突然ですが、問題です。
あなたは、子どもの話を聞くとき次のAとBのどちらの親に近いですか?

念を押しておきますが、「どちらがいいか」ではなく、「自分はどちらに近いか」を考えてください。


「ぼく、もう塾を辞めたい」
「えっ、急に何言ってるの!?入学金払って、始めたばかりでしょ!」
「そうだけど・・・」
「なぜそんなこと言い出すの?理由を言いなさい、理由を!」
「だって・・・」
「だってじゃありません。はっきり言いなさい!」
「だって、知らない子ばかりなんだもの」
「行き始めたばかりなんだから、当たり前じゃないの!わがまま言うんじゃありません」


「ぼく、もう塾を辞めたい」
「おやおや、元気がないね。何かあったの?」
「だって、知らない子ばかりなんだもの」
「そうかあ、それはちょっとさみしいね」
「みんな楽しそうなんだけど、ぼくだけ話す人いないんだよ」
「話し相手がいないってのは、けっこうきついね」
「それに、○○小の子が多くて話題が合わないんだよ。先生の噂だって意味分からないし。○○小の音楽会のことだって意味分からないし。話のしようがないんだよ」
「話題がないんだね」
「それから、あの塾は、ああで・・・こうで・・・(略)」
「話題がないのが一番辛いようだね」
「そうなんだよ」
「あなたの得意なムシキングの話でもしてくれればいいのにね」
「そうなんだよ」
「何かいい方法ないかね~」
「明日ムシキングの話してみようかな」
「ああ、いいかもね」
「そう言えば、斜め前の子がコーカサスオオカブトの話してたよ。今度話しかけてみようっと」

Aを選んだ方は正直者です。
よく、自分を振り返っていると思います。
でも、このような対応を続けていると、子どもはだんだん親に話をしなくなります。

では、AとBの違いはなんでしょうか?
一言で言えば、Aはしつけと指導が優先で、Bは受容と共感が優先です。
Aのようにしつけや指導が優先の親は、すぐにお説教やアドバイスを始めてしまいます。
ところが、心にもやもやを溜め込んだままでは、子どもは素直に聞いてくれません。
そこへ、お説教やアドバイスでは、ますますもやもやしてきてしまいます。
これでは、問題の解決の役に立たないばかりか、子どもの心が離れていくことは確実です。

Bは、まず、子どもにたっぷり話をさせてやっています。
そして、それを受容し共感しながら聞いています。
これによって、子どもは溜め込んでいたもやもやを吐き出し、気持ちがとても軽くなります。
そして、子どもの気持ちがすっきりしたところで、解決へのヒントを出してやっています。
これなら、問題の解決方法を子ども自身の口から言わせることができます。
しかも、子どもが親に受け入れられているという実感を持つことができます。

では、もう1問やってみましょう。
あなたは、次のCとDのどちらの親に近いですか?


「今日、E子さんとけんかしちゃった」
「あなたが嫌なこと言ったんじゃないの?」
「言ってないよ。E子さんが私のこと無視するんだもの」
「向こうもそう思ってるかもよ」
「そんなことないよ!」
「なんでも人のせいにしちゃいけないって、いつも言ってるでしょ。自分にもいけないことがないか、考えてみないと」
「もういい!」


「今日、E子さんとけんかしちゃった」
「けんかしちゃったの?大変だったね」
「だって頭にきちゃったんだもん」
「何があったの?」
「E子さんとF子さんと私の3人で帰ってくるとき、E子さんはF子さんにばっかり話しかけるんだよ」
「それは嫌になるね」
「E子さんはF子さんは同じスイミングだから、その話ばっかりしてるんだよ。それで、私の方全然見ないでF子さんにばっかり話しかけるんだよ。2人で夢中になって話してるんだよ」
「やな感じだね」
「それで、『私を無視しないでよ』って言ってやったの。そしたら、E子さんが『無視してないじゃん』って怒ってきたんだよ。それでけんかになったの。」
「もう我慢できなかったんだね」
「それから、ああ言ってこう言って・・・・(略)」
「お母さんも経験あるけど、けんかすると疲れるよね」
「もうぐったりだよ」
「明日会うのも嫌だね」
「うん」
「どうする?」
「仲直りしようかな・・・私もちょっと言い過ぎたし」

みなさんには、Dの方がいいことは既に分かり切っていると思います。
でも、本当にみなさんは、実際の子どもとのやりとりでもBやDのようにできますか?
今、このバーチャルの練習問題だからできただけではありませんか?
実際に毎日の忙しい生活の中でできますか?

あなたは、仕事から帰ってきて夕飯の仕度をしながら、かかってきた電話にも出ました。
その電話は会社からの電話で、提出書類がまだ出ていないから今晩中にFAXで提出して欲しいという内容でした。
それを聞いてイライラしながら台所に戻ったら、皿の中に出しておいた料理で使うミルクを飼い猫が一生懸命なめています。
猫を追い払ったら、逃げるついでに皿を落としてガッシャーン・・・
そのとき、突然子どもが台所にやってきて「ぼく、もう学校に行きたくない」と言い出しました。

あなたはAやCのようにならないでいられますか?
もっとひどくなりそうですか?
BやDのようにできますか?
自分がイライラしているのに気づいて、そういう話は後にしてもらうという判断もありえます。
これができれば、上々です。

これが実際の生活というものです。
子どもというのは、こういうときに限ってろくでもないことを言い出すものなのです。
子どもは、親が今どういう状態かなどという配慮はしませんから。

こういう状態で、BやDのようにできるかどうかが人間の分かれ目なのです。
できる人こそ、大人という名にふさわしい成熟した人間です。
まさに、親力修業は人間修業なのです。

・・・難しいですね。
自分で書いていても、難しいと思いました。
でも、子どもと自分のためにがんばりましょう。
最初からあきらめていては修業になりませんから。
楽しみながら、修業しましょう。
少しでも向上したら、すばらしいじゃないですか!

初出「エデュメリー」(バンタンデザイン研究所)2006年~2007年

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