親の愛情を実感できるのです。
親の愛情を実感できている子は、ますますがんばるエネルギーがわいてきます。

また、自分を愛してくれている親に対して素直な気持ちになることができます。
親の言葉にも素直に耳を傾けるようになりますし、約束も守るようになります。

反対に、子どもは常に否定的に叱ってくる相手に対して、必ず不信の気持ちを持つようになります。

「お母さんは、ぼくがダメな子だと思っているんだ」「お父さんは私のことをよく思っていないんだ」「自分のことが嫌いなのかも。自分は愛されていないようだ」。このように思うようになるのです。

すると、子どもは親に対して素直になれなくなります。
親が何か言っても、わざと反対のことをするようになります。

また、親に対する不信感・愛情不足感を持つと、子どもは愛情を実感したいという衝動に駆られます。
すると、危険な行動や反社会的な行動に走ります。

それによって、親が心配する姿を見て「ほら、こんなに心配してくれている。やっぱり、愛されているんだ。よかった」と思いたいのです。

もちろん、そんなことを意図的にやるのではありません。
満たされない不安と不満の気持ちが、マグマのようになって、無意識のうちに子どもを駆り立ててしまうのです。

●兄弟や友達にも優しくなれる

次にほめることの効果の3つめです。
子どもはほめられて親の愛情を実感すると、心がぽかぽかしてきて温かい気持ちになります。

自分の心が満たされているので、兄弟や友達にも温かい気持ちで優しく親切に接することができるようになります。

この反対に、叱られることの多い子は、心がとげとげしています。
そして、そのストレスを兄弟や友達に対して向けるようになります。
けんかをふっかけたり、自分より弱い子をいじめたりということにつながります。

このように、ほめることの効果は絶大です。
子どもを1つほめるだけで、たくさんのいい循環が起こるのです。
ですから、私は全ての親や先生が、もっともっと子どもをほめるようになって欲しいと思います。

そして、ここまで書いたことは子どもとの関係だけでなく、全ての人間関係に言えることです。
家庭や職場においても、お互いにもっとほめることを増やしましょう。

家庭では妻や夫に、そしておじいちゃんやおばあちゃんに対して、もっと感謝したりほめたりしましょう。
職場では、部下や同僚に、そして上司に対しても、あたたかく肯定的な言葉を贈りましょう。

心で思っているだけでは伝わりません。
実際に言葉に表して伝える努力をしましょう。
今日の一期一会を大切にしてまいりましょう。

初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2013年11月号』

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