子育てや家庭教育の雑誌が、よく取材に来てくれます。
そのとき、たびたび聞かれるのが、「子どもが自分で机に向かう習慣を付けるには?」というテーマについてです。

そういうとき、私は、「机に向かう習慣」という言い方には注意が必要だと答えることにしています。

「机に向かう習慣」は、「勉強する習慣」の慣用句的な表現ですから、要するに子どもが進んで勉強すればいいわけです。
でも、雑誌の記事などで、「机に向かう習慣を付けよう」と呼びかけると、その「机に向かう習慣」を文字通りとらえてしまう人が必ず出てきます。
つまり、小さいときから机に向かって勉強する習慣を付けさせなければならないのではないか、と考えてしまうのです。

でも、本当は、必ずしも机に向かわなくてもいいのです。
ダイニングやリビングのテーブルに向かってでも、寝そべってでもいいのです。
特に、子どもが小さいときは、そうです。

小さい子どもは、自分の部屋で一人で机に向かっているとかえって落ち着かなくなることが多いのです。
小さい子どもは、1人でいると寂しくて不安で落ち着かないからです。
親が家事などをしている近くで勉強した方が、安心できて落ち着くのです。
1つ終わったら「できた~」と言って、親に見てもらうこともできます。

親の方としても、子どもの勉強の様子をそれとなく見ていることができます。
ときどき覗いて、ほめたり注意したり教えてやったりすることもできます。
日記などは、その日のことをおしゃべりしながら書いた方が、どんどん書けます。

このように、親の近くでやった方が、いいことがいっぱいあるのです。
一言で言えば、コミュニケーションやスキンシップをしながら勉強できるということです。
そして、それは意識の中に「勉強=楽しい」「勉強=ほめられる」「勉強=快」という等式を作るのにも役立ちます。

近ごろでは、だいぶこのような認識が広まってきたようで、いい傾向だと思います。
でも、ときどき、雑誌や本などに次のようなことが書かれていることがあります。

・勉強の習慣を付けるには、まず形から入ることが大切
・そのためには、小さいときから、毎日決められた時刻になったら机に向かうように習慣づける
・それも、家事や生活の音が聞こえるところではなく、自分の部屋の机に向かうことが大事
・これが自立した勉強習慣に結びつく・・・云々

小学受験対策を扱ったものでも、このようなことが書かれているのを読んだことがあります。
まさに、「机に向かう習慣」という表現を文字通りとらえてしまっているわけです。

このような、形から無理に入るやり方だと、いろいろな弊害が出てくる可能性があります。
勉強は寂しくて不安でつまらないもの、と感じてしまうかも知れません。
先ほどのような望ましい等式どころか、その反対の等式ができあがってしまうかも知れません。

「机に向かう習慣」という表現を文字通りとらえてしまったせいで、せっかく子どもが紙に何かを書くのに熱中しているとき、それに水を差してしまう親もいます。
「寝そべってやらないで、ちゃんと座ってやりなさい!」と言ってしまうのです。
これでは、せっかくの子どもの熱中が台無しです。
紙に鉛筆で書くという行いこそが大切なのに、机に向かうという形が優先されてしまうのです。

このようなわけで、私は、「机に向かう習慣」という表現には注意が必要だと思うわけです。
ですから、これを少し変えて、「紙に向かう習慣」とか「紙に鉛筆で書く習慣」などと表現したらいいのではないかと思っています。

ところで、小さい子どもに「紙に向かう習慣」「紙に鉛筆で書く習慣」を付けるには、どうしたらいいのでしょうか?
そして、どんなことに気を付けたらいいのでしょうか?

一言で言えば、遊びの延長として楽しみながら習慣づけるのがコツです。
気を付けるべきは、いきなり飛躍しないで少しずつ進めるということです。

例えば、親がやりがちなこととして、年長の子にある日いきなりひらがな練習のワークブックをやらせる、などということがよくあります。
子育て雑誌で、「入学前にひらがなの読み書きを!」などの特集を読むと、親は急にその気になるからです。

でも、親が急にその気になっても、子どもはその気になってなどいません。
そこで、乗り気でない子どもに無理にやらせるということになります。
親の方には、「子どものためだ」という思い込みがあるので、子どもを叱ってでもやらせようとします。

子どもの方は、「突然どうしたの?」「なんで急にこういうことになるの?」という気持ちでいっぱいです。
それに、急にいろいろ詰め込まれても、一気にできるようにはなりません。
それで、意識の中に、「ひらがな=難しい」「ひらがな=きらい」「勉強=つまらない」という等式ができあがってしまいます。

これでは、いきなり飛躍しすぎなのです。
もっと細かいステップを踏んで、少しずつ進めることが必要なのです。
例えば、ひらがなを教えたいなら、まず最初はひらがなを使った遊びから入ります。
ひらがな積み木、ひらがなカルタ、ひらがなカード、ひらがなパズルなどで、たっぷり遊ぶことです。
そうすれば、自然にひらがなが読めるようになり、ひらがなカードやひらがな積み木を並べて言葉を表せるようになります。
そこで、「ひらがなが読めるんだね」とほめてやります。

