前回、「苦手なことも子どものうちなら直るというのはウソであり、実は子どもは自己改造が苦手」ということを書きました。

それに続いて、私は、なにも子どもを今のうちに完成させなくていい、ということも強調しておきたいと思います。

なぜなら、子どもの人生は長いからです。

本人のやる気のスイッチが入るときが必ず来ます。
そして、本人がスイッチを押したときにものすごいことが起こるのです。

先生や親がいくら言ってもできなかったことが、一気にできるようになることもよくあ
ります。
長年の悩みや問題点が一瞬で消え去って、まったく新しい展開が開けることもあります。

私のように大失敗をして将来を真剣に考えたとき、あるいは将来の夢を持ったとき、それがやる気のスイッチが入るきっかけになります。

またこの2つのほかにも、誰か好きな人ができたとか、ライバルを意識するようになったとか、伝記を読んで触発されたとか、テレビや雑誌でがんばっている人を見て刺激されたとか、社会的使命感に燃えるとか、人にほめられたとか、いろいろなきっかけがあります。

でも、このような何らかのきっかけがあってスイッチが入りそうになったとき、実は大きな分かれ目があります。
つまり、実際にスイッチが入る人と、気持ちはあっても実際にはスイッチが入らない人がいるのです。

その分かれ目はどこで決まるのでしょうか?それは、自己肯定感があるかないかで決まるのです。

自己肯定感がないと「やりたいけど、どうせ自分にはできないだろう」「どうせ私なんかダメだろう」という気持ちになってしまいます。
すると、今ひとつスイッチが入りません。

このとき、自己肯定感がある人なら「やりたい。
自分ならできるはずだ」と思えるので、実際にスイッチが入るのです。

ですから、私たち大人は、先生も親も、子どもたちの自己肯定感を育てながら長い目で待つことが本当に大切なのです。

ところが、先生も親もそれができない人が多いのです。
目先のことばかりが気になって、子どもの苦手なところばかりに目がいっていて、「なんで○○しないんだ!」「ちゃんとやらなきゃダメだろ」「こんなことでどうする」「何度言ったらできるんだ」と叱ってしまいます。

それで一番肝心な子どもの自己肯定感をぼろぼろにして、伸びる芽を摘んでいるのです。
私はこれを本当に憂えます。

先生や親にとって、待てるという能力は非常に重要なものです。
待てない先生や親は、必ず子どもの伸びる芽を摘みます。

とにかく、今の日本の教育は、子どもの促成栽培を目指しすぎています。
先生も親も、小さいときから子どもを完成品にしようと、日々子どもを叱って追い立てています。

私はもっと”後伸び”や”大器晩成”という発想を大切にして欲しいと思います。
子どものころはぱっとしなくても、後でだんだん伸びて立派になったという人はいくらでもいます。

たとえば、坂本龍馬は子どものころ弱虫ですぐ泣く子だったそうです。
また、かなり遅くまで寝小便をしていたという説もあります。

でも、大人になるころには体もたくましくなり、精神も気宇壮大になり、動乱の時代において大きな仕事を成し遂げました。

「開運!なんでも鑑定団」でおなじみの北原照久さんは、小学生のとき体育を除いてオール1だったそうです。

でも、玩具という大好きな分野を伸ばしで、コレクターとして世界的に有名になりました。
また、玩具博物館の館長でもあり社長でもあります。

このほかにも、エジソン、アインシュタイン、ダーウィン、岡本太郎など、たくさんいます。
そして、こういう例は有名な人たちだけではなく、私たちの周りにもたくさんいます。

私の小・中学校の同級生でも、子どものころ勉強ができなかったけど、今は会社を5つ経営しているという人がいます。

また、これも小・中学校の同級生ですが、子どものころはかなりだらしがなくて、整理整頓もで苦手で忘れ物も多かったという人が、今は某役所で大きな仕事を仕切って大活躍しています。

私の教え子でも、小学生のころはかなり手がかかって大変だったけど、その後ぐんぐん成長して、今はそれぞれの分野で大活躍しているという人が何人もいます。

ですから、今はそれほどぱっとしなくても、勉強や運動が苦手でも、やるべきこともやらなくてだらしがなくても、それはすべて世を忍ぶ仮の姿です。

あるいは昆虫が羽化して大変身する前のサナギの状態と同じです。
子どもはみんな後伸びの可能性を持っているのです。

ただ、それが開くためには自己肯定感を育ててあげることが大切なのです。
ですから、そういう子どもたちを否定的に叱るのをやめて、よい部分を見つけてたくさんほめて、自分に自信を持てるようにしてあげてください。

自己肯定感があれば「自分ならできるはずだ」と思えて、チャレンジもできるし、がんばるエネルギーもわいてくるのです。
自己肯定感があれば、ここぞというときにスイッチが入るのです。

私は、先生や大人が子どもを長い目で見て待てるようになるために、人生時計というものをお勧めしたいと思います。
これは、人生を1日24時間の時計に当てはめて考えるものです。

日本人の寿命は年々延びているので、今の子どもたちの多くは100才くらいまで生きられるという説があります。
それに則って考えると、100才で24時ということになります。

その計算でいくと、50才で正午の12時です。
25才で朝の6時、12才半で深夜の3時です。
6才なら1時半にもならないくらいです。

つまり、小学生は1時半から3時ちょっと前までの間です。
そのあと中学を卒業するのが3時45分くらいです。

これは、まだ1日が始まったばかりの真夜中であり、夜明けはまだまだずっと先のことです。

小・中学生のころは完全に熟睡している状態であり、まだ目が覚めてもいないのです。起きているように見えても、それはただ寝ぼけているだけなのです。

そのような状態の子どもたちを見て、先生も親も「あれができない。
これができない。
このままで将来だいじょうぶか?」などと心配しているのです。

そんな心配などまったく要りません。
子どもの人生は長いのです。
そして、どの子にもやる気のスイッチが入るときが必ずやって来ます。

ですから、子どもを長い目で見て、自己肯定感を育てながら待つようにしましょう。

ところで、私は今55才なので午後1時をちょっと過ぎたくらいです。
まだまだこれからという気持ちでいます。

これをお読みのみなさんは、人生時計のどれくらいですか? 午前5時をちょっと過ぎたくらいでしょうか?

まだ夜が明けたか明けないかの時間帯ですね。
これからのがんばり次第で人生いかようにもなります。

たとえ、今までぱっとしなかったとしても、ぜんぜん関係ありません。
偏差値が高い学校に行っていなくてもまったく大丈夫です。

そんな過ぎ去った過去のことと、これからの人生は無関係です。
これからの人生はあなたのやる気次第であり、あなたの本気度ですべてが決まります。

自分のスイッチが入ったときにものすごいことが起こるのです。
それを起こすのはあなたです。

夢に向かって果敢に挑戦し、大いに努力してください。

初出『教職課程』(協同出版)2013年8月号

親野智可等のメルマガ
親野智可等の本
遊びながら楽しく勉強
親野智可等の講演
取材、執筆、お仕事のご依頼
親野智可等のお薦め
親野智可等のHP