うちの子はマイペースで困る、という話をよく聞きます。
5,6年生の親からも聞きますが、なんと言っても一番多いのが、保育園や幼稚園の年長の子を持つ親からです。

もうすぐ小学校に入学するのに、今のままでみんなに付いていけるのか?
何をするにも人の2倍どころか3倍の時間がかかる。
年長の長男の着替えが遅くて、放っておくと年少の妹の4倍の時間がかかる。
食事が遅くて、途中で何度も手が止まってしまうので、小学校の給食がすごく心配。

幼稚園や保育園とは違って小学校では大人数で行動することが多くなるので、親たちは心配でたまらないのです。
さらに、幼稚園や保育園の先生から「自分でてきぱき着替えられるように練習しておいた方がいいですよ」と言われたりすれば、余計に心配になってきます。

または、入学説明会のときに小学校の先生から、「学校では体育の時間に着替えますので、1年生に入学する前に自分で着替えられるように練習しておいてください。脱いだ服は自分でたためるように練習しておいてください」と言われることもあります。

先生たちとしては、当然こういうことを知らせておく必要がります。
入学前に言っておかないようでは、かえって不親切というものです。
でも、マイペースな子を持つ親がそれをまともに受け止めすぎると、大変なことになります。

つまり、すごくマイペースな子を今のうちに直してやろうと思ってやり始めると、とんでもないことになるのです。
なぜなら、マイペースな子を直すことはできないからです。

かくいう私は、かなりマイペースです。
マイペースという言い方は少し遠慮した言い方で、本当はスローモーと言った方が適切なのです。

例えば、私が家で夕食を食べ始めたとします。
しばらくして、妻が仕事から帰ってきて食べ始めます。
妻が食べ終わります。
でも、私は依然として食べています。

妻が歯を磨き終わります。
でも、私は依然として食べています。
妻が新聞を読み始めます。
でも、私は依然として食べています。
これは食事のことですが、すべてにおいてこんな感じなのです。

もっと自分のペースを上げていろいろなことをてきぱきやりたいと、何度思ったか知れません。
思うだけでなく何度もチャレンジしてみました。
でも、一時期無理してがんばっても、長続きしたことはありません。

それに、無理しているときは、なんとなく落ち着かないしストレスがたまるのです。
食事のペースを上げててきぱき食べても、ちっともおいしくないのです。
食べた気もしないのです。
人にはもって生まれたペースというものがあって、それを変えることはできないのです。

でも、入学を控えて心穏やかならざる親たちは、今のうちになんとかしなければと思ってやり始めます。
すると、ことあるごとに叱ることになります。
朝の寝起きで叱り、洗面で叱り、食事で叱り、着替えで叱り、ということになります。
帰ってきてからも、その繰り返しです。
朝起きてから夜寝るまで、叱りっぱなしの毎日ということになるのです。

すると、その子に対する注目ポイントがマイペースという一点になってしまいます。
無数にあるその子の要素の中で、マイペースという面だけが前面に出てしまうのです。
そうすると、その子のいい面が1つも見えなくなってしまいます。
こうなると、親子で苦しい毎日を送ることになってしまいます。

そこまでの苦労をしても、なかなかペースを変えるということはできないのです。
そればかりか、そのストレスが必ず別のところに出てきます。

では、親はどうしたらいいのでしょうか?
親は、たんたんと冷静にやるべきことをやればいいのです。
できたら、にこにこ楽しみながらやってください。

上手な着替えの仕方を教えてやり、練習するのもいいでしょう。
ストップウォッチ、タイマー、砂時計などを使ってやるのもいいでしょう。
記録を取るのもいいでしょう。
そして、少しでも上達したら大いにほめることです。

でも、意識してやるときは早くても、そうでないときは逆戻りするかも知れません。
それでも、決して叱ったり怒鳴ったり暴力的な言葉を投げつけたりしてはいけません。
「ぐずぐずしないでさっさとやる」「いつになったら早くなるの?」「これじゃ小学校に行けないね」「妹より遅いなんて恥ずかしいと思いなさい」「まったくのろまなんだから」
こういう言葉を投げつけないことです。

食事のとき手が止まっていたら、「食べようね」とか「止まってるよ」と優しく言ってやればいいのです。
何度でも、手が止まるたびに促してやればいいのです。
そのとき、余分なことは言わないことです。
「また止まってる」「何度言ったら分かるの」などと余分なことを言い出すと、だんだん暴力的な言葉が出てきてしまいます。

何分までに食べようと言ってもいいし、ストップウォッチ、タイマー、砂時計も使っていいでしょう。
ただし、あまりせかすのはよくありませんので、決して無理はさせない程度においてです。

このように、親ができることとやるべきことをたんたんと冷静にやればいいのです。
そして、成果を望みすぎないことです。
成果はなかなか出なくて当たり前です。
生まれつきのマイペースを直すことなど、そう簡単にできるはずがないのです。

ところで、そうは言っても先生に叱られないか心配だ、という人もいると思います。
そういう人には、いい方法があります。

早い段階で、担任の先生に直接会って話しておけばいいのです。
わが子がすごくマイペースであることを伝えて、「ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします」と言っておくことです。

加えて、わが子のいい点もアピールしておいてください。
「とても優しくて妹にも親切で・・・お手伝いもよくやってくれて・・・」
先生に「○○君はマイペース」という点だけインプットすることはありませんからね。
いい点もしっかり伝えて、わが子にいいイメージを持ってもらうことが大切です。

さらに、はやくできるように家でも練習していることも必ず伝えてください。
「家でもがんばっているんだな」と思ってもらうことが、とってもとっても大切です。
そうすれば、その子が遅いときも、「本人なりにがんばってるんだから、しょうがないかな」という気持ちになります。

それから、留めの一押しとして次のように言っておくと効果があります。

「保育園の年中のとき、早く早くとせかしたり叱ったりしていたら、すごくストレスになったようで下痢が続いたことがありまして・・・」
下痢でも、爪噛みでもなんでもいいのです。
要するに、先生が「この子をあまりせかしてはいけない」と思ってくれればいいのです。

というのも、先生もいろいろで、中には、「この子のマイペースを今のうちに直してやろう」と思いすぎる先生もいるからです。
そういう先生だと、その子は毎日「はやくはやく!」とせかされたり叱られたりすることになります。
その予防線を親が張っておいてやるのです。
先生の「はやくはやく!」から子どもを守ってやるのです。
ぜひ、そうしてやってください。

わが子が毎日を楽しく生き生きと過ごせるようにしてやってください。
そして、その子のいい面がたくさん出るようにしてやってください。

初出「エデュメリー」(バンタンデザイン研究所)2006年~2007年