前回は、予定帳を活用して忘れ物を減らすというお話でした。
これと同時に、各家庭で忘れ物を減らすための合理的な工夫をしてもらうことも大切です。

でも、工夫してくださいと言うだけでは無理なので、私は懇談会やお便りを通して具体的な方法を提案してきました。
例えば次のようなことです。

●不要な物を処分する
前年度の教科書やノートが今年度の物と一緒においてあると、間違って学校に持ってきてしまいます。使わなくない物は処分するか、場所をかえて置くようにします。

●持ち物コーナーをつくる
学校に持ってくる物が家のあちこちに散らばっていると、忘れ物の原因になります。
”持ち物コーナー”をつくってそこに置けば、探すのが楽になります。
仕度をしているときに、「あっ、これも持って行くんだった」と気が付くこともあります。

●見える化する
持ち物を”見える化”すると忘れ物が減ります。
ある家では、絶対持っていくべき物は付箋紙に書いて靴に貼っておくそうです。
ホワイトボードに持ち物リストを書いてチェックしている家庭もあります。

毎日持っていく物のリストを、カバンの蓋の内側に貼っている家もあります。
また、毎日持っていく物を写真に撮り、それを玄関のホワイトボードに貼って見える化している家もあります。

習字セットや絵の具セットなど細かい物が多い場合、持ち物の集合写真を撮って、それと見比べてチェックするとわかりやすいです。

●カバンの中身を全部出す
ある家では、子どもが学校から帰ったらすぐ、広くて浅い箱にカバンの中身を全部出すようにしています。
すると、親も学校からのお便りや予定帳を見やすくなり、忘れ物が減ったそうです。

この方法によって、宿題への取りかかりも楽になったそうです。
なぜなら、宿題のプリントや漢字ドリルなども全て出ていて、手に取りやすいからです。

ところで、こういった合理的な工夫をするのと同時に、翌日の支度についてスモールステップで段階を踏みながら指導することも大切です。

一番はじめは、親子で一緒に次の日の支度をしながらやり方を教えます。
二番目の段階は、親が見守りながら子どもに支度をさせます。
三番目の段階は、子どもに自分でやらせて、それから親が確認をします。

○年生だからできて当たり前ということではなく、その子の状態に応じてサポートすることが大切です。
次の段階に進んでもまた前に戻ってしまうこともあります。

そのときの気分や調子にも寄りますので、行ったり来たりでもいいと考えましょう。
気長に付き合うことが大切です。

ということで、こういったことを懇談会やお便りなどで伝えていくといいと思います。

ところで、いろいろ工夫したとしても、それでも子どもたちの忘れ物は必ず発生します。
そこで先生がいちいちカリカリしていると、クラスの雰囲気が悪くなりますし、忘れ物をしていない子たちもとばっちりを受けます。

ですから、子どもの忘れ物があったときも、先生がカリカリしなくて済む方法を工夫することが大切です。
それについて、私の知り合いの先生がいい方法を教えてくれました。

「子どもがよく忘れる物は日ごろからこちらが用意しておいて、忘れた子には貸している。
貸すときに叱ったりイヤミを言ったりはしない。
『今度は持って来てね』くらいは言うこともあるけど」。

それで、私もまねしてやってみたら、その先生が言ったとおり不必要にカリカリすることがなくなりました。

ところが、先生たちはこういうことがなかなかできないのです。
なぜなら、「そういうことをしているといつまでも自分で気をつけるようにならない。
忘れ物をするようなだらしのない性格は今のうちに直さなければ」と思っているからです。

でも、実際には、この連載の19回目に「『子どものうちなら直る』はウソだった。
実は、子どもは自己改造が苦手」というタイトルで書いたように、子どもは自分の性格をかえたり苦手なことを直したりするのが苦手であり、そういうものはかえって大人になってからの方が直しやすいのです。

成長していく過程で、あるいは大人になってから、本当にやりたいことが見つかり目的意識を持って生活するようになれば、その必要に応じて生活面もしっかりしてきます。
忘れ物についても気をつけるようになります。

 ですから、子どものうちに直そうと思いすぎないほうがいいのです。
「直そう!」ということで、苦手なことをつつき続けて自信をなくさせるより、そこには目をつむってほめられるところを探してほめた方が子どもは伸びます。

それに、そもそも子どもの忘れ物に対してこれほど神経質な国は日本意外にはあまりないようです。
諸外国で子育てをしたママさんたちの体験談によると、日本の常識がけっこう特殊であることがわかります。

ヨーロッパのある国(どこかはわすれました)では、鉛筆や消しゴムなどの各種文房具をはじめとして、学校で使う物は基本的に学校で用意するそうです。
ですから、子どもが現地の学校に通っている間は、忘れ物で困るとか叱られるなどということは一度もなかったそうです。

また、自然教室で宿泊するときに「持ち物は何ですか?」と聞いたら、けげんな顔で「必要だと思う物」と言われたそうです。
日本では、詳細な持ち物リストが渡されて、完璧に持っていかないと「忘れ物をした」と言われますが…。

「忘れ物」という単語すら存在しないとのことでした。
そこで、私が調べてみたら英語にもありませんでした。
「忘れ物」に対して、私たちは必要以上に神経質になりすぎているのかも知れません。
もっと気持ちを楽にして臨みましょう。

さて、本連載も今回が最後です。
ご愛読いただきありがとうございました。
これから先生を目指すみなさん、先生という仕事は大変な面もありますが、とてもやりがいのある仕事でもありますので、ぜひがんばってください。

そして、子どもを叱ってばかりの先生ではなく、たくさんほめられる先生、子どもの話を共感的に聞ける先生になってください。

初出『教職課程』(協同出版)2015年2月号

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