そうしたら、次に、ひらがな遊びのワークブックをやるといいでしょう。
ひらがな遊びのワークブックとは、ひらがなを使ったクイズやゲームを集めたものです。
これは、ワークブックという紙に鉛筆で書くことで行われますので、「紙に向かう習慣」「紙に鉛筆で書く習慣」の第一歩なのです。
そこで、「勉強が好きだね」とほめてやります。

その後で、少しずつひらがなを書く練習に入っていきます。
とにかく、無理なく少しずつ進めることが大事です。
そうすれば、意識の中に、「ひらがな=分かる」「ひらがな=好き」「勉強=楽しい」という等式ができあがります。

このように、「紙に向かう習慣」「紙に鉛筆で書く習慣」を付けるには、いきなり飛躍しないで少しずつ進めるのがコツです。
そして、遊びの延長として、楽しみながら「紙に鉛筆で書く」段階へ進めるのです。

例えば、ダンゴムシが大好きなA君という1年生がいるとします。
A君は、ダンゴムシがいるところをよく知っていて、いつもたくさん捕まえることができて、飼い方も上手で、ダンゴムシで楽しく遊ぶ方法もよく知っているとします。

そういうA君にノートを1冊用意してやって、大人がうまく働きかけてやると、「紙に鉛筆で書く」段階に進むことができます。
まず、「ダンゴムシのこと、よく知ってるね」とほめてやります。
そして、「ダンゴムシの絵もうまく描けそうだね」と言って乗せます。
絵を描いてくれたら、ほめまくります。
そして、体の各部分の名前や働きなどを言葉で書いてもらいます。

さらに、ダンゴムシの捕まえ方、飼い方、遊び方なども絵と言葉でかいてもらいます。
つまり、ダンゴムシのことを詳しく教えてもらうわけです。
自分の発見したことや知っている知識も、ノートにどんどん書いもらいます。
書いているうちに分からないことが出てくると、図鑑などで調べて書くことも教えます。

もともと大好きなことですから、喜んでやります。
そして、これはもう立派な勉強なのです。
分野で言えば、理科ということになります。
自分が体験してきたこと、いつもやっていること、発見したこと、知っていることなどをノートにまとめる、これこそ最高に楽しい本物の勉強です。

私は教師の時、このような勉強を「自主勉」と呼んで大いに奨励してきました。
予定帳の宿題の欄に、いつも「自主勉」と書いていました。
宿題の欄に書いてあっても、「自主勉」ですから、やってもやらなくても自由です。
そして、何をやっても自由です。
算数、国語、理科、社会などに、直接結びつかなくてもいいのです。

やってきた子は大いにほめました。
そして、みんなに紹介してやりました。
そうすると、宿題でなくてもたくさんの子が張り切ってやってきました。
いろいろな子がいろいろな勉強をやってきたものです。

サッカーの好きなある子は、よくサッカーについて書いてきました。
自分の得意技、蹴るときのコツ、練習方法、作戦の種類、有名選手の特徴、各国の有名サッカーチームの紹介、サッカーの歴史などなどです。
この子も、最初は自分のことが中心でしたが、だんだん調べて書くようになりました。

ポケモンのことを実に詳しく一生懸命書いてきた子もいましたし、戦国武将について書きまくった子もいました。
鳥のことをよく書いた子もいましたし、住んでみたい空想の家についてよく書いた子もいました。

コツはほめまくることだと思い、ほめることに徹しました。
子どもたちの個性的な自主勉を見るのは、とても楽しい時間でした。

ここでもう一度強調しておきますが、算数、国語、理科、社会などに直接結びつかなくてもいいのです。
本人が好きで興味があることが一番です。
ポケモンでもサッカーでもいいのです。
それで、初めて、楽しく取り組めるのです。

それが、「遊びから入って、それを発展させる形で『紙に鉛筆で書く』段階へ進む」ということの意味なのです。
とにかく、自分が好きなことを「紙に鉛筆で書く」ということが大事なのです。

そして、これは、実は立派な勉強なのです。
ポケモンのキャラクターを極めるのと歴史の登場人物を極めるのは、本質的に同じです。
鳥のことを観察したり詳しく調べたりして書くのも、すばらしい勉強です。
それが教科書に出ていなくても、目の前の学校の勉強に直接役立たなくても、勉強であることに代わりはありません。

それどころか、やらされる勉強よりももっと身に付く勉強です。
その子にとっては、内発的な動機付けによる研究といってもいいくらいのものです。
こういうときに、勉強の楽しさを味わうのです。
そして、そういう姿に対して「勉強が好きだね」とほめてやることが大事です。

これで、「勉強=楽しい」「勉強=ほめられる」「勉強=快」という等式ができあがります。
「紙に向かう習慣」「紙に鉛筆で書く習慣」も身に付くのです。

ぜひ、お子さんの興味のあるところを大事にしてやってください。
それをほめてやってください。
そして、もっと好きで得意になれるよう手助けしてやってください。
例えば、虫が好きなら、飼育体験を手助けしたり、昆虫博物館に連れて行ったり、図鑑を買ったりなどです。

そして、うまく子ども乗せて、「紙に鉛筆で書く」段階へ導くといいと思います。
ダンゴムシのA君の例を参考にしてやってみてください。

初出「エデュメリー」(バンタンデザイン研究所)2006年~2007年

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