何度言っても子どもが言うことを聞いてくれない・・・
いつも同じことで叱ってばかりいる・・・

叱れば叱るほど、子どもが言うことを聞かなくなる・・・
こういう悩みを抱えている親たちが、世の中にどれくらいいるか分かりません。

「5時の鐘が鳴ったらすぐに帰ってくるって、何度言ったらあなたは分かるの!」
「だって、○○なんだもん」
「なんで、あなたは、お母さんの言うことを聞けないの!」
「だって・・・」(どうせ、ぼくなんか)

「なんで、あなたはいつもいつも妹を叩いて泣かせるの!」
「だって、○○なんだもん」
「あなたはお姉ちゃんでしょ!」
「だって・・・」(お姉ちゃんなんか、損なことばっかり)

このようなやりとりが、あちらこちらで毎日繰り返されているわけです。
子どもはちっとも反省していませんし、かえって溝が深まるだけです。
そして、何一つ改善されないまま、日々同じことを繰り返します。

私は、『「叱らない」しつけ』という本の中で、その解決法を提案しました。
一言で言うと、叱らないシステムを作ることと原因を分析して具体的な手立てを工夫することです。
詳しくは、拙著をお読みいただければと思います。

今回は、ここで、もう1つ別の方法を紹介したいと思います。
それは、トーマス・ゴードン氏が「親業」という本の中で提唱した「アイ・メッセージ」(私メッセージ)という方法です。
私は、私のメールマガジンの読者の方から初めてこのアイ・メッセージについて教わりました。
その後、いろいろと試す中で、この方法がかなり役に立つものだということが分かってきました。

アイ・メッセージ(私メッセージ)では、相手に何かを伝えるときに、「私」を主語にして言います。
その反対のユー・メッセージ(あなたメッセージ)では、「あなた」が主語になっています。
先ほどのやりとりの中で親が言っているのは、すべてユー・メッセージです。

これらのユー・メッセージをアイ・メッセージで言い換えると、次のようになります。
「5時の鐘が鳴ったらすぐに帰ってくるって、何度言ったらあなたは分かるの!」

「帰りが遅いと、お母さんは心配で心配で落ち着かないの」

「なんで、あなたはいつもいつも妹を叩いて泣かせるの!」

「あなたが妹を叩いて泣かせると、お母さんは悲しくなっちゃうよ。」

どうですか?
ずいぶん感じが違いますよね。
このような言い方で言われると、相手は意外なほど素直に聞いてくれるのです。
というのも、ユー・メッセージに含まれていた相手を非難する要素が消えるからです。

ユー・メッセージには、どうしても相手を非難する要素が入ります。
「あなたは、まだ宿題やってないでしょ」
「また、(あなたは)こんなところにおもちゃを置いて!」
「あなたは・・・してない」
「あなたはいつも・・・だ」

相手を非難した上で、こうして欲しいということを伝える言い方になってしまうのです。
言われた方は、まず非難されたことが一番心に響いてしまうので、素直になれなくなるのです。

これに対して、アイ・メッセージには、相手を非難する要素はありません。
「あなたが・・・しないと、私は心配だ」
「あなたが・・・だと、私は悲しい」
これは、相手の行動で自分がどういう気持ちになったかを伝える言い方です。

言われた方は、相手が心配しているとか悲しんでいるなどという気持ちに対して意識が向かいます。
そして、その原因が自分の行動であることについて、後悔の念が湧いてくるのです。
「あれ、お母さんいつもと違う。どうしたんだろう」
「あっ、お母さんを悲しませちゃったんだ。しまった」

ただし、主語を「私」にして形だけアイ・メッセージになっていても、次のように相手を非難する要素が入っていたのでは効果はありません。
「あなたがお片づけしないから、お母さんがイライラするじゃないの」
「お前が言われたこと守らないから、お父さんも怒りたくなるんだよ」

私が思うに、とにかく、人間というのは、相手から非難された瞬間に心を閉ざすという習性があるようです。
大人でも子どもでも、そうです。
相手の言い方の中に、少しでも自分を非難するニュアンスをかぎつけると、その時点で無意識のうちに自分を守る体勢を取るのです。

理屈では相手が言っていることが正しいと納得しても、気持ちの面では素直になれなくなってしまうのです。
子どもにおいては、特にそうだと思います。

その反対に、非難の要素がない中で「・・・で、私は悲しい」「・・・なのが心配」などと言われれば、自然にその気持ちに共感してしまうのです。
それも、また人間の習性なのです。
ですから、このアイ・メッセージという方法は、とても理に適ったものだといえます。

日々、冒頭のようなやりとりに終始している方々は、ぜひ、このアイ・メッセージに切り替えてみるといいと思います。
「兄弟でけんかしてるの見ると、お母さんとっても悲しいわ」
「何度言っても宿題をやらないんだね。言ってるお父さんも辛くなるよ」

また、うまくできたときを逃さずに、アイ・メッセージで喜びを伝えると効果が大きいと思います。
「あなたたちが仲よく遊んでいるとき、お母さんは一番幸せ」
「自分から進んで宿題をがんばってるね。お父さんもうれしいよ」

初出「エデュメリー」(バンタンデザイン研究所)2006年~2007年

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