これは、飲み会のときに私の知り合いのAさんという女性から聞いた話です。

高校時代のある日、Aさんは、お弁当に入っていたグリーンピースを全く食べないで残したそうです。

それで、家に帰って、お母さんにかなり叱られてしまいました。
お母さんは、かなり激しい人なので、おとなしいAさんは反抗どころではなかったそうです。

そして、次の日、お弁当を開けてびっくり!
ご飯以外は、全てグリーンピース。
やむなくご飯全部とグリーンピースを少しだけ食べたそうです。

さて、残ったグリーンピースをどうするか?
もうこれ以上はとても食べられません。
かといってそのまま持って帰れば、また叱られるのは目に見えています。
5時間目と6時間目にはそのことばかり考えていたそうです。

気の弱いAさんは「どこかに捨てればいい」と思いつつも、気がとがめてそれができませんでした。
とうとうグリーンピース入りの弁当を家に持ち帰ってしまいした。

家に帰ってから、やはりお母さんが怖いので捨てることに決めました。
それだったら帰る途中で捨ててくればいいものを、気の弱い人というのは得てしてこういうものです。

紙袋に入れて、それをまたスーパーの袋に入れて、厳重に縛ってごみ箱に捨てました。

ところが、その異様なごみはすぐお母さんに見つけられて、前回以上にきつく叱られました。

そして、その日の夕食にもグリーンピースが出ました。
それから、毎日、お弁当にグリーンピースが入るようになったそうです。

さすがに全部グリーンピースということではなかったのですが、夕食とお弁当には毎回必ずグリーンピースが付くようになりました。

それで、Aさんはどうしたと思いますか?
仕方がないので、夕食のグリーンピースは食べたそうです。

でも、お弁当のグリーンピースは下校途中で毎日捨てていたそうです。

それで、その後どうなったかというと、Aさんはグリーンピースを普通に食べられるようになりました。

でも、大人になった今でもお母さんが苦手という気持ちが抜けないそうです。

「普通の親子のように、お母さんに心を開ききることができない」と、Aさんは言っていました。

外にもいろいろあったようですが、グリーンピースのことは特に忘れられないそうです。

Aさんの話を聞いた後で、Bさんという男の人がこういう話をしてくれました。
Bさんは子どものころ、自分の部屋を片付けなくてよく叱られたそうです。

ある時、またもや片付けができていないのを見つけたお父さんが、怒って2階の窓から片付けてなかった玩具を全部庭に投げ捨ててしまいました。

そして、お父さんは、これから片付けてないものがあったら同じようにすると言いました。

その後も、ときどきお父さんに2階の窓から物を投げ捨てられたそうです。
それで、Bさんは自分の部屋の片付けにはずいぶん気を付けるようになりました。

でも、学校の机の中やロッカーは放っておいたそうです。
当たり前ですよね。

その後、Bさんは高校を卒業すると同時に東京に出て働き出しました。
大学でも就職でもどちらでもよかったし、東京でも大阪でもどこでもよかったそうです。

とにかく、何が何でもお父さんから離れたいというのがBさんの長年の夢だったのです。
そして、今もあまり家には帰らないそうです。

このAさんとBさんの話を聞いたとき、私の中で劇薬の副作用という言葉が浮かんできました。

Aさんのお母さんは子どもがグリーンピースを食べられるようにしようとして、成功しました。
でも、子どもとの温かい関係というとても大切な点では失敗しました。

Bさんのお父さんは子どもが片付けができるようにしようとして、あまり成功しませんでした。
そして、子どもとの温かい関係というとても大切な点でも失敗しました。

もし片付けという点で成功していたとしても、子どもとの温かい関係という点では、もっと失敗していたかも知れません。

このような話はそれほど珍しいものではありません。
程度の差はあっても、これに近い話はよくあります。
皆さん自身も心当たりがあるかも知れません。

今、これを読んでいるあなたも、やっているかも知れませんよ。
でも、本人はなかなか気がつかないものなのです。

医療における誤った対症療法を批判する言葉として、「病気が治ったとき患者は死んでいた」というものがあります。
それを真似して、子育てや教育における誤った対症療法を批判するとこうなります。
「子どもの短所が直ったとき親子関係は死んでいた」

こうならないためには、子どもの一部分にのみ目を向けすぎないことです。
医療では、体全体を見ながら病気の部分の治療も進めていくことが大事です。
子どもの成長のためにも、その子全体を見ながら進めていくことが大事です。

そして、その子全体の調子をよくしていくためには、その子のいいところをほめて伸ばすことが大切です。

そうすれば、親子関係も自然によくなります。
そして、この親子関係がいいということ自体が、子どもを伸ばすために最高に大切なものなのです。

初出「クラッセ」学研ブログ2008年

